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作者: 小城

 この物語は、フィクションであり、実在の人物、団体、事件等とは、一切、関係ありません。

 一人の少女がいる。名をR.Sとする。この少女、人の噂が好きであった。それは、世間話からニュース報道に至るまで、総じて、他人・・の話というものが好きであった。事実、あるいは創作、その是非を問わなかった。

 そうなると世の中の全てが好きであると言っても過言ではない。知識の総量も限りなく多く、世間の視野も限りなく、広かった。

 しかし、致命的なことに、そこには自分というものがなかった。空白。彼女の中心は、いつも、空白であった。それ故、彼女は、どのような色にも染まることができた。無論、彼女の良識の範囲内での比喩である。

 今にして思えば、その本来の空白こそ、彼女自身であったと言える。空白という色こそが、彼女の色であった。


 ある日のこと。少女は声を聞いた。それは自分の意思とは違う言葉であった。初めは、短くて、散発的なものであった。そして、それが、次第に、多くなり、常態的になっていった。分かりやすく言えば、彼女は、常に、自分の意思とは異なる言葉を、自分の中で聞かされていた。当然のことながら、それは、他人には聞こえなかった。彼女だけが聞く、他人の言葉であった。

 それは天の声であると彼女は信じていた。信じるようにしていた。例え、自分の意見とは正反対の言葉であっても、聞こえるのであれば、天の声である。しかし、本来、彼女は、その天の声に従う必然性も義務も兼ね備えていないし、生じていない。自分の意思とは、異なる意思なのであれば、彼女がそれに従う必要もないのであるが、何故か、彼女は、他人の声に従ってしまった。


 ここで考え得ることが三つある。ひとつめは、元来、その天の声なるものが、彼女の本当の意思であった場合である。言い換えれば、彼女の抑圧された心が、彼女の意思に反して、本当の意思を言葉に示していた場合。ふたつめは、天の声なるものに、彼女が敬服の念なるものを生じさせて、彼女の意思に反する言葉にも、彼女の意思で従っていた場合である。みっつめは、彼女が心神耗弱状態であった場合である。その場合は、何らかの精神疾患による幻聴と心神耗弱の関係が推察される。

 結論を言うと、答えはひとつめである。それ故に、彼女は内なる声に信憑性を感じ、無意識にその内容を真実であると信じてしまったのである。


 ここで何が起こるのか。それは、自我の崩壊である。彼女の本来の意思とそれと異なる本当の意思。二律背反する意思の中で、ある時、その時、都合によって、意思が変わる。それは行動が変わると言っても過言ではない。二つの意思の相克による疲弊と阻害が待っていた。その渦中にありながら、彼女は二年、過ごした。不安と恐怖に抗えない脆弱性の中で、己と生きていた。そして、いつしか、彼女は噂になっていた。


 その噂の渦中には少女がいた。彼女である。他人ではなく、自分であった。しかし、不思議なことに、彼女は、その噂さえも、よく聞いていた。彼女はその噂が好きであった。そこに彼女はいなかった。他人がいた。当人ではない。

 彼女は、もう少女ではない。しかし、その噂は、他人の話として、今も、彼女の噂のひとつとして、しまわれているのである。


 

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