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第2話 七緒少年とお師さま


「ナナオ、朝食ができたぞ」

「有難うございますフーリーさん。それじゃあ、お師さまを呼んできます」


ぼくはムクリと起き上がると、自分が火炎となるイメージを作る。

するとぼくの輪郭が朧気(おぼろげ)となっていき、子供の握りこぶしほどの火球になった。


それは俗に、人魂や狐火と呼ばれる代物。

ぼくは転生前と同じように、お稲荷さん(妖狐)としての術が使えるのでした。

問題なく使用できて、むしろこっちでの方が調子いい。

青白い狐火のぼくが扉を開けずに台所へと入り、そのまま台所も素通りして、館の中庭へと抜け出る。


その中庭も横切って、館の北面1階にある“お師さまの作業場”へと向かった。

ぼくは作業場の前でくるりと1回転し、元のぼくの姿へと戻る。

そのときシャツに付いていた血が、キレイさっぱり無くなっていた。

炎に化けた際、表面に着いた物理的な汚れが、全てほろりと落ちるのでした。


ぼくの着ているシャツや半ズボンは、全て自分の体表面を変化させたもので、その形は自由自在。

今は素足ではなく、革に似せたサンダルも履いている。

これはぼくの妖狐ならでわの特技だと思う。


フーリーさんやお師さまからは、

「つまり化け狐とは、常に裸なのだな」と言われて、ぼくは断じて裸じゃないですといつも抗議している。


コン コン コン


ぼくは作業場の扉をノックした。

けれど返事はなかった。

ぼくは元から返事なんか期待してなくて、ミスリル銀の重い扉を押し開く。


「お師さま、朝ごはんですよ」


室内へ入ると、正面には大きな作業台が見える。

台の上には様々な形の魔法具が、乱雑に置かれていた。

その作業台の向こう側。

部屋の一番奥には、ぼくよりも大きい(かま)がどでんと鎮座していた。


左右の壁には食器棚がいくつもあって、そこには様々な紙箱、カンカン、ビン詰めが雑に突っ込まれている。

しっかりと項目ごとにしまわれているらしいけれど、ぼくには全てゴミに見えた。

作業台を左へ回り込むと、左壁の食器棚の脇に長ソファーがあって、そこにはあられもない姿で獣人の女の人が眠っていた。


濡れたような艶を放つ長い黒髪。

透き通るような白い肌。

身に付けている物は、レースのショーツだけ。


獣人の女の人は、自分の黒い尻尾を抱き枕にして丸くなっている。

ぼくは華奢(きゃしゃ)な肩に触れて、軽く揺り動かす。


「お師さまお早うございます、ご飯ですよ。

こんな所で寝ないで下さい。

自分の部屋で寝て下さいよ」


ぼくがお師さまと呼んだ女の人は、獣耳をぱたぱたと動かすだけで、眼は開けてくれない。


「嫌よ、私の部屋4階にあるのだもの。面倒くさいわ」

「まったくもう」


ぼくが呆れながら眺める裸の女性。

この獣人の女性こそが、赤ちゃんで転生したぼくを、引き取り育ててくれた魔導師だった。

ぼくはお師さまに大恩を感じているけれど、この方の生活習慣は何とかして欲しいと思っている。


くんくんくん

お師さまの鼻が、ひくひくと動いた。


「あら血の匂いがする。また切り飛ばされたのね」

「今日はフーリーさんに褒められました」


「……初めはただの気分転換だったでしょう?

今じゃ随分な熱の入れようね」


「やってみると面白いんです。

赤ん坊が歩くのを覚えるように、体の使い方を一から覚えていくのが。

ヒノモト(むこう)では随分と、自堕落な生活をしていましたから」


ぼくは肩に手をやり、首をコキリと鳴らす。

ぼくは中性的で、普段お人形さんのように可愛いらしいけれど、時々オッサンのような仕草をしちゃう。

それを見かねたお師さまが、ジト目になる。


「こらナナオ、おっさんくさい仕草はしないって約束でしょ。

まあ、中身が400歳ごえの妖狐だってのは知っているけれど、今は子供なのだから可愛らしくしてっ」「あ、ごめんなさい」


お師さまとフーリーさんは、ぼくの中身を知っている。

とある辺境で生まれた赤子は、生まれながらに酔い潰れて、未知の言語を話した。

そのため悪魔として恐れられて、生まれて直ぐ教会へ引き取られた。

けれどその教会も扱いに困り果てて、赤子は岬に住む魔導師へ預けられる。


この子には保護する者が必要。

そう言って羊の乳を人肌に温め、ぼくに飲ませてくれたのが、いま目の前にいるお師さまだった。

そんな経緯があったので、ぼくは話せる赤ちゃんとしてお師さまに尋問をうけて、自分が何者なのか洗いざらい喋らされている。


「へへへ」


ぼくが可愛らしく小首を傾げて笑うと、お師さまがまずまずといった感じで(うなず)いてくれた。


「ふ~ん、ちょっとあざといけど……まあいいわ可愛い。

合格点ね。

ねえナナオ、私の朝食持ってきてくれる?」


「駄目ですよ、こんな汚い所で」

「ひどいわ、汚くないもの」

「あの、良かったら片付けますけど」

「駄目、ここまで掃除されたら、私の領域が無くなってしまうわ」


お師さまはイヤイヤしながらソファーから起き上がり、う~ん~と唸って背伸びをした。

ぼくの前で形の良い真っ白な胸が、ふるふると揺れる。

ぼくはちょっとだけ目を逸らし、やっぱり視線を戻した。


「困ったものね。

ナナオが来てから、私の生活空間がどんどん健康的になっていくわ」


「いいじゃないですか」

「うん、いいわね」

「それじゃちゃんと服を着て、食堂に行きましょう」

「面倒くさいんだけど」


そう言って手をひらひらさせるお師さまに、ぼくは口を尖らす。

お師さまは気だるげに、ゆっくりと作業場を見回した。


この部屋以外は、ぼくが掃除をしてしまって、館が見違えるほど綺麗になっている。

ぼくは“ケガレ”と言う思想を持っていた。

自分の住む場所は“ケイダイ”と定めていて、いつも綺麗にしておかないと気が済まない。

お師さまは寝ぼけた眼で大きな欠伸(あくび)をする。


「ふああ……あふん。

ナナオはとっても可愛いけれど、中身がおっさんなのが困りものねえ」

「いいじゃないですか、んもうっ」


お師さまは肩をすくめて、床に散らばる衣服を拾い始めた。





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