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突入したジュリアンは、素早く男に飛びかかり、短剣を弾き飛ばした。
ルークはクラリッサの前に立ち、庇うように腕を広げた。
アウレリアは震えながらも、クラリッサの手をぎゅっと握った。
「クラリッサさん、大丈夫……!もう大丈夫よ!」
男は抵抗しようとしたが、ジュリアンの冷静な動きに完全に封じられた。
「お前がこの事件の犯人か」
ジュリアンが低く言う。
男は歯を食いしばり、睨み返した。
「チッ……ガキどもが……!」
ルークは淡々と答えた。
「ガキで十分だ。お前みたいな奴を止めるにはな」
男は地面に押さえつけられ、動けなくなった。
後から来た、ジュリアンの部下たちに、黒幕のダンを引き渡した
小屋から助け出されたクラリッサは、震える手で口元を押さえ、涙をこぼした。
アウレリアがそっと抱きしめる。
「もう怖くないわ。私たちが来たから」
クラリッサは声にならない声で、ただ頷いた。
その時、ジュリアンが静かに言った。
「クラリッサさん……ヴィクターが待っています。
あなたを助けるために、ずっと……」
クラリッサの胸が痛むほど締めつけられた。
――ヴィクター。
私は、あなたの愛をずっと誤解していた。
涙が止まらなかった。
クラリッサは三人に支えられながら、小屋の外へ出た。
冷たい夜風が頬を撫でる。
その風さえ、自由の証のように感じられた。
小屋の近くには馬車が止まっていて、
その前に――ヴィクターが立っていた。
彼はクラリッサの姿を見た瞬間、
まるで息を飲んだように動きを止めた。
「……クラリッサ……?」
その声は震えていた。
怒りでも、責める気持ちでもない。
ただ、心の底から安堵したような声。
クラリッサは足を止めた。
胸が痛いほど締めつけられる。
――どうして、そんな顔をするの。
――どうして、そんなに私を……。
ヴィクターはゆっくりと歩み寄り、
クラリッサの前で立ち止まりクラリッサを抱きしめた。
「無事で……よかった……」
その一言で、クラリッサの目から涙が溢れた。
「ヴィクター……ごめんなさい……
私……あなたの気持ちを……何も……」
声が震えて言葉にならない。
涙で息が止まりそうだった…
ヴィクターはそっと手を伸ばし、
クラリッサの頬に触れた。
その手は、驚くほど繊細だった。
「謝るのは……俺の方だ。
君に何も伝えられなかった。
そして、君を守れなかった。 ……本当にすまない」
クラリッサは首を振った。
涙がぽろぽろと落ちる。
「違うの……私が……勝手に……
愛されていないって……思い込んで……
あなたの優しさに気づけなかった……」
ヴィクターは苦しげに目を伏せた。
「君が庭を好きだと知って…… 君の好きな色で屋敷を彩りたかった……
でも……どう言葉にしていいか分からなくて…
君が笑ってくれるだけで……それで十分だと思っていたから」
クラリッサは胸に手を当てた。
その言葉が、痛いほど心に刺さる。
「……私……あなたのこと…… ずっと誤解していたのね……」
ヴィクターはそっとクラリッサの手を握った。
「帰ろう、クラリッサ。
もう二度と……君を一人にはしない」
クラリッサは涙の中で微笑んだ。
「……ええ……帰りたいわ……あなたと」




