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城伯末女だけど、案外したたかに生きてます  作者: 遥風 かずら
第一章 お城と巡りあい

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第9話 初めての魔法鑑賞 ①

 ルーシャの厳しさを間近で感じた少年兵たちは、指示に従って洞窟手前とグリューヌ門を何度も往復し始める。


 ジェニスに言われた通りにするのは癪だったものの、細かな指示が出せずに困った時こそ、とりあえず走らせることが指揮執りへの第一歩だと思ってそうさせた。


「走らせる、ねぇ。それがルーシャのやり方ってやつか」

「……悪い?」

「いや、悪くないと思うぞ? ここにいる少年少女は魔法兵の見習いだからな。何事も基礎から始めるのが成長する為に必要な行動だしな! このオレのように!」


 ジェニスはそう言いながら、自分を指差して誇らしげな顔を見せている。


「石工職人の見習いなんでしょ? 成長してるの……?」


 ミラーに頼りにされているという点だけ見れば信頼はされているんだろうけど、それは恐らく戦場における後方支援的な信頼。


 本人が言う石工職人としての成長はまだ途中のような気がする。


「……それを言われると何ともあれだが、ミラー将軍に頼られてるってだけでも誇れるからいいんだ!」


 呆れた。開き直ってるなんて。


 だけど、少なくとも戦場や兵士に関しての知識や経験はルーシャよりも兼ね備えているし、ミラーに一目置かれているのは確かだと思う。


 ルーシャとしてもその部分だけでも見習っておかないと。


「ところで、いつまで走らせておくんだ?」


 ジェニスが目を向ける先では、ルーシャが命令を下した少年兵らが息を切らせながら何度も往復しているのが見える。


 様子を見る限り、ついていけない年の子らが徐々に走るのをやめ、歩き出しているようだ。


「根を上げて文句を言いにきたら止めようかと思っていたけど……」

「いくらルーシャが前の兵士長よりも厳しい人間と分かっていても、これまでだらけまくっていた兵士の心ってのはそう強くはないぞ? まして走ってる最中に文句を言いにくるほど気が強い子もそうはいないと思うが」


 ブルグ城の将軍末女の命令――それだけ聞けば、逆らえないし逆らっちゃいけないというような恐怖観念でも植え付けてしまっただろうか。


「そんなつもりはなかったけど、それなら走るのを止めさせてくる!」

「そうした方が賢明だな」


 ジェニスに言われるまで、ルーシャは正直言って止め時が分からずにいた。そういう意味で考えれば、お目付け役がいて良かったと思う。


 もしジェニスがいなかった場合ルーシャ一人だけでは、あの子たちを駄目にした可能性もあったからだ。


「よし、そこらで終了していいわ! その場で息を整えて」


 ルーシャがそう言うと、息を切らせた状態だった全員がその場に座り込んだり、両手を地面についたりして大きく息を吐いていた。


 彼らが地面に座り込んだのを見てジェニスのところへ戻ると。


「ぎりぎりの判断だったな……」


 ……などと、ジェニスが呆れながら声をかけてくる。


「ごめんなさい。もっと早くジェニスに聞いておくべきだった」


 この人に頼りすぎるのもどうかと思っていたけど、頼るのが正解だった。


「おっと、オレに謝る必要はないぞ?」


 そして全然素直じゃない。


「うん。謝る相手が違った。だから、あの子たちに――」

「――待った」


 少年たちの元に声をかけに行こうとすると、ジェニスに腕を掴まれて止められてしまった。


 腕を掴まれたことで間近でジェニスを見ることになったけど、こうして見てみると、短めの黒髪、顔立ちは整っている、そのうえ瑠璃色の瞳――と恋愛的な要素が十分に備わっているなと思った。


「何だよ? 人をじろじろ見て」

「……え、うん。そうじゃなくて、腕を掴まれたから」


 思わず見惚れていたというのは言わないでおくとして。


「あぁ、悪い」


 本人も無意識だったのか、ルーシャの指摘に気づいてすぐに腕を離した。


「で、オレが言いたいのは……謝るのは駄目だ!」

「なぜ?」

「ルーシャが謝れば、あいつらは自分らが何の為に走らされたのかってなるぞ。お前はあの子らから見れば上官だ。上の立場の者が頭を下げれば、次からは命令を聞かなくなる。それだけはやっては駄目だ」


