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第22話 七緒少年の気脈の円環(ループ)


リュイエールの元へ駆け戻ったぼくは、どすんと買い物カゴを置き、さっそく仕掛け作りに取りかかる。


ぼくは妖狐の眼を見開き、星の御守りの中に流れる気脈(魔力)を覗き込む。

星の中に描かれた魔法陣にそって、気脈が緩やかに流れていた。


ぼくにはその流れが、極細の繊維で出来た束のように見える。

赤ん坊の髪の毛よりも細い、柔らかな白銀の繊維だ。


ぼくはその動きを見定めながら、自分の衣服を自在に形作る要領で、両手の親指、人差し指、中指の爪をピンセットのように鋭く伸ばした。

その細い爪先を、☆型の御守りへ取り憑かせ、差し込んでいく。


爪の変形も取り憑きも、妖狐であるぼくだからこそできる能力だった。

ぼくがヒノモト時代から培ってきた、妖術なのだった。


「何をしているのナナオっ!?」

「えっと、あの、えっとっ……」


意識が魔法陣に集中しているから、なかなか言葉が出てこない。

えっと、そのと言うだけで、お師さまへの返事がおざなりになってしまった。


今はお師さまに説明する時間さえ、惜しかった。

これからやる事は、ぶっつけ本番で上手く行くか分からないから。


だけどやるしかない。

いまは魔法陣に集中しなきゃ駄目。

お師さまもそれを察してくれて、ぼくへ襲いかかるゾンビ掃除に徹してくれた。


「えっと、ここが出力だから、ここをたどってっ」


緊張で爪が震える。

そんな震えを、ぼくは思い切り脇をしめて強引に抑え込む。


ぼくは爪先で、白銀の繊維を数本引っ掛けた。

そのまま引っ張ると、溶けた水飴のように気脈が伸びる。


同時に別の爪で、描かれた魔法陣の一部を軽くひっかく。

慎重にひっかいて魔法陣の線を数ミリ消し、気脈の流れを一時的に止めた。


伸ばした気脈を、塩の詰まったガラス瓶の「気脈」に接続する。

星のオブジェは良くできた御守りだけれど、ゾンビの呪いに対抗するには弱すぎた。

そこでぼくは、他の気脈を付け足して補うつもりだった。


この世界では、万物に気脈(魔力)が宿っている。

塩にもしっかり気脈が宿っており、塩の持つ浄化能力はかなり高い。

ぼくはその力を星の御守りに足して、強化するつもりだった。


さらに塩の「気脈」を爪のピンセットで引き延ばして、一緒に持ってきた3本の包丁にくっつける。

包丁には長い間あらゆるモノを切ってきた、「呪物」としての力があって、それを邪気を払う強さとして付け足す。


ぼくはその包丁からまた「気脈」を引っ張りながら、リュイエールの脳を凝視した。

赤いゾンビの呪いに侵されそうになっている、リュイエールの脳。

意識の源。


「ふうっ、ふうっ、ふうっ」


ぼくの息が荒い。

整えようとしても乱れてしまう。

ここで接続に失敗したら、リュイエールは助からない。

それを思うと手が震えて、爪先が大きく揺れた。


「ふー、ふー、ふー、すうううううっ」


ぼくは大きく息を吸って、呼吸を止めた。

僅かの間、手の震えが止まる。


その間を逃がさず大胆かつ慎重に、リュイエールの脳へ包丁の「気脈」を接続。

続けて、新たに脳から引っ張りだしたリュイエールの「気脈」を、星の御守りへと接続した。


これで星の御守り。

塩の瓶。

包丁。

リュイエール。

そしてまた星の御守りと、気脈の円環(ループ)ができたはず。


こうすることでリュイエールの脳は、「星の御守りの一部」となったはず。

たのむ、おねがい!


ぼくはスターター代わりに、神使としての息吹を吹きかける。

息吹と共に、気脈のループが滑らかに回り始めた。


「やった、回ったっ!」


だけどまだ足りない。

ゾンビの赤い気脈は、御守り化した脳を嫌がりながら、どこかに隙間はないかと、旺盛に枝葉を伸ばそうとしていた。

ぼくはリュイエールを抱き上げると、近くに流れる川幅の広い用水路へと向かった。


「お師さまぼくを守って下さいっ、お願いしますー!」

「な!?」


両手でリュイエールを抱えているため、ぼくは全くの無防備だった。

だがお師さまを信じて、ぼくは戦場のど真ん中を突っ切り、反対側の用水路を目指す。


「なにやってのもうっ!」


お師さまは頬を膨らませながらも、ぼくの周りで悪霊の鎖(ゲーストチェーン)を乱舞させた。

ぼくはリュイエールを抱えながら、川岸へたどり着く。


用水路の両サイドには木々が植えられていて、みんな川面の方へ傾いていた。

ぼくはその一本へ触れて、木に謝る。


「ごめんなさい」


そう言いながら樹木から「気脈」を引っ張り出し、リュイエールへ繋げた。

星の御守りとは別に、木とリュイエールの間に気脈の円環(ループ)を作る。


用水路の木とリュイエールの生命は一時的に同化して、ゾンビの赤い気脈は弱った幼子でなく、より強く生命力のある樹木の方へ「脳」を求めてにじり始めた。

これはヒノモトで行われる儀式、身代わり(ひな)の応用だった。


そこまでしてやっと、リュイエールの体内への浸食が止まる。

だけどまだ油断はできない。


浸食が止まっただけで、退いた訳じゃない。

赤い気脈はその場に留まり続けている。

けれどこの状態を保てれば、僧兵の到着まで持ち(こた)えられると思う。


ぼくは「星の御守り、塩、包丁」の入った買い物カゴを、しっかりとリュイエールに抱かせて、耳が遠くなった少年へ大声で話しかけた。


「リュイエールっ、このカゴを決して離さないでっ。

それとこの木からも、絶対に体を離さないでっ!

リュイエールっ! 君は助かるっ!

絶対に助かるからっ!」


「うわああああああんっ」




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