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生と死の戯れ

作者: 辰巳 結愛

当作品は、「アンチチート転生物」です。

(途中までは)私なりの「チート転生」に対する批判的意見が多分に含まれております。

それを踏まえた上で、お付き合い頂けましたら幸いです。

「暇だねぇ、兄弟」

「全くだね、兄弟。僕達を暇にさせるなんて、この世で最も罪な事だよ」

「あの世でも罪だよ、兄弟。これはもう最高の罪さ」


 オレの目の前でそんな会話を繰り広げているのは、白と黒の双子。

 顔は同じ、声も話し方も同じ。違うのは服と髪の色だけだ。

 見た目16、7くらいに見えるが、実際はよくわからない。

 それよりも幼くも見えるし、逆に大人びても見える。

 暇だ暇だと喚いては、まるでオレが何かを言い出すのを待っている様な視線を送って来る。


「ああ、本当に暇だよ兄弟。余りにも暇過ぎて、うっかり彼を死なせちゃったよ」

「しょうがないよ兄弟、暇だったんだもの、そう言ううっかりだってあるよ」


ちらっ


 ……おい待て、何だその意味深な視線は。

 つか、聞き間違いか?今、「うっかり死なせた」とか言わなかったか?

 ……あー、きっとこれは夢だな。

 寝る前に、今度の舞台でやる「チート勇者な転生物」の台本を眺めていたから、その影響だろう。

 内容は確か……神の過ちで寿命を迎える前に死んだ主人公が、「お詫び」として「何でもアリ」の能力を嬉々として貰った挙げ句、住んでいたのとは違う世界で、残りの人生を勇者として大暴れしたり、女の子にモテまくってウハウハ……とか言う、脚本家の欲望丸出しの超三流シナリオだったっけか。

 まあ、オレも男ですから、ハーレムに憧れを抱いていないと言ったら嘘になるけどさぁ。


「……兄弟、どうやら夢って扱いにされていそうだよ」

「夢じゃないのにね、兄弟。本当にお兄さんは兄弟がうっかり殺しちゃったって言うのにさ」


 だから、「うっかり」ってなんだ、「うっかり」って。

 むしろオレには故意しか感じられないんだが、気のせいか!?


「ようやくお兄さんが僕達に興味を示した様だよ、兄弟!」

「そうだね兄弟。神様である僕達を無視するなんて良い度胸だけど、うっかり殺しちゃったからおあいこだよね」


 ちょっと待てクソガキ共。

 我が夢ながら色々とツッコミを入れたいが、とりあえずまずは……このガキが「神様」?

 何だ、この展開。


「フフ、兄弟、お兄さんが混乱しているよ」

「仕方ないさ兄弟、だってお兄さんは死んじゃったばかりだもの」


 随分と楽しそうだな、オイ。こっちはマジで訳が解らないってのに。


「自己紹介をするね。僕は(タナトス)。名前の通り、人間の死を司る神」


 双子の黒い方が、にこにこと無邪気な笑顔で言い放つ。


「僕は(エロス)。兄弟とは逆に、人間の生を司るんだ」


 白い方も、黒い方…タナトスと寸分違わぬ笑顔で言う。

 …何だ、この夢。

 こんなガキ共が人の生死を司る?

 大丈夫か、オレの脳みそ。台本にだってこんな設定無かったし、そもそもオレは無神論者のはずなんだが?


