第4話 ルーシャのお城見学 ②
ミラーに代わって姉のアロナについて歩いていると、ミラーが教えてくれたところとは別の施設に案内してくれるみたいで、通路ですれ違う人の数が増えてきた。
「ルーシャ。お城のこと、どれくらい知っていますか?」
すれ違うのは使用人がほとんどではあるものの、騎士鎧を着た人や兵士もちらほら見えるようになった。
視線の多くはアロナに注がれているものの、ルーシャに対する興味もあるようで、特に騎士の人からの視線が分かりやすい感じ。
「お城?」
「そう。お城は本来、何の為にあると思う?」
(な、何だろう? これも何かのテスト?)
「え~と、えっと……戦う為の軍事基地?」
前世の記憶と知識が正しければ、だけど。
「はい、その通りです! 流石はルーシャ、わたくしの妹ですね!」
そう言って振り向きながら、両手を重ねたアロナが笑顔を見せてくる。怖そうに見えたアロナだったけど、今の笑顔だけで判断すればとても優しい女性に思える。
「このブルグ城は辺境にあるから元々発見されにくいお城。敵に発見されにくいという意味では理に適っているのだけれど、湖畔の崖沿いだからか結構目立つわ。それでも、コヴァル領土が広いから敵の到達が遅れるという点では助かっているの」
ボスキャラとして君臨していたミラー将軍の居城は、確かに割と目立った場所に位置していた。結局一度も攻めることもなくこっちの世界に来てしまったけど。
山の頂上にあって移動が大変だとか、とんでもない山奥にあったりと隠し要素があったりして沼るのが当然だったのを思い出してしまう。
「あの、アロナお姉様はブルグ城を守っているんですか?」
「いいえ、このお城は母上の居城。わたくしは隣のレグラム領で指揮しているわ。小さなお城だけれど、これまで一度も攻められたことがないの」
ルーシャの前では姉として接してくれているけど、アロナは恐らく優秀な軍人。それにブルグ城隣接の領地で指揮しているのなら、相当に強いはず。
アロナを敵として見たこともなければ戦ったことはもちろんなかったけど、多分手強かったんじゃないだろうか。
「アロナお姉様はお母様と肩を並べるくらいのお強さなんですね」
「そうならいいのだけど、わたくしよりも強い軍人なら沢山いるわ。もちろん、ルーシャにはそうなってほしいものです」
「わ、私が? だって、まだ全然何も分からないですよ?」
「ルーシャなら大丈夫! わたくしの妹ですもの」
(期待されすぎのような気もするけど)
アロナと話をしていると、城の中央に位置する大広間に着いた。辺りを見回すと、大広間を中心として、左右にそれぞれの役割を持った部屋があるようで人の出入りが確認出来る。
大広間から螺旋状の階段が見えていて、そこを上がった最上階に天守があり、そこに城主の寝室があるらしい。
「ふぅ、それにしてもブルグ城はとても広いですね。きちんと案内するとこんなにも歩くことになるだなんて……ルーシャは平気ですか? 疲れたなら正直に言ってくださいね」
アロナは普段、小さなお城にいると言っていた。そんな彼女が疲れを見せるということは、ルーシャのことをミラーに頼まれた責任を感じての発言な気がする。
少し離れてついてきてる女性騎士の前で弱音を見せないと気をつけているのかと思ったけど、ルーシャを前にすると本音が漏れてしまうのかも。
ルーシャとしてはただ訳も分からずついて歩いているだけで、疲れよりもどこがどこだか分からないことの方が強いけど。
(それなら喜びそうなことを言ってみようかな)
「私、アロナお姉様のお城を見てみたいです!」
「――いけません!!」
「はわわっ」
間近のアロナからの声で思わず体勢を崩してよろけてしまった。その光景に女性騎士たちが駆け寄ろうとするが、アロナが手で制して止めていた。
「ご、ごめんなさい。声を張り上げたりして、驚いたでしょう」
アロナはそう言って、ルーシャの手を握って引っ張り上げる。
