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セラフィーナの研究室に足を踏み入れた瞬間、アウレリアは思わず息を呑んだ。
壁一面に魔法陣と数式が混ざった図面が貼られ、机には魔導書と科学書が山のように積まれている。
ジュリアンが苦笑しながら言った。
「驚くだろ? 彼女は“魔法捜査”の基礎を作った人間なんだ」
アウレリアは目を丸くする。
「えっ……魔法捜査って、もっと昔からあったんじゃ……?」
ジュリアンは首を振った。
「いや、正確には“今の形”になったのは最近だよ。
昔、この世界に――大昔だが異世界から来た人間がいたらしい。
その人が残した書物には、魔法とはまったく違う“科学”という概念が書かれていた」
アウレリアは思わず前のめりになる。
「科学……?」
「そう。その書物を読み解いて、魔法で置き換えたのがセラフィーナだ。
魔力残滓の解析も、死因探知魔法も、残留映像魔法も……全部、彼女が科学を魔法に翻訳した結果だ」
アウレリアは言葉を失った。
セラフィーナはファイルを抱えたまま、にやりと笑う。
「異世界の知識は面白い。
この世界の魔法は便利だけど、穴だらけ。
だから埋めてあげた。科学的に」
ジュリアンが肩をすくめる。
「彼女の功績がなかったら、今の魔法捜査は存在しなかった。
まあ……そのせいで“変人”扱いされてるけどね」
アウレリアはセラフィーナを見つめた。
魔法が効かない自分の体質と、異世界の科学を魔法に翻訳した天才。
二つの“異質”が、ここで出会った。
セラフィーナはアウレリアに指を向ける。
「君の体質、興味深い的。
魔法が効かないなら……科学的に説明できるかもしれない」
アウレリアの心臓が跳ねた。
セラフィーナがアウレリアに一歩近づこうとした瞬間、
ルークがすっと前に出て、彼女の進路を塞いだ。
「……ちょっと待ってくれ」
低く、いつもより鋭い声だった。
セラフィーナは片眉を上げる。
「何をそんなに警戒してるの?」
ルークはアウレリアをかばうように立ち、静かに言った。
「彼女の体質を調べる必要はない。
俺たちは依頼を受けに来ただけだ」
セラフィーナは肩をすくめ、ファイルを軽く振った。
「別に解剖して実験しようなんてそんなに思ってないよ!
私はただ、事件解決を手伝ってほしいだけ」
アウレリアが驚いたように瞬きをする。
「……どうして?」
「魔法が効かない体質ってことは、魔法捜査の“盲点”を見抜ける。
今回の事件、魔法調査では“事故”と処理された……私は違うと思ってる」
ルークは眉をひそめる。
「警察が事故と判断したんだろう?」
セラフィーナはにやりと笑った。
「魔法調査てのは便利だけど万能じゃないし、まだまだ発展途上的。
だから私は科学を使う。
そして――君は魔法の外側にいる。
その視点が欲しいわけ」
アウレリアは思わずルークを見る。
ルークは一瞬だけ迷い、しかし視線をそらさずに言った。
「……アウレリアを危険に巻き込むつもりなら、協力はできない」
セラフィーナは手をひらひら振った。
「危険にはさせないわ。
ただ、魔法じゃ見えない“何か”がある。
それを見つけるには……君たちの力が必要」
アウレリアの胸が高鳴る。
ルークの不安と、セラフィーナの期待。
二つの視線が自分に向けられている。
アウレリアは小さく息を吸い、言った。
「……話を聞かせて。
事件を解決しましょ」
セラフィーナは満足げに頷いた。
「そうこなくちゃ。」




