第1話「永遠子」
――俺は、どうしてタイムリープしたのだろう?
その問いにアンサーするなら、たぶんきっと……家族を救うためだ。あの日、奪われた母さんと姉さんを助けたかった。ただそれだけだ。
今際の際に強く願ったことにより運命はねじ曲げられ、過去の悲劇は修正された。だけど……俺の願いが春萌初苺の運命を変え、この世界に天使マナという存在を生み出した?
だけど……俺は、俺の目的は家族を守ることだ。大切な家族と過ごせなかった時間をもう一度やり直したい。俺は、母さんと姉さんが好きだった。それはきっと揺るがない。
そのためには……どんな犠牲もいとわない。そうでなきゃ、ならないんだ――
――空が高い。
制服の隙間を縫う秋風が涼しい。なだらかな坂道を自転車でくだりながら俺は高い空に浮かぶ散り散りの雲を見上げる。
夏休みが終わって新学期が始まって、そこから少し時間が経った。春萌は相変わらず休みがちだが頑張って登校している。天使は相変わらず不思議な奴だが話してみると悪い奴ではなさそうだ。
……そんなことを考えながら今日も家路へと急ぐ。
「ただいま」
玄関で靴を脱ぎながら声を掛ける。家の中はシンとしているが人の気配がないわけではない。姉さんはまだ学校だからいるとしたら母さんだ。テレビは消えているがリビングから続く和室のふすまが閉まっているから仕事をしているんだろう。
(フリーランスだもんな)
母さんの仕事はよく知らない。あの人はとても家庭的な人だからか仕事の話を持ち出すことが少なかった。あの頃は当たり前に養われていたけど、女手ひとつでふたりの子どもを育ててくれたことの偉大さに気づいたのは失ってからだった。
(お茶でも淹れようかな)
思い立って制服のままキッチンに立つと茶葉とポットを探すが案の定、見つからない。
(こんな簡単なこともできないのか……)
うなだれていると和室のふすまが開いて母さんが俺に気づく。集中していたのか、姿を見るまで帰ってきたことにまったく気づいていないようだった。
「あら、お帰りなさい。ごめんなさい、お腹すいてる? いま……」
キッチンに立っていた俺を気遣う母さんは素敵な女性だと思う。
「いや、大丈夫。お茶を淹れようと思ったんだけどポットの在処すら分からなくてさ」
「ふふっ。ティーポットとお茶葉はシンクの上の吊り戸棚にあるわ。お湯を沸かすケトルはコンロの下の引き出し」
場所を教えながらテキパキとお茶を淹れる用意をする母さんの後ろ姿を見つめてしまう。こんなに細い腕で俺を育ててくれたんだという感謝の気持ちがあふれ出してくる。この人が俺を支えてくれたように俺もこの人を支えたい。
「ここから先はできるから母さんは仕事に戻っていいよ」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわね」
はにかむように笑って母さんは部屋に戻る。俺だって、ふたりがいなくなってから多少は生活スキルを身につけたんだ。そんなことを言っても信じてもらえないだろうけど……あの日失ってしまった時間を取り戻すことができたから、今度はちゃんと伝えようと思うんだ。
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