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城伯末女だけど、案外したたかに生きてます  作者: 遥風 かずら
第一章 お城と巡りあい

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第2話 城伯末女の姉と姉

「あぁ、アロナかい。見ての通り、後継者として育てるつもりさ」


 ルーシャがいる小部屋に飛び込んできたのは、橙色の短い髪をした女性だった。彼女は胸の部分だけ覆う西洋甲冑を身に着けていて、今にもどこかの戦場に向かいそうな雰囲気をさせている。


 アロナと呼ばれた女性はルーシャを一瞥するも、すぐに目の前のミラーに目を向けお手上げのポーズで呆れてみせた。


(私をちらりと見てたけど、期待されてない感じ?)


「まさか母上が本気だったとは! ……守らせるのはどこです?」


 ゲームだと守りながら攻めていた城主として成功していたけど、女将軍の末女だと守るだけしか出来ない気がする。


「もちろん、ここさ。アロナやレラが守る城と違ってここは辺境城塞。鍛えるのにこれほど適した場所はないだろう?」

「……ですが、ルーシャはまだ齢十三ではありませんか! 痩せ細った体で何が出来るって言うんですか!」

「痩せてるのはルーシャを幽閉して空腹状態にさせていたからさ。栄養を与えればあっという間に成長する。アロナが心配しなくてもいんじゃないかい?」


 ミラーを母上と呼んでいる女性はしきりにルーシャを気にしているようで、何度もルーシャの姿を見てくる。


 ゲームの時は主要キャラしか名前が見えなかったうえ、細かな家族設定はなかったけど、ルーシャが末女な時点で他に姉がいてもおかしくない。


 お姉様と呼ぶべきだろうか。


「アロナお姉様……?」


 ミラーとアロナに割って入るほどの体力は残ってないものの、ルーシャは力を振り絞ってそう呼んでみた。


「――! ま、まぁいいでしょう。鍛えるおつもりなら、早くこの子に清潔な服と食事を与えてあげてください」


 そう言うと、アロナは踵を返し小部屋から出て行こうとする。


「いいだろう! あぁ、それとレラにも急ぎ伝えてもらえるかい?」

「……御意」


(気が強そうに見えた人だったけど、実は妹想いの姉なのかも)


「さて、ルーシャ。限界が近いんだろうけど、あと一息の辛抱だ。まずは入浴、それから食事、それが済んでから教えるからまずは入浴してきな!」

「ブルグミラー様。私、お風呂に入れるんですね……で、でもその前に……」

「ミラーでいい。今度からそう呼びな。もしくはお母様でも構わないよ」


 空腹状態、極度の疲労のせいかルーシャはそのまま床に倒れ込んでしまった。


(う~ん……もう無理)


「……末女だろうと、耐えた子には本気で継がせてやるさ。強くならなければ、敵である男どもに負けてしまうだけだからね」


 ミラーの声を微かに感じながらルーシャは意識を落とした。


「おい、お前たち!! 次期将軍となる娘の体を綺麗に仕上げておやり!」


 ミラーの声の後、ルーシャは顔、頭、体の順に洗われ、まるで沐浴のような扱いで清潔にされた。


 ルーシャが目覚めると、薄手のインナーのようなものを着せられ、座高の高い椅子に座らされていた。そして気づかぬ間に、スプーンとフォークを握らされている。


「ルーシャ。食べないの? それとも食べる気力もない?」

「……これ、シャツ?」


 ルーシャは話しかけられたことよりも、まず自分が着ている服が気になって首を下に向ける。


 上半身は比較的緩めながらも、下半身は腰の位置で紐を結んで整える感じだ。


「ううん、それはねチュニカっていう緩めの衣服なの。チュニックとも言うけどね」


 ルーシャの隣に座る女性は、腰まで届きそうな長い白銀の髪をしていて言葉遣いが柔らかく、しかも上衣に身に着けているのは美しい臙脂色に国章のようなエンブレムが刺繍されている上質のもののよう。


(うっかり話しかけちゃったけど、私に似た髪色ということはこの人も私の姉?)


 隣から話しかけられているとはいえ、初めての人に対し姉と呼ぶのもおかしな話なので、ルーシャは誤魔化すように「何も分かっていないフリ」で首を傾げた。


「あ、そっか。わたしはレラ。次女だけどルーシャのお姉さんだよ」

「レラ……お姉様?」

「うんうん。良かったよ~ルーシャが目覚めてくれて。お母様の負担を減らす為にも、ルーシャには強くなってもらわないとって思ってたんだ」


 レラはルーシャを見ながら、はにかんだ笑顔を見せる。


(幼く見えるけど、今の私より二つか三つ上くらい?)


