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第19話 地下墓地(カタンクーペ)


旧市街区の外れに宿舎があり、そこに常時300名の修道院僧兵がいる。

しかしこれだけでは圧倒的に数が足りないので、予備役を使う。


旧市街の中央に建つ教会。

その真下には、巨大な地下墓地(カタンクーペ)が広がっていた。


カタンクーペには過去に落命した30000名の僧兵が眠っており、彼らは死してなお、旧市街区の守護者としてそこに保管されているのだった。

地上の教会から命令を受けた動く屍たちは、身を軋ませて暗い地下道を歩き、地上を目指す。


骨だけの体に生前同様の修道服をまとい、その上にチェインメイルを着込んでいた。

手には金属製の長杖(スタッフ)を持ち、それが狭い石道に当たって耳障りな音を立てる。


旧市街の地下には網の目のように地下道が張り巡らされており、予備役の僧兵(アンデッド)はどこからでも出入りすることが可能だった。


街の広場、図書館、公園ベンチの脇、裏通りの行き止まり、老舗パン屋の床下。

あらゆる場所に出入口があり、そこから続々と僧兵が地上に現れた。



    *



お師さまが僧兵の出てくる様子を、屋根上から見つめて歯嚙みしている。


「やっぱり、これじゃ僧兵を外に出せないわっ」


城壁門では、今もまだ群衆が切れ間なく密になだれ込んでいた。

現役の生きている僧兵たちが、何とか流れを割って道を作ろうとするけれど、恐怖に駆られた獣人たちの足を全然止められない。

これではアンデッド僧兵を新興街区へ出せなかった。


「獣人たちを入れる前に、僧兵を出すべきだったか」


「同じことよフーリー。

門の前は、既に群衆で埋め尽くされていたのだもの。

開けたらどうやっても、こうなるわ。

ああっ、だからスタンピードの前に、出せって言ったのにっ。

ヒューデルタのヤツっ!」


こうなると、群衆の流入が穏やかになるのを待つしかなかった。

悔しがるお師さまは、フーリーさんとぼくへ顔を向ける。


「フーリー、ナナオ。

ここは僧兵に任せて、私たちは新興街区へ戻るわよ。

僧兵が来るまでに、一体でも多くゾンビを倒すの」


「承知した」

「はいお師さまっ」


「ナナオ、ゾンビに嚙まれて発症するまでに40分。

発症しても初期ならまだ助かるわ。

見ればすぐ分かる。

発症して、変化していく自分に怯えているから。

だから見つけても、怯えているなら殺さないで。

僧兵が駆け付ければ、治療が間に合う」


「はいっ、あの初期って、どの位の時間なんでしょうか?」


その問いに、お師さまは苦々しく答えた。


「……10分よ」

「10分!?」


ぼくは10分と聞いて、顔が青ざめる。

たったの10分。

それはもう絶望にしか聞こえなかった

けれどそれでも、やらなきゃいけない。


「発症して10分経てば正気を失い、もう戻れなくなる。

そうなったらナナオ、躊躇(ためら)わずに殺しなさい」


「くうっ」



    *



イヨールの夜を襲うゾンビの被害は、拡大の一途をたどっていた。

あれほど岬の魔女をあざ笑っていたハンターギルドの冒険者たちが、今は最前線に立ち、剣やハンマー、斧を振るい続けている。


その眼は皆、一歩も退かぬ固い決意を宿していた。

腐っても、街を守る気概は残っていたようだ。


だが食いしばる歯の間から、焦りの唸り声が混じるようになる。

ゾンビの中に、段々と綺麗な身なりのタイプが増えてきた。


皮膚(ひふ)のとろけたゾンビではなく、まだ張りのある、ヘタをすれば血色の良いゾンビたちが……


「2次ゾンビだっ。

嚙まれた奴らが、どんどんゾンビになってやがるっ!」


「ふざけんなよっ、あいつパルメ通りのテレサじゃねえか!?

サーシャもいるっ!?

くそくそくそっ……バカヤロウっ、くんなっ、くんなーっ!」


冒険者もこの街に住む獣人たちだ。

それぞれに生活があり、馴染みの通りには行きつけの飲み屋もある。


好みのパン屋だってあるし、たまには女のために花だって買う。

そんな日々の顔なじみの者たちが、手遅れとなりゾンビ化していた。


白濁した眼で、訳の分からぬ叫び声を上げながら、冒険者たちへ走りよってくる。

ギルドの者たちにとって、ゾンビを切り伏せるのは容易いだろう。


しかしこの様な形で、知人を、友人を、もしくは夜を共にした女たちと、別れを告げるとは思ってもみなかった。

凶悪な魔物と対峙した恐怖とは、全く別種の恐れで冒険者たちの手が震える。

ゾンビ化した、テレサとサーシャを切り伏せた冒険者が、その場で吐いた。


「くそおおおっ……僧兵はまだかっ!?

まだなのかああっ!?」


「泣き事をいう暇なんてあるの?

あなたがいれば、この街は守れるんでしょ?」


男へ冷たく放たれた女の言葉。

誰かと思えば、男をぶっ飛ばして堤防から落とした、あの女がいた。


男は眼を見張る。

女の全身が、腐肉まみれだからだ。


一体どれだけ、ゾンビを倒せばそうなるのか。

凄惨な女の立ち姿に、男は身震いする。


「私に絡んだ元気は、どこへ行ったの?」

「お……お前は、岬……さまっ」


岬さんよ~っと絡んでいた男が、今度はちゃんと「さま」を付けた。


「もたもたしているけど、僧兵は必ず来るからっ。

あたしが見てきたからっ。

だから来るまで、意地を見せなさいよっ」


「くっそお、あんたすげえよっ、あんた岬さまーっ!」

「泣くなバカっ」




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