表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/25

第12話 海上の大赤斑(だいせきはん)


この世界で「魔力」と呼ばれるものを、ぼくは「気脈」と呼んでいた。

気脈は物質により、様々な形へと変化していく。


ただ共通して言えることは、良い気脈とは川の流れのように(とどこお)りが無いと言うこと。

すっきりした流れをしているんです。


すっきりしていなければ、そこには何かしらあると言うこと。

ぼくはほんのひと時、海に背を向けて、お師さまとフーリーさんの喧嘩っぷりに惚れ惚れとしていた。


「うはーっ♡」


機械人形(オートマタ)」と呼ばれる種族のフーリーさんならともかく、お師さままでが魔法も使わずに、ステゴロができるなんて知らなかった。


「ん?」


ぼくはお師さまの背中を見つめる。

おっと、魔法も使わずにとは少し違った。


黒いローブの内側。

お師さまの背中で、気脈が「8の字」にぐるぐる回っているのが見える。

何かしらのお手製の「魔道具(マジックアイテム)」を、発動させているようだった。


お師さまの肩書は五教の修道院長だけど、本職は「魔道具作り」だったりする。

お師さまが作る魔道具は、その界隈でけっこう有名らしい。


だからちょっと思う。

将来はぼくも、その魔道具作りのお手伝いを――


「はうわっ」


ぼくが人生設計のような思考を巡らせていたら、気脈に(ささや)かれた気がした。

ぼくは慌てて顔を戻し、海を見つめる。


「ああっ!?」


通常、海の気脈(魔力)は、海流に沿って川のように流れていた。

妖狐の眼でそれを眺めると、海面のすぐ下に白銀の大河が見える。


その流れの中に、ぽっかりと赤い穴が開いていた。

それはまるで、巨大なガス惑星の大赤斑(だいせきはん)のような大穴だった。


気脈の大河は乱れながら、その穴を避けるように西から東へと流れている。

ぼくは流れに逆らう大赤斑を見た瞬間、白い尻尾がパンパンに膨れ上がってしまった。


「おっ、お師さまー!

お師さまっ、お師さまああああっ!」


「来たのねっ」


ぼくの叫び声に、お師さまは男へアッパーカットを食らわせながら振り向く。

ちょっと鼻血が出ているけれど、お師さまの美しさは損なわれていない。


そして火事と喧嘩は止めようにも、なかなか止まらないもの。

お師さまは勢いの止まらない冒険者たちを、殴りながら尋ねる。


「どこなの!?」ガコンッ


お師さまに、気脈の流れは見えない。


「港の正面に、大きな穴がありますっ、ぽっかりっ!」

「ぽっかりなのねっ!」


お師さまは、全身ずぶ濡れの男を掴み怒鳴った。


「聞いたでしょっ、スタンピードが来るわっ!」


襟首を掴まれた男は、最初に海へ落とされた男だった。

海から上がってもう一度ケンカの最前線にくるなんて、なかなか根性がある。

男は怒りと酔いと鼻血で、顔を真っ赤にして吠え立てた。


「来るわきゃねえだろっ、つまらねえ嘘付きやがってっ!

街のことに、首突っ込むんじゃねえっ。

俺たちが体張って守ってんだっ。

ぽっと出で住み着いたよそ者が、ガタガタ抜かしてんじゃねえぞおっ!」


「だから来るって言ってるでしょ!」ゴキンッ

「ぐはあっ」


お師さまが股間にローキックを食らわすと、男は前かがみとなり、生まれたての小鹿のように足を震わせた。

けれど倒れないっ。

剣士は歯を食いしばって意地を通す。


「俺があっ……俺がいる限りっ。

この俺がああああああっ!」


「お師さまあああああっ!」


剣士とぼくが同時に叫んだその時――海面が爆発した。

突発的に高波が堤防へ襲い掛かり、その上で暴れていた血の気の多い連中を、きれいさっぱり洗い流してしまう。

その中でぼくたち3人だけが、ずぶ濡れになりながら高波をしのいで、堤防に留まった。


お師さまとフーリーさんは拳を、ぼくは妖狐の爪を堤防へ突き立てていた。

ぼくは海水でしみる眼を見開き、口をあんぐりと開ける。

ぼくのすぐ脇の上空。

星の瞬く夜空に、巨大なクジラが浮かんでいた。


いや、なんか違う。

クジラと言うよりも、もっと胴の長いウツボのような形をしてた。

その巨大なシルエットが星空を切り取るようにして、くっきりと見える。

浮かんでいるのではなくて、クジラのように海中から勢いを付けて飛び出したようだった。


さっきの爆発は、大赤斑から巨大魚が飛び出した水飛沫だった。

その巨大さのあまり、ぼくたちの上空を通過するとき、まるでスローモーションのように見える。

全身から海水を滴らせながら、ゆっくりとした大きな弧を描き、港の街へ――


その間、誰も何もできなかった。


ぼくもお師さまも、フーリーさんも、真夜中に泳ぐ羽目になった冒険者たちも、巨大魚が落っこちて、街を押しつぶすのをただ見ているしかなかった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