第16話 秘密同士の分かち合い
「……ほっ。ふぅっ。ここでいい?」
ヴァレリーに言われた通りに木箱を置くと、彼は腕組みしながらのけ反ってみせた。さっきの強面な男性が上の立場の人だと思うけど、そうなるとこの態度は何なのだろう。
「うん、初めてにしちゃ上出来だ」
「下っ端なのに態度は大きいんですね」
「何故それを……じゃなくて、手厳しいな」
二年前、ブルグ城の壁越しで出会ったヴァレリーと何でか知らないけど、シアンテ王国の倉庫で再会してしまった。
お互い覚えていたのは名前と声くらいで、顔は初めて見ることになったものの、不思議と驚きも動揺もなく、まるで昔馴染みの人に出会った感じがあった。
そんな彼と何故か今、一緒に作業している。決められた場所に木箱を移し替えるだけの単純作業だけあって、人員は割り振られている感じだ。
「そういうホワイト嬢は、ブルグ城の使用人をクビにされたとか?」
何でそういう考えになるんだろう。だけど、そうでなければ王国の倉庫街にいるはずもないと考えてしまうかもしれない。
「……そんなところです」
「で、今は?」
「商業区の宿屋で働いてます。お使いついでに倉庫を見に来たらこんな目に遭ってますけど……」
「へぇ〜! 食い扶持は確保出来てるんだな」
(お母様に放り出されて王国に来たとはいえ、口利きがあったから宿で働けてるだろうし衣食住に不自由はないからクビではないんだけど)
「そういうヴァレリーは何で王国に?」
「あ、オレ? オレは……世界を知る旅の最中ってところかな」
そう言ってヴァレリーは得意げな顔をルーシャに見せる。
この人は随分と大げさな言い方をする。本当は多分違う目的があってここに紛れているような、そんな気がしてならない。
「世界を? それなのに倉庫で下っ端なんだ?」
(そういえばこの人って結局年上には違いなかったけど、四つ違いじゃなくて二つ年上だし普通にくだけた言い方でいいのかも)
「下っ端は仕方がないだろ。この国を知るには倉庫が一番手っ取り早……港が目の前にあるし、どこかに行くとしたら便利なところだからな」
「……ふぅ~ん。企むにしても都合がいい場所なんだ。もしかして他国に何か売るつもりとか?」
シアンテ王国は名目ではどの国にも属さない中立国。しかし、ジェニスの話を少し信じれば、この国はミラー将軍の庇護下にあるとかなんとか。
実際ブルグ城から程近い場所にあるし、あながち間違いじゃないかもしれない。そう考えると、敵国や敵意を持つ者が潜んでいても何ら不思議はないと言える。
「何か売るって、ここは商人の国でしかも他国からしたら中立国だぜ? 他国に売り込む情報なんて……ん? ホワイト嬢って、宿屋で働いてる割に随分と詳しいんだな? もしかして君もオレと似た感じ?」
似た感じの意味が分からないけど、理由があっての潜入という意味なら似てるかもしれない。
「そう簡単に明かせるほど偉くないので秘密です」
「いや、オレも下っ端だからそう簡単に打ち明けられるものなんてないけど。でもそうか、秘密にしたいことくらいあるよな」
「あなたも秘密にしたいことがあって王国にいるんでしょ?」
「まぁ、合ってる」
秘密も何も、後一年しかこの国にいられないから素性的なものくらいしか隠せるものはないのだけど。
「じゃあ、分かち合いといこう!」
「……何を?」
木箱を所定の位置に置いたらやることもなくなって話ばかりしてるけど、結局ここの倉庫は何を運んでいるのだろうか。
強面の人以外はそこまで恐怖を感じるような面構えではなかったから非合法なことを請け負っているようには思えないけど、木箱の中身を見たわけじゃないから何とも言えなくなる。
「オレもホワイト嬢も秘密を持ちながら王国にいる。秘密にしてるものはお互い違うものだけど、それを知るのはオレと君だけ。秘密にしてることが上手くいった時、どっちかに利益が出るものかもしれないし、嬉しいことが起きるかもしれない。それを分かち合う! どうかな?」
(てっきり不安を抱えてるからそれを分かち合うのかと思ったけど、秘密にしてることを分かち合うとか、しかも秘密を明かさないままってなんか変な感じがする)
「分かち合いは別に構わないけど、秘密を打ち明ける日はくるんですか?」
「どっちかが抱えてるもんが解消されたらくるんじゃないかな、多分」
この場合、ルーシャが抱えてる問題はレラを見つけたうえで自分を磨くことだろうか。現状は探し出すどころか無駄に過ごしてるだけなのだけど。
「……協力とか共有とかって意味もあるなら、お願いします」
「もちろん、その意味もある。オレも残されてる時間は限られてるし……じゃあ、よろしく!」
(……なるほど。この人も期間限定的な感じで王国にいるんだ)
「ところで、あなたは普段からここで仕事を?」
「仕事はそうだな。寝泊まりしてるところは居住区のボロい宿だけど」
「居住区! 私、居住区の雑貨屋に用があるんです。だから、このままずっと倉庫にいるわけにはいかないんです」
いくら宿屋の主人の好意で自由な時間が許されているとはいえ、このまま倉庫にいられるほど時間は残っていないはず。
こうしてヴァレリーと二人だけで作業することを許されている今なら、簡単に抜け出せるのでは。
「あぁ、あそこか。それなら一緒に行くか?」
「え、でもここから抜け出しても大丈夫なんですか?」
「やることをやればここは文句を言われないんだ。あの人は確かに強面で強引な人だけど、そんなに悪い人じゃない。雑貨屋は暗くなるまでに行けばいいんだろ?」
「そういう約束なので……」
お使いついでの外出許可は暗くなるまでだから、それを破るわけにはいかない。
「それなら、手――手をお貸しいただけますか? ホワイト嬢」
木箱が積み上がったこの場所で、ルーシャに対し胸に手を当てながら膝をつくヴァレリー。そんな彼の手をルーシャは素直に握ってみせた。
その所作だけ見ればどこかの貴族のように思えたものの、今はあれこれ考えないようにしなければとルーシャは思った。
「それじゃあ、そっとついてきて。倉庫街区から離れるまでは手を握り続けることを許してくれよな」
「……それくらい平気ですから」
「助かるよ、ホワイト」




