第2話:誤解された宣戦布告と、システムからの死刑宣告
「ふはははは! 愚かな人類よ、よく聞け!」
奈落の玉座、その中心で漆黒のフルプレートアーマーに身を包んだバルバトスが、カメラ(魔導配信石)に向かって高らかに腕を広げた。
背後では高性能な魔導照明が、禍々しい赤色の演出光を放っている。
「我は退屈した! 貴様らとの馴れ合いは終わりだ。一ヶ月後、我はこのダンジョンを出て、王都を火の海に変える! 止めたくば……死ぬ気でここまで殺しに来い!!」
ゼェハァ……。
どうだ、これなら流石に怒るだろう。
バルバトスは内心で手応えを感じていた。
人類滅亡宣言。
これこそラスボスの真骨頂。
さあ、恐怖しろ、憎悪しろ、そして剣を取れ!
直後、目の前の空中に浮かぶ半透明のコメント欄が、滝のような勢いで流れ始めた。
『キャー! まおーちゃんカッコいい!!』
『新章突入キタアアアアアア!!』
『王都焼き討ち編とか神展開すぎるw』
『【定期】これはRPです』
『赤スパ(奉納:金貨1000枚):王都までの交通費に使ってください!』
『赤スパ(奉納:金貨5000枚):焼き討ち用の松明代です❤』
「……あれ?」
バルバトスは仮面の下で呆然と呟いた。
違う、そうじゃない。
交通費をくれるな。
松明代を支援するな。
そこは
「ふざけるな魔王!」
と激昂して、今すぐ討伐隊を結成するところだろうが。
「えー、あー……そ、そういうわけだから! 覚悟しておけよ! 今日の配信はここまで! 閉廷!」
ブツン、と配信を切る。
バルバトスはゲーミング玉座に深々と沈み込んだ。
「どうしてこうなった……」
「お疲れ様ッス、ボス! 今日の同接、過去最高更新ッスよ!」
ゴブリンADが興奮気味に駆け寄ってくる。
彼の手には本日の収支レポートがあった。
「スパチャ総額、王都の国家予算並みに入ってます! これでまた新しい3Dトラッキング機材が買えますね!」
「いらんわ! 俺が欲しいのは『殺意』だ! 勇者の『剣』だ! 金を投げつけられて喜ぶラスボスがどこにいる!」
バルバトスが頭を抱えたその時だった。
玉座の間の空間が歪み、無機質な警報音と共に、血のように赤いシステムウィンドウが虚空に出現した。
《警告:ダンジョンマスター権限に深刻なエラーを検知》
「なんだ!? 新しいスパムか?」
《規定期間内における『勇者パーティ』との戦闘行為が確認されませんでした。ダンジョン運営規定第666条に基づき、存在意義の消失と判断します》
無機質なシステム音声が、残酷な通告を続ける。
《30日以内に規定ランク以上の敵対者と『本気の殺し合い(デスマッチ)』を行わない場合、ダンジョンコアの維持魔力を停止し、マスター・バルバトスの存在を消去します》
「……は?」
バルバトスとゴブリンADの動きが止まった。
存在の消去。
それは、ただの死ではなく、魔王としての存在そのものが世界からデリートされることを意味していた。
「ちょ、ちょっと待て! 俺は戦いたいんだよ! 向こうが来てくれないだけで!」
《言い訳は無効です。カウントダウンを開始します。残り29日23時間59分……》
一方その頃、王都のネットカフェ『冒険者の休息』
「見たかセシリア! 次のイベントは『王都防衛戦』らしいぞ!」
個室ブースの中で、勇者レオナルドが感涙にむせび泣いていた。
モニターには、先ほどのバルバトスの『宣戦布告』のアーカイブが再生されている。
「ええ、素晴らしい演技力でしたわレオナルド様。コメント欄の統制も完璧に行いました。『マジレス』する不届き者は全員ブロック済みです」
聖女セシリアが満足げに微笑む。
彼女の端末には、大量の『不敬なアンチ(=真面目に危機感を訴える人々)』を書き込み禁止にしたログが並んでいた。
「一ヶ月後か……。それまでに装備を新調し、王都の広場で最前列を確保せねばならんな。
ああ、待ちきれない!」
「公式グッズの『滅亡Tシャツ』も予約しませんとね」
彼らは気づいていない。
推しが「ガチで」
命の危機に瀕しており、今度こそ本当に殺し合わなければ、彼が消滅してしまうという事実に。
奈落の玉座にて、バルバトスは震える手で兜を押さえた。
「……やるしかない。あいつらに、本気で俺を憎ませて、殺しに来させる」
生き残るために、死ぬほど戦いたい。
矛盾した、しかし切実な目的がここに確定した。
「ゴブリン、緊急企画会議だ。どうすれば炎上商法ではなく、ガチの『炎上』ができるか……これまでの『いい人キャラ』をすべてドブに捨てる最悪の悪行を考えるぞ」
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【登場人物】
- システム音声: ダンジョン管理システム / 警告者
【場所】
- 王都のネットカフェ『冒険者の休息』: 高速の魔力回線を完備した施設。本来は情報のやり取りに使われるが、現在は勇者パーティを含む多くの冒険者が、ダンジョン攻略をサボって配信を見るための聖地となっている。
【アイテム・用語】
- システムウィンドウ: ダンジョンの運営状況を告げる赤い警告画面。ボス権限の剥奪を通知してきた。
- ダンジョン運営規定第666条: ボスが長期間戦闘を行わない場合、その存在を消去するというダンジョンの絶対ルール。
- 滅亡Tシャツ: バルバトスの「人類滅亡宣言」を受けて即座に企画された(と思われる)ファングッズ。




