第1話:人類最強のラスボス、今日も元気に配信中!
ダンジョン地下100階。
かつて数多の冒険者が絶望に沈んだ「奈落の玉座」は、今や異様な熱気に包まれていた。
漆黒のフルプレートアーマーに身を包み、禍々しいオーラを放つ骸骨騎士――人類の敵、魔王バルバトス。
彼は今、高性能な魔導照明に照らされながら、あろうことかゲーミング玉座に座り、虚空に浮かぶ水晶体に向かって手を振っていた。
「――はい、こんまお~! 奈落の底からお届けしてます、まおーちゃんです! 聞こえてるかな~?」
その声は、見た目の威圧感とは裏腹に、近所の兄ちゃんのように気さくだった。
「ボス、音声バッチリっす。同接もう5万人超えてます!」
カメラの死角でカンペを出しているのは、ヘッドセットを装着したゴブリンADだ。
本来なら冒険者に襲いかかるはずの雑魚モンスターも、今や立派なスタッフである。
「おっ、早いね~! あ、勇者くん赤スパありがとね~! 『今日の鎧の光沢も最高です』って、いや~昨日の夜にスライムオイルで磨いた甲斐があったよ。でもさ、俺としてはそろそろ剣を交えたいなって……」
バルバトスの目の前に、空間転移で『奉納』された金貨の山が降り注ぐ。
チャリンチャリンという音が心地よいBGMとなり、視聴者のテンションをさらに加速させた。
バルバトスはため息をつく。
(違うんだよなぁ……。俺は人類を絶望させたいわけじゃないけど、ラスボスとしての威厳は見せたいのよ。なのに、なんで皆ファンになっちゃうの?)
きっかけは3年前。
倉庫整理で見つけた古代のオーパーツ『魔導配信石』を、暇つぶしに起動したことだった。
最初は誰も来なかったが、たまたま迷い込んだ冒険者に「ようこそ、死にたくなければチャンネル登録してね」
と言った瞬間、何かがバズったらしい。
今や登録者数は100万人超え。
人類最強の脅威は、人類最高のエンターテイナーになっていた。
一方その頃。
ダンジョン99階層、ボス部屋の巨大な扉の前。
伝説の聖剣を背負った青年、レオナルドが血相を変えて叫んでいた。
「総員、撤退だ! 今すぐ宿屋のWi-Fi環境へ急げ!!」
「えっ、勇者様!? ボスはもう目の前ですよ!?」
新入りの魔法使いが困惑するが、レオナルドは聞く耳を持たない。
彼は懐からスマホ型の水晶端末を取り出し、画面を食い入るように見つめた。
「馬鹿野郎! 今ここで突入したら、20時から始まる『まおーちゃん3周年記念・重大発表配信』の待機列に間に合わないだろうが! 俺はこの日のために、国からの討伐予算を全部赤スパ用に換金してきたんだぞ!!」
「さ、最低だこの勇者……」
その横で、聖女セシリアが杖を握りしめながら、無表情で虚空を睨んでいた。
彼女の目の前には、魔法で投影されたチャット欄が高速で流れている。
「……コメント欄のルールは読みましたか? 『鳩行為』は禁止です。次にその話題を出したら、女神の慈悲(物理)で貴方のIPアドレスごと浄化しますよ?」
彼女の指先が光り、遠隔地で荒らしを行っていた視聴者の端末が爆発したような音が響く。
鬼のモデレーター、ここにあり。
「ほら、セシリアもこう言ってる! 帰るぞ! 今日の俺たちは勇者じゃない、ただのリスナーだ!」
「はいはい、ボス部屋前で記念撮影したら帰りますよ。……あ、ボスが私のコメント拾ってくれた。尊い」
結局、勇者パーティは扉を開けることなく、全速力で地上へと「戦略的撤退」を開始した。
玉座の間にて。
気配察知スキルで勇者たちの撤退を感じ取ったバルバトスは、ガクリと肩を落とした。
「……あれ? 今、ドアの向こうに強い気配あったよね? ……帰っちゃった?」
「ボス、ドンマイっす。多分、回線が不安定だったんじゃないっすか?」
「そっかぁ……。じゃあ気を取り直して、今日はマシュマロ読みながら雑談枠やるよ~!」
最強のラスボスが倒される日は、当分来そうにない。
-------------------------------------------------------------------------------------
【登場人物】
- バルバトス: 主人公 / ラスボス兼配信者
- ゴブリンAD: 配信アシスタント / 元雑魚モンスター
- レオナルド: 聖剣の勇者 / まおーちゃんのTO
- セシリア: 聖女 / 鬼のモデレーター
【場所】
- 奈落の玉座(兼スタジオ): ダンジョン地下100階にあるラスボスの間。配信機材と防音設備が完備されている。
- ダンジョン99階層: ボス部屋の直前。勇者たちが撤退を決めた場所。
【アイテム・用語】
- 魔導配信石: 映像と音声を世界中に送信できるオーパーツ。
- 奉納: 空間転移で金貨などを直接送りつける投げ銭システム。
- ゲーミング玉座: バルバトスが座る高機能な椅子。




