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翌朝、ルークが軽い調子で声をかけてきた。
「おはよう、探偵さん。面白い話を聞いたよ。知人が言うには、この件を調べていた人物がいたらしい」
アウレリアは息を呑む。
「……まさか」
ルークは灰色の瞳を細め、真剣な声で続けた。
「そう、ご子息自身さ。彼は自分の父が領地繁栄のためとわいえ、病気になりやすい麦を仕入れていることを知っていたんだ」
「それで、あんな顔して食べていたのね…」
アウレリアはそっと瞳を閉じた。
領主の屋敷へ向かうなか、二人は同じ方向に向かいながらも、ひとことも話すことはなかった。
領主の部屋に通され、ルーク雅思い口を開いた。
「ご子息がなぜ倒れたのか、その原因を突き止めましたよ。もし、よければご子息のお部屋でお話をしたいのですが…」
領主は眉をひそめ、声を荒げた。
「なぜだ?息子が聞く必要があるのか??」
ルークは灰色の瞳を細め、静かに答えた。
「領主様、ご子息はすでに知っているのです。毒だと分かっていて、それでも食べ続けていた。理由を語れるのは、ご子息ご自身だけは?」
アウレリアも一歩前に出て、真剣な声で続けた。
「私はご子息の瞳を見ました。恐怖ではなく、奇妙な決意が宿っていました。領主様──真実を知るべきなのは、あなたよりも、ご子息なのです」
領主はごくっと喉をならし、納得し全員でご子息の寝室へと向かった。
ノックをすると、ご子息の凛とした声で
「皆様、どうぞ中へ」と返事がある。
寝室の扉が静かに開かれた。
重い空気と消毒の匂いが漂う中、ご子息は枕元に身を起こし、弱々しくも真っ直ぐな瞳で三人を見つめた。
領主は震える声で問いかけた。
「なぜだ……なぜ毒だと知りながら食べ続けたのだ?」
少年は一瞬驚いたが目を伏せ、そして静かに口を開いた。
「父上……僕は知っていました。麦が病を呼ぶこと、執事の子供がその麦の毒により亡くなってしまったこたとも。だから、彼の怒りはもっともです。
だから…それを受け入れるのが僕の責任だと思ったのです」
アウレリアは息を呑み、胸のざわめきが確信へと変わった。
──やはり、この子は知っていたのね。




