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アウレリアは、庭師小屋の裏手に回り、地面に残る足跡を観察していた。
その時、ふと視界の端に、白い布切れが揺れた。
拾い上げると、それは女性物のスカーフの端だった。
刺繍は、ヴィクターの妻が写真の中で身につけていたものと一致する。
「……こんな場所に、どうして」
さらに小屋の扉を開けると、棚の奥に小さな箱が隠されていた。
中には――妻が写真でつけていたネックレスとそろいのピアスが入っていた。
アウレリアが息を呑む。
「これ……」
ルークはピアスを見つめ、静かに言った。
「二人は道ならぬ関係だったのかもね…」
その瞬間、事件の輪郭が変わった。
気は重いがヴィクターにダリルとクラリッサの関係について知っていたのか、問うことになった。
アウレリアはため息交じりに、つぶやく
「クラリッサはヴィクターの愛に気が付かなかったのかしらね」
ルークもため息交じりに
「愛ほど難しいものはないってことだよ」
ジュリアンは黙っていた。
ヴィクターの書斎へ続く廊下を歩くが、足取りは重い。
書斎は仕事のためだけの部屋の様で、飾りっ気はなく、本棚にびっしりと本が入れられ、大きな机は書類と設計図で埋め尽くされていた。
書斎へ通された3人は ソファに腰を下ろした。
ヴィクターも正面のソファに力なく座り、疲れ切った表情で顔を上げた。
「……何か分かったのか?」
ルークは一瞬だけアウレリアとジュリアンを見た。
言いにくいことを告げる前の、短い沈黙だった。
「ヴィクター」
ルークが静かに口を開く。
「奥さんと……庭師の関係について、何か知っていたか?」
その言葉に、ヴィクターの肩がびくりと震えた。
目を見開き、しばらく声が出ない。
「……どういう意味だ?」
声はかすれていた。
アウレリアはそっと近づき、優しい声で続けた。
「パーティーの夜、奥さんは何度も庭を気にしていたそうよ。
庭師の姿も消していた。……だから、確認したいの」
ヴィクターは顔を伏せ、両手で顔を覆った。
その仕草は、怒りでも否定でもなく――
“覚悟していた痛み”を受け止める人の様でアウレリアは肩をなでた。
「……気づいていたよ」
低い声が絞り出される。
「いや……気づかないふりをしていたんだな。
クラリッサが最近、俺を避けているように感じていた。 庭に行く時間が増えて……笑顔も、俺には向けられたものではないと感じていた」
ジュリアンが息を呑む。
ヴィクターは続けた。
「あの庭師が、妻に優しくしているのも知っていた。
だが……信じたかったんだ。
クラリッサはそんなことをする人じゃないと。
俺が……ちゃんと愛していると伝えられていれば……」
声が震え、言葉が途切れた。
アウレリアはそっとヴィクターの手に触れた。
「あなたが悪いわけじゃないわ。
でも、真実を知らないと……奥さんを助けられないの」
ヴィクターはゆっくりと顔を上げた。
その目には、涙と、わずかな決意が宿っていた。
「……分かった。
庭師のことも……妻のことも。
どんなに辛くても、向き合うよ」
三人は静かに頷いた。