 本当に石工職人見習いなんだろうかと思うくらい、説得力がある。しかし、ジェニスが言っているのはもっともな話だ。


 もしルーシャが謝ってしまえば、せっかく鍛錬に意識を向けさせていたのが無駄になってしまうし、次からはルーシャの言うことなんて信じなくなるかもしれない。


「じゃあ、せめて謝罪に代わる言葉を教えて!」


 何か言葉をかけたいし、言わないと何も始まらない気がする。


「謝罪に代わる、じゃなくてあいつらがもっとやる気が出るような、それこそ魔法を見せてほしいとか言ってみたらどうだ?」


 魔法鑑賞をしたいって思ってたのがなぜかルーシャのお試し指揮体験になっているし、それはいい経験になりそう。


「あ、それいい! 元々私がお母様に聞かれてしまった言葉って、魔法を見たいって言葉だったから。あの子たちに言ってみるね。ありがとう、ジェニス!」

「おっと、惚れちゃったか~。でもオレには婚約者が――」

「――あなたのことなんて聞いてないから大丈夫。惚れてもないから!」

「……ははは、手厳しいね」


 ジェニスの冗談はともかく、この世界に来てまだ魔法という概念を見たことが無いルーシャにとって、それが見習いレベルでも見られるというならぜひ見てみたい。


 魔法兵の素質があるとミラーから聞かされたものの、それがどういうものなのか、まずはこの子たちに訊いてみてそれからだと思う。


「そろそろ回復しましたか?」

「は、はい」

「ルーシャ様、次は何をすればいいんですか?」


(うんうん、やっぱり謝罪じゃなくて正解だった)


 まだ疲れてそうな顔をする子もいるものの、彼らはルーシャから次の命令が下されるのを待っている。


 そうなると次に言うべきことは、彼らのやる気を出させる言葉が合っているはず。

 

「みなさんは魔法が使えると聞いています。その魔法を今から私に見せてもらえますか?」


 ルーシャがそう言うと、彼らは困惑顔を見せつつも少しだけやる気を出すようなそんな顔を見せた。


「え、それだけ?」

「少しだけど使えます……でも」


 全員ではないにしても、みんな嬉しそうにしていて一気に表情が明るくなったように思えた。そんな中、少女の一人が不安げな顔でルーシャを見つめる。


「どうしました? 何か心配でも?」

「ううん、魔法は大丈夫……です。でも、的がないと難しい、です」

「標的となるものがないと打つことは難しいですか? この場でただ見せる魔法は出せないです?」


 ルーシャの問いかけに、ほとんどの子が頷いてみせた。


(まさか的がないと打てないなんて、魔法訓練がそれだけだったとかじゃないよね?)


 そうだとしたら、彼に頼んで何とかしてもらうしかないかも。


「少しこの場で待機しててください。的を用意しますから」


 そう言ってルーシャが頼ったのは。


「はぁ? 魔法を当てる的? まさかオレを的にしたいとかって話じゃないだろうな?」

「ううん、違う」


 この人がこの世界の石工職人なら、たとえ見習いでもスキルで出せるはず。


「石工スキルで何とかしてほしいなぁと。あれも魔法みたいなものだよね」

「あ、あ~……よく気づいたな。それって、ルーシャ・コヴァルとしての命令か?」


 もしかしてミラーから何か制限とかかけられてる感じだろうか。そうだとしたら、正式に命令をしないとスキルを使ってくれない気がする。


 それなら。


「城伯末女ルーシャ・コヴァルが命じます。ジェニス……」

「……ゲルソン」

「ジェニス・ゲルソン! あの者らに的を用意せよ!」


 ルーシャがそう言うと、ジェニスはルーシャに対し膝をついて正式な返事をしてみせた。


「御意」

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