「お兄さん、まだこれが夢だと思っているようだよ、兄弟」

「仕方ないよ兄弟。人間は死を簡単に受け入れられない生き物なのさ」


 クスクスと笑いながら、エロスの言葉にタナトスが返す。

 …人間は死を簡単に受け入れられない生き物…

 まぁ、あながち間違いじゃ無いとは思う。だが、それは「身近な他人の死」の場合だ。「自分の死」など、受け入れられるはずも無い。

 まして、これだけはっきりと自我が存在するんだ。簡単に「オレ、死んだわ」などと思えるはずも無い。

 だって、「ここ」に「いる」んだから。


「なかなか認められないお兄さんに、今の状況を見せてあげるよ」

「特別だよ、お兄さん。だってお兄さんは僕が『うっかり』殺しちゃったんだから」


 エロスとタナトスが言うと同時に、まるで映画のスクリーンの様に、空間に映像が写しだされる。

 そこには、パーツの揃っていないオレの体が、真っ白な棺に納められていた。

 棺の脇では、劇団仲間が悔しげに拳を握り締めている。中には、目を真っ赤に腫らした奴もいる。

 意外な事に、それは互いに嫌っていたはずの……所謂ライバルって間柄の男で、人目も憚らず涙をボロボロと零している。

 オレにはわかる。あの涙が、演技などでは無い事が。

 何でお前が泣くんだよ、と思うより先に、そいつの声が届いた。


「お…お前が死んで…清々したぜ。……いつだって、オレの邪魔して……演技プランにも口出しして来て……」


 いや、そりゃお互い様だろう。

 お前だって人の演技にイチャモン付けるわ、作った小道具が気に入らないとか抜かすわ……


「だけど……ムカつくけど、お前の指摘ってさ、いつも正論なんだよ。これからも、お前はライバルでいるんだと思って……思ってたのに……なんだよ……何なんだよ……!」


 ガン、と棺を叩く音。

 そして、あいつの嗚咽。

 「何なんだよ」はオレの台詞だ。

 何だよ、アレ。片足、片腕は詰め物で、顔もよく見たら微かに縫い跡がある。

 あんな体じゃ、舞台に立てないじゃないか。


「可哀相にねえ……まだ若いのに」


 ふと耳に入ったのは、余り関わった事の無い親戚の声。

 画面奥にいるオレのお袋に聞こえない様に配慮しているつもりらしいが、顔は全然悲しんでいない。むしろ、格好のネタと言わんばかりに、口元にはうっすらと笑みが浮いている。


「ガス爆発ですって? 巻き込まれたそうよ」

「まあ、だから体が……」


 ……ガス爆発……?

 その単語を聞いた瞬間、血の気が失せた様な気がした。

 いや、双子の言う通り、既にオレが「死んでいる」のならば、その感覚もただの錯覚なのだろうが。


「ごめんね、お兄さん。僕、うっかり殺しちゃった」

「お兄さんには、まだ寿命があったのにね。余りに暇だったから、兄弟が『うっかり』殺しちゃったんだ」


 双子の声が、遠くに聞こえる。

 …死んだ? オレが?

 画面の奥、必死の形相で涙を堪える親父。その横で泣き崩れるお袋。親父とお袋に心配かけまいと、弟は平静を装いながら弔問客の対応をしているが…やはり、目頭に涙を浮かべている。


「ご覧の通り、お兄さんはバラバラになって死んじゃったんだ」

「思い出した?」


 画像を消し、双子が楽しそうにオレの顔を覗き込む。

 それを見た瞬間、ムカムカとオレの中に怒りが込み上げた。

 「うっかり殺しちゃった」だと?

 曲がりなりにも神を名乗る者が、そんな軽いノリで人の命を……!!


「怒らないでよ、お兄さん」

「そうだよお兄さん。お詫びに、好きな世界で残りの人生を満喫させてあげるから」


 ……は? 何言ってんだ、こいつら。

 好きな世界?

 残りの人生を満喫?


「お兄さんの好きな世界…アニメとか特撮とかゲームとか……」

「そう言う場所に、『最初から存在している事』にして、住まわせてあげる」

「今なら、無敵能力もプレゼント。メガプレイボーイの称号もあげるよ?」

「素敵な提案だよね、お兄さん」


 ……何だ、それ。

 思わず鼻でせせら笑う。

 あんな…あんなシーン見せられて、その上で「他所の世界で面白おかしく生きて行け」と?

 馬鹿にするなよ、クソガキ共。


「……お兄さん?」


 こっちの考えがわかるのか、タナトスがビクリと身を震わせてオレの顔をみやる。

 無敵の能力?

 そんな物、何の対価も無く使えるはずがない。

 強大過ぎる力は、それ相応の反動が起こる。それが無ければ、そんな物はインチキだ。

 仮に反動がある事を承知の上で使うとしても、だ。力を扱うには、そして何かに干渉するには……それなりの責任が伴う。

 悪いがオレはそんな重すぎる責任なんて取れないし、そもそも背負うのだって御免被る。

 アニメ・特撮・ゲームの世界?

 そんな物の歴史に介入してみろ、どこかで大きなしっぺ返しが来るに決まってる。

 死ぬはずだった奴を助けたとして……代わりに誰かが死ぬ事にならないと、帳尻が合わない。

 そりゃあ、「こうだったら良いのに」、「このキャラが助かれば良いのに」と思う事は多々あるさ。全てに満足できる作品なんて、そうそう無い。

 だけど……オレは、一介の「人間」だ。万能じゃない。

 自分の行動に責任が生じる事を理解しているが、その行動の結果が誰かを「死」に追いやるなら…オレはその世界を、素直に楽しめない。

 いつだったか、台本に載っていた台詞だが……


『何でも出来るって事は、何も出来ないのと同じ事だ』


 と言う物があった。今、オレの前に差し出されている提案が、正にそれだ。

 少なくとも、オレは「責任」を恐れて何も出来ない。

 それに…こう言っちゃ難だが、人を「うっかり」で殺す様な連中の言葉だ。信用出来る訳がない。

 オレの不信感を読み取ったらしい。タナトスはその顔に邪悪な笑みを浮かべると、全く同じ笑みを浮かべているエロスの方に向き直り…


「…兄弟、お兄さんは今までの『暇潰し』とは違う様だよ」

「その通りだね兄弟、今まで『うっかり』を装って殺してきた馬鹿な連中とは違うね」


 ちょい待て。今こいつら、さらっととんでもない事を言わなかったか?

 聞き間違いで無ければ…こいつらは今、「うっかりを『装った』」とか言ったよな!?

