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ヴィクターはアウレリアを見つめ、しばらく沈黙した。
やがて、彼の表情がゆっくりと崩れていく。
強がりも、怒りも、徐々に抜けていくようだった。
「……俺は……どうすればいいのか分からないんだ」
ヴィクターは顔を覆い、かすれた声で続けた。
「警察は何も掴めていない。手がかりもない。
もう……誰でもいい。助けてくれるなら……」
ルークは静かに頷いた。
「なら、最初から順番に聞かせてくれ。
奥さんがいなくなる前、何があった?」
ヴィクターは深く息を吸い、震える指先を組み合わせた。
その姿は、つい先ほどまで怒りをぶつけていた男とは別人のようだった。
「……話す。全部話す。
だから……どうか、妻を見つけてくれ」
離れの部屋に、ようやく“協力”の空気が満ち始めた。
ヴィクターは震える指先を組み、ゆっくりと口を開いた。
「……あの日は、妻と共同の事業が成功してね。
二人でずっと準備してきたものが、ようやく形になった。だから、内輪だけで小さなパーティーを開いたんだ。使用人たちも喜んでくれて……本当に、いい夜だった…」
そこまで言うと、ヴィクターは苦しげに目を閉じた。
「だが、途中で……妻は早めに休むと言って部屋に戻ったんだが、部屋の方から、ガラスの割れる音がした。嫌な予感がして駆けつけたら……妻はいなかった。窓ガラスは外側から割られていて、鍵もこじ開けられていた」
アウレリアは息を呑む。
ルークは表情を変えず、続きを促すように頷いた。
「すぐに周辺を探した。庭園も、屋敷の外も、森の入り口まで……だが、どこにもいなかった。
足跡も、争った形跡も、何も残っていない。
まるで……最初から存在しなかったみたいに」
ヴィクターの声は震え、怒りとも悲しみともつかない色が混じっていた。
「その日の夜だ。電話がかかってきた。
知らない声で、“奥さんを返してほしければ、金を用意しろ” と……」
アウレリアの胸がきゅっと締めつけられる。
ジュリアンは拳を握りしめ、悔しさを押し殺していた。
「……それが、身代金の要求だった。
警察にも話したが、犯人の声は加工されていて、手がかりは何もない。
俺は……どうすればよかったんだ……」
ヴィクターは顔を伏せ、肩を震わせた。
その姿は、怒りをぶつけていた男ではなく、ただ愛する人を失った夫そのものだった。
アウレリアは静かに口を開いた。
「つらかったわね…辛いでしょうけど、まずはその夜の状況を、細かく聞かせて。
パーティーの参加者、妻の行動、部屋の状態……全部よ」
アウレリアは優しく、希望を持って話す
「必ず見つけるわ!だから、もう少しだけ頑張りましょう!」
ヴィクターは涙を拭い、弱々しくも確かな声で言った。
「……ああ。妻を取り戻せるなら、何だってする」
ヴィクターはアウレリアが子供だろうと気にしていない様子だった。




