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首都へ向かう馬車の中で
馬車は冬の街道を進んでいた。窓の外には白い息を吐く農夫や、凍りついた畑が広がっている。
アウレリアは揺れる座席に身を預けながら、ずっと胸に秘めていたことを口にした。
「……私、前世を覚えているの」
ルークは一瞬、灰色の瞳を見開き、すぐに鼻で笑った。
「ははっ、何を馬鹿なことを。十歳の子供がそんなことを言うなんて」
だが、アウレリアは真剣な眼差しで続けた。
「前世の世界はこの世界よりも科学が進歩していて、みんなが平等な世の中だったの。そこで私は看護師だった。人の命を守るために働いていた。病室の匂いも、患者の声も、全部覚えている。
ふぅ……信じてくれなくてもいいの。でも、嘘じゃないわ」
ルークはしばらく黙り込み、揺れる馬車の音だけが響いた。
やがて彼は肩をすくめ、苦笑を浮かべた。
「……なるほど。君の目を見れば分かる。本気で言ってるんだね。馬鹿げてると思ったけど、どうやら本当らしい」
アウレリアは驚いた、誰にも打ち明けたことはない、どうせ信じてもらえないと思っていたから…少し安堵した。
どうして、ルークに話せたのか不思議な気持ちになりつつも、問いかけた。
「ねぇ、ルークどうして私を王都に連れて行くの?……本当の理由を教えて」
ルークは灰色の瞳を細め、窓の外を見やった。
「父上の依頼は表向きは盗難事件の捜査だ。でもね……王都の小学校はただの学校じゃない。
そこには権力者の子供たちが集まっている。宝石の盗難は氷山の一角だと僕は思う。
教師役をやるのは面倒だからさ、君を潜入させるんだよ」
真剣なのか何も考えていないのか、アウレリアは少し呆れつつ
「あなたが、面倒だから私にやらせるのね。でも楽しそうだから、手伝ってあげるわ」
ルークの隣にトンっと座りルークの前に手を出した。
「これは、なんだい??」
「これから、相棒でしょ?握手をして団結しましょ」
小さな手がひらひらと揺れる。
ルークはキョトンとした後、ふっと笑い、その手を握った。
温もりは頼りなくも確かで、彼の心に小さな火を灯した。
「よろしくね。小さな探偵さん」
窓の外の景色は変わらず流れていたが、馬車の中だけは新しい物語の始まりを告げていた。




