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領主は膝をつき、涙を流した。
「私の欲が……領地の繁栄が……息子を犠牲にしたのか……」
少年は弱々しくも真っ直ぐな瞳で続けた。
「僕は、いずれ領主になる身。父上が選んだ麦が人々を苦しめていることを知った時には、もう遅かったのです。僕には病気にかかった麦を選別し領民の口に入らないよう農家の皆に頼むしかありませんでした」
ルークは灰色の瞳を細め、珍しく軽口を封じ、静かに独り言のようにぼそっと言った
「……未来の領主としての覚悟、か。だが、それはあまりにも重すぎる選択だ」
その時、部屋の隅で震えていた執事が、膝をついて声を絞り出した。
「……私の子は、あの麦で命を落としました。領主様の選択が、我が子を奪った。私は……どうしても許せなかったのです」
領主は顔を覆い、嗚咽を漏らした。
「私の欲が……お前の子を……」
ご子息は弱々しくも真っ直ぐに執事を見つめた。
「あなたの悲しみは分かります。あなたの息子とも友でした。ですが、領地を立て直すのは僕の役目です。もう誰も犠牲にしないでほしい。」
アウレリアは静かに呟いた。
「繁栄の影と人の欲望が重なり、悲劇を生んだ……でも、未来はまだ変えられる」
ルークは灰色の瞳を細め、深く息を吐いた。
「……重すぎる選択だが、これが領主になるということなのだろうね」
夜が更け、屋敷の灯りが静かに揺れていた。
執事は涙を流しながら頭を垂れ、領主はその肩に手を置いた。
「罪は消えぬ。だが……これ以上、誰も犠牲にしてはならぬ」
ご子息は弱々しくも凛とした声で言った。
「領地を立て直します。人々の命を守るために」
アウレリアはその姿を見つめ、胸に温かな痛みを覚えた。
──命を守る使命。それは、彼女自身の生きる理由でもあった。 前世でそうだった様に…
ルークは窓の外を見やり、灰色の瞳を細めて呟いた。
「……重すぎる選択だが、未来は確かに動き始めたようだ」




