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ヴィクター邸にて
屋敷の門をくぐり庭を抜けると、ふっと空気が変わった。
そこには、バラの香りがほのかに漂う庭園が広がっていた。
色とりどりのバラが咲き誇り、手入れの行き届いたアーチや小道が、まるで物語の一場面のように続いている。数人の庭師が繊細に作業していた。
屋敷の外観も、どこか柔らかい印象を与える淡い色調でまとめられており、重厚さよりも優雅さが際立っていた。
「……こんなに綺麗だったっけ?」とルークが思わず声を漏らす。
この屋敷は大きく、格式もあるはずなのに、どこか“優しく温かさ”が漂っている。
それは、ただの装飾ではなく、誰かの想いが染み込んだ空間のようだった。
ジュリアンが小さく言う。
「この庭園は、奥さんが好きだったものだ。ヴィクターは、あまり感情を表に出す人じゃなかったが……屋敷のあちこちに、彼女の好みが反映されている」
アウレリアは足元の白いバラに目を落とす。
花弁は柔らかく、触れれば崩れてしまいそうなほど繊細だ。
――愛情を言葉にしない人ほど、こういう形で残すのかもしれない。
三人は庭園を横切り、離れへ続く小道を進んだ。
バラの香りが背中を押すように漂い、しかしその美しさとは裏腹に、胸の奥には静かな不安が広がっていく。
使用人が3人をヴィクターのもとに通し、ジュリアンがルークとアウレリアを紹介した
「ヴィクター、こちらはルーク、俺の兄だ、優秀な探偵なんだ、そしてこの少女は兄の助手のアウレリア。奥さんの誘拐事件を解決したい。」
真剣な、ジュリアンを鼻で笑いヴィクターは話した
「ハッ、警察はお手上げなのか?そして自分の兄と子供を連れてきて妻を探すのか。…ふざけるな!」
ヴィクターは身なりは清潔に整えてはいたが、顔はやつれている。
ジュリアンの行動は無責任に感じたのか、いかりを露わにした。
ヴィクターの怒声が離れの空気を震わせた。
アウレリアは思わず身をすくめたが、ジュリアンは一歩も引かず、静かにヴィクターを見つめていた。
「……怒るのは当然だ」
ジュリアンが低く言った。
「大切な人がいなくなったんだ、気持ちはわかる、だけど君も君の奥さんも助けたいんだ!」
その落ち着いた声に、ヴィクターの肩がわずかに揺れた。
ヴィクター怒りの熱が、ほんの少しだけ冷めていく。
少しの沈黙のあと、ヴィクターは強い意志を感じさせる目を向け
「君の、兄なら何とかしてくれる、のか?」
ヴィクターは吐き捨てるように言ったが、怒りではなく、希望を含んでいた。
アウレリアはそっと前に出た。
「私たちは、あなたの奥さんを助けたいだけです。
……どうか、話を聞かせてください」
その小さな声は、怒りに満ちた部屋の中で不思議とよく響いた。