「美味しい?」


 横から見つめられながらスープを飲んでも味なんか分かるわけない。


「は、はい」

「ここにはアロナ姉様もお母様もいないよ? そう気を張らずに話していいんじゃない?」

「え、えっと……」


 気を張っているつもりなんかなく、大人女子のまま少女になってしまっただけに、言葉遣いを年相応に変えるのはそう簡単じゃないとルーシャは思った。


(友達と話してたように話すのも何か違うだろうし難しいところだなぁ)


 それにしてもレラの格好だ。


 上衣が臙脂色というだけでも目立つのに、何らかのエンブレムが刺繡されているなんて、城主にしては随分と派手な印象を受ける。


「戻ってきたか、レラ! 商人は上手く使っているのかい?」


 声のする方にルーシャが振り向くと、そこには官給品を身に着けるミラーの姿があった。 


(ミリタリーっぽいけど多分それで合ってるかも)


「ただ今戻りました、お母様。王国の商人は素直なので気が緩みそうです~」


 ミラーに対し、レラは右手を上げて敬礼ポーズで挨拶をしてみせた。そこだけ見れば、この世界は確かに戦いのある世界だということが理解出来る。


「……ふ、そうかい。それならいいんだ。しかし相変わらず派手だね」

「これですか? トレーダー装備は商人相手には何かと都合がいいんですよ。もちろん、ルーシャのような子にも!」


 警戒されないという意味だろうか。


 それにしてもミラー将軍の格好は、明らかに本気でルーシャを鍛えるつもりがあるかのような軍人姿をしていて、それだけで緊張が高まりそう。


 落ち着いたルーシャが周りを見回すと、限られた人間しかいないのか食堂らしき場所に兵士の姿は見当たらない。


「ルーシャに会えたし、わたしは王国に戻ります。それではミラー将軍。ご武運を!」

「お前もな!」


 ルーシャを一目見るのが目的だったのか、ミラーに一礼したレラは食堂からすぐにいなくなった。


 この場に残されたのは、ミラーと食べかけのまま唖然とするルーシャだけ。


「なんだい、まだあたしに緊張してるのかい? 急がせるつもりはないから、ゆっくりとお食べ」


 小部屋の時はうって変わり、ミラーは母親の優しさを出してルーシャを見ている。軍人姿でありながら、日常の場面ではそこまで厳しさを出さないようだ。


「お、お母様……あの」

「何だい、ルーシャ?」


(ゲームではルーシャ・ホワイトだったけど、そのままなのかな?)


 これだけは訊いておきたい、そう思いながらミラーに訊いてみることに。


「私の正式な名前は、ルーシャ・ホワイト……ですか?」

「ホワイト? 確か、西の領地にそんな国の名前があったね。それとも、お前の髪色がそうだから自分で考えたのかい?」


 ルーシャ・ホワイトは城ゲーで選んだ城主キャラの名前で、選んでいた国はあまり気にしていなかった。


 それがまさか国の名前だったとは。


「は、はい」


 そういうことにしておかないと駄目かもしれない。

 

 ルーシャの目が泳いでいるのを見逃すわけもないミラーは、頬に片手を当てながら、小首を傾げている。


「ふっ、そうかい。十三にしては大人びているとは思っていたが、お前、そこの国の男に惚れたんだね。我が国の領地だから会わせてやることも出来るが――」

「――ち、違いま……」

「お前の家名、つまり国名はこの後に分かる。今はきちんと栄養を摂ることだね」


 そもそも城ゲーで男性キャラと言えば敵側しかいなかった。それだけにミラーに誤解されているのは流石によろしくない。


「ルーシャ。今はまだその時じゃない。お前が強さを備えるまでは、あたしの目の届かない範囲にやるつもりはないよ。まして男相手なんてね。いい奴もいるだろうが、ここじゃ味方以外ほとんどの男は敵さ! 公爵の男なんかは特にね」


(公爵が敵なんだ。ゲームでは女将軍がラスボスだったのに、まるで逆になってるんだなぁ)


 ルーシャとして動いていた時はあまり意識したことがなかった。だけど、この世界の男性のことは完全に敵――それを再認識する。


「こ、公爵がお城に攻めてくるのですか?」

「そうさ。アロナとレラだって、自分の城と国を守らなければ生き抜いていけないんだ。もちろん、ルーシャもね。だけどまだそんなレベルじゃない」

「レベル……?」

「技量って意味だよ。それら含めて、ルーシャにはあたしがみっちりと鍛えてやるさ! ルーシャもそのつもりで生きることだね」


 ミラーのその言葉に、ルーシャは気を引き締める。


 だからこその覚悟という言葉だったんだと。


「お前があたしを凌ぐほど強くなったら、その時は公爵でも何でも落として恋をすればいいさ!」


 そう言い放ったミラーから期待の眼差しを向けられていた。

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