29
ジュリアンは首を振った。
「警察がバンガローを調べたが、痕跡はきれいに消されていた。証拠も容疑者も見つからない。
捜査は完全に行き詰まっている」
ルークは灰色の瞳を細め、皮肉めいた笑みを浮かべた。
「やれやれ……目撃者を襲ったのは、口を塞ぐためか。だが、誰が何のために?」
アウレリアははっとして
「クラリッサは死んでいる、もしくはいなくなったと思わせたかった…ということかしら」
ジュリアンも同意した。
「あぁ、それがわからないんだ。身代金目的の誘拐なら妻を生かしておく必要は何だ?」
ルークは指先でテーブルを軽く叩き、ゆっくりと口を開いた。
「誘拐の目的は大きく三つだ。金か、恨みか、あるいは……被害者自身の意思が絡む場合」
アウレリアは瞬きをした。
「被害者自身……?」
「そう。狂言誘拐だよ、助手くん。ただし――」
ルークは資料を覗き込み、眉をひそめた。
「この事件はどれにも綺麗には当てはまらない。
身代金は少額、妻は戻らない、目撃者は襲われる。
まるで“生きているように見せかけたい”のか、
“死んでいるように見せかけたい”のか……目的が曖昧だ」
ジュリアンは悔しそうに拳を握った。
「だから捜査が進まないんだ。どの線も決め手に欠ける」
アウレリアは小さく呟いた。
「……誘拐じゃなくて、もっと別の“何か”なのかもしれないわね」
ジュリアンを見つめてアウレリアは提案した
「もし、よかったら机の上だけで捜査するんじゃなくて、ヴィクターに話を聞きたいのだけれど。だめかしら?」
少女の可愛らしい仕草で聞いてみる。
ルークはわざとだと感づいて
「お願い。」
とアウレリアの口調を真似て見せた。
ジュリアンは渋々だが
「あぁ、わかった。しかし、2人ともその話し方はやめてくれ、そして目立つようなことはしないでくれ」
ジュリアンの言葉に、アウレリアはぱちりと瞬きをして、
すぐにいつもの落ち着いた表情へ戻った。
「もちろん。本気で聞きに行くわ」
ルークも肩をすくめて、ふざけた調子を引っ込める。