(正直びっくりした。流石にそこまで甘くなかったなぁ)
「ルーシャにはまだ、ここで覚えることが多いのですよ? そんな半端な状態でレグラムに来ても、全て面倒をみるのは難しいんです。ここではわたくしも優しく出来ますけれど、レグラムだと怖がらせてしまうかもしれませんから……」
ルーシャにその姿はまだ見せたくないといった表情で、アロナは少し落胆してみせた。
「う、うん。もっと学んで強くなってからにします。ごめんなさい、アロナお姉様」
「いいんですよ。それより、ここが食堂です。すでに利用されたから分かりますね?」
「はい」
レラに話しかけられた食堂には、料理人がテーブルを拭いたり椅子を綺麗に並べたりと忙しくしている。
「食堂では私とお母様、お姉様しか利用出来ないのですか?」
ルーシャとして目覚めた時はかなり弱っていた。その時隣にいたのは、レラだけで後から顔を見せたミラーがいたものの、他に入ってくる者はいなかった。
「そんなことはありませんよ。ですけど、わたくしたちと使用人たちが一緒に食事をとることはありません。護衛騎士も同様で、わたくしたちの食事が終えた後にとることになりますね」
やはりそこは伯爵としてわきまえているといった感じなのだろうか。ミラーは平民上がりの将軍で叙爵を受けての身分だから差別なんてないと思っていた。
それこそ分け隔てがない話し方だけで勝手に想像してた。だけど、立場や身分に関係なく接していた方が戦いに有利になるとかそんな甘い世界じゃなさそう。
「そうなんですね……」
想像とは違う――そんな思い込みのせいか、ため息をついてしまった。
「ですが、差別をしてるわけではありませんよ。わたくしたちは戦場はもちろん、領地において指揮を執る立場。先頭に立つ者は他の者と食事を楽しむのは重要ではないのです。全くないわけではありませんからね?」
そんなルーシャの態度を気にしてか、アロナがすぐにフォローを入れてくれた。
「ブルグ城でやることはとても多いんですよ。道の維持修復に、家屋の修繕、それから食糧の調達……母上はああ見えてとてもお忙しいのです。その他に――」
「――アロナ様」
ルーシャへ丁寧に説明をしていた最中、女性騎士の耳打ちを聞いたアロナの表情が少し曇る。
「ルーシャ。わたくしは少し、この場を離れます。お城の中であれば危険なことはありませんけれど、転ばぬように歩きなさいね。それから兵士や騎士に出会った際には堂々としていれば何も問題はありませんよ。それではすぐに会いましょうね!」
耳打ちをしてきた女性騎士二人と一緒に、アロナはこの場を後にした。
(何かあったのかな?)
ミラーに代わって城の中を案内してもらっているつもりが、ほとんどアロナとの会話ばかりで食堂と大広間くらいしか覚えていない。
物足りなさを感じ始めたら歩き回らずにはいられなくなる。そう思ったルーシャは、なるべく怒られそうもない場所ならとすぐにこの場から離れた。
そこから最初に目についたのが、騎士団の詰め所と書かれた部屋。そこに入るのは流石にやめたけど、扉から耳を澄ませても意外にも静かで沢山の騎士がいるかどうかは確認出来なかった。
地図なんてあるはずもなく、訳も分からず場内を歩き回っていると、ミラーと歩いていた時に見えた修繕中の側塔っぽいところにたどり着く。
側塔の下の部分に人の姿はなく、塔の上部に繋がる階段といくつかの扉が見えているだけ。
(どこか適当に入ってみようかな)
見える範囲の扉はほとんど閉じられていたものの、突き当りに見えた扉が僅かに開いているのが見えたので、そこに体を入り込ませて中に進んでみることに。
そして、ひと気もなく静まり返っている室内だと思いながら様子を目にすると、外と隔てた石壁から誰かの声が聞こえた気がした。
「おい、誰かいないのか! いたら返事をしてくれ!」
(え? 男性の声!? どうしよう、返事をしていいものなの?)