 まさかこいつら……


「うふふ、お兄さんの予想している通りだよ」

「僕達、暇なんだ。余りにも暇すぎるから、兄弟が適当に誰かを殺す」

「そして、『お詫び』と称して、俗に言うチート転生をさせる」

「普通の人間は愚かだから、二つ返事で、承諾するんだ」

「『そこ』が僕達の作った箱庭とも知らずにね」


 そうして、いつかは強大な力に耐え切れず、こいつらの言う「箱庭」は崩壊する。

 崩壊したら、次の人間(カモ)を「うっかり」殺し、新しい「箱庭」で足掻く様をせせら笑うって寸法か……

 最低、だぜ。

 こんな連中が「神」で…その暇潰しの為だけに、オレは殺されたって言うのかよ。

 まるで、悪魔の所業じゃねーか。


「あれ? お兄さん知らないの?」

「『神』とは、不完全な『悪魔』の事なんだよ」


 うふふと笑う二人の姿は、本当に悪魔の様だと、オレは悔しい思いと共に心の片隅で考えた。

 「神とは不完全な悪魔」か。言い得て妙だ。きっとこの世に神なんていないのだろう。

 何故か彼らの言葉に納得し、オレは口の端を吊り上げていた。

 一度死んだ人間は、蘇る事は無い。

 いくら生と死を司る神……いや、悪魔でも、あれだけバラけたオレを生き返らせる事は出来ないだろうし……そもそも生き返らせてくれるとも思えないからだ。


「兄弟、お兄さんは諦めが良いね」

「そうだね兄弟。これじゃ、余りに面白くない」


 そう言って……双子は、にんまりと嫌な笑みをオレに向けた…………




「ごめんね、間違えて殺しちゃった」

「兄弟が死なせちゃったお詫びに、好きな世界へ転生させてあげる」

「無敵の力も付けてあげる」


 言われた奴は、それを聞くや否や、二つ返事でOKする。

 双子の暇潰しとも知らずに。


「それじゃ、好きなだけ壊しておいで」


 タナトスの言葉と同時に、「うっかり殺された」そいつは、嬉々とした表情を浮かべてその姿を消した。

 …今のオレには、馬鹿な奴が、また引っかかった、程度にしか思えない。

 この茶番劇を見るのは、もう何度目になる事やら。


「あ、お兄さんだ!」

「そうだね兄弟、久しぶりのお兄さんだね」


 オレの姿を見付けると、タナトスとエロスはまるでオレを本当の兄であるかの様な態度で、嬉しそうに駆け寄って来る。

 非常に不本意な事だが…オレは、この双子に気に入られたらしい。

 オレをここに置き、生きる事も死ぬ事も出来ない様にされ……数えるのも馬鹿らしくなる位の時間を過ごした。


「見た? また愚かな人間が僕らの罠に引っかかったよ」

「お兄さんみたいに、僕らを疑ったりしなかったよ」


 本当に愚かだよね、と付け加え、双子はいましがた作った「箱庭」を覗き込む。

 その中では、己の行動の意味を深く考えず、自分の思い通りに動く世界を楽しむ「愚かな人間」がはしゃいでいるのが見えた。

 そして、やはりこれも不本意ではあるのだが……そんな人間を、オレも嘲笑っていた。


「兄弟、お兄さんも楽しんでくれてるみたいだよ」

「そうだね兄弟。やっぱりお兄さんを僕達の仲間にして正解だったね」


 心底嬉しそうなガキ共の頭を軽く撫でる。

 …今のオレは…この双子と同じ、「神」の名を騙る「悪魔」となった。

 長すぎる時間は、ゆっくりとオレの中にあった「常識」を壊し、人間に対する考え方まで変えてしまった。

 最も残酷なのは、「死」でも「生」でも無い。

 そう、最も残酷なのは……「時間」だ。


「楽しそうだね、お兄さん」

「当たり前だよ兄弟、お兄さんは、人間を苦しめるのが好きなんだ」

「そうだったね兄弟。お兄さんは、僕達よりも残酷に、人間を操れるもんね」


 誇らしげに見上げる双子に、酷薄な笑みを返しながら……「時間(クロノス)」と名乗る様になったオレは、箱庭の中の人間を、どうやって苦しめるかを考えた……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 双子に命を奪われたけど、ショタっ子に囲まれ自らクロノスと名乗って箱庭の人間を苦しめる悪魔の力を手にいれたり 転生主人公として楽しんでますね [気になる点] 微妙に救いがある(ある意味ハッピ…
[一言] 「全ての物語は作者という名の神の掌の上の物語」 「でも、その作者の人生ですら実は物語かも……?」 って感じの話を思い出しちゃいました。 どうも、転生物は「見ていてクスッとする物語」が一番で…
[良い点]  残酷、言葉はこれ以外いらないと思います。 [一言]  辰巳さん。新作の短編の執筆、お疲れ様でした。赤いトマトです。  今作品も以前私のやった様な非チート転生、私の書いた作品には未だ救…
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