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城伯末女だけど、案外したたかに生きてます  作者: 遥風 かずら
第二章 お城世界の国々と

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第15話 偽り同士の再会

 城ゲーの中の世界だから月日が経つのはあっと言う間――なんて、ルーシャは軽く思っていた。でも実際はそうじゃなく、ここが自分にとっての現実世界なのだと自覚するまでが早かっただけだった。


「はぁ〜……手が冷たい」

「お嬢! 急がないとお客さんが来ます! 僕が向こう半分を拭くから、あなたはここから半分を!」

「はいはい」


 あの日、ジェニスの手を取り向かった場所は王国随一の宿屋兼酒場。


 ジェニスから聞かされた話によれば、レラの居場所はミラー将軍に口止めされていて教えられないという。だけど王国随一のここなら、貴族や王族が頻繁に顔を出すうえ割と簡単に見つかる場所でもあるから、ここで働けばいずれ会えるんじゃないか――という話だった。


 でも、現実はそんな甘くなくて。


 気づけば普通に下働きとして冷たい水に雑巾を入れて洗ったり、お皿洗いとかをしたりするだけの日々を過ごして、もうすぐ二年目の冬になろうとしてる。


 下働きとして一緒に動いているのは、ルーシャよりも年下で名前はペテルという男の子だ。とはいえ、ルーシャよりも手際はいいし、物忘れもないので主人からの信頼はかなり厚い。


 それに引き換えルーシャは――。


「ルーシャ! まだ拭き終わらないのか?」

「手がかじかんで上手く動かなくて……」

「全く、どうしていつまでも慣れないのか不思議でならないな」

「はぁ、すみませんです」


 主人曰く、一年目は仕方ない。だが、二年目も同じことをやらせているのに冷水に手を入れることになぜ慣れないのか――と、頭上に疑問符を浮かべられている。


 前世の頃、事務職をやっていた光莉は当然ながら拭き掃除くらいはしていた。でも、手が悴む状態で拭くことはなく常に温水だったからこんな経験などあるはずもなく。


 転生したからといって前世で全く無かった耐性がつくわけもなく、二年経ってもずっと苦労し続けているというのが現実。


「あぁ、そうそう。テーブル拭きが済んだら、ルーシャは雑貨屋に買い物に行ってくれ」

「雑貨屋というと、居住区の?」

「まさか、まだ迷うとか言わないだろうな?」

「いえいえ、まさか」


 冷たい水は未だに慣れないものの、王国の街の場所はすぐに慣れたし覚えられた。


 地図そのものはないものの、商人が多く暮らす王国というだけあって暮らす人間が身分差で分かれていた。


 一番偉いのは女王と呼ばれる王様で、中央区と呼ばれる所にいるらしい。それ以外は商業区、居住区、それと倉庫街区となっているので、動ける場所が限られるという意味ではとても覚えやすかった。


 レラがどこにいるかは未だに分からないものの、ある程度の顔見知りが出来たのでそれほど心配はしてない。


「それで、何を買い求めれば?」

「……蝋燭ろうそくとちょっと高そうなグラス、青銅製の小皿を頼む」


(酒場に特別な貴族でも来るのかな?)


 商業区随一の宿屋だけあってお皿やグラスに安物はないけれど、普段の客のほとんどが旅人か冒険者だからそこまで気を遣う必要はないのがほとんど。


「かしこまりました!」

「急ぎではないから、適当に散歩をしてきてもいいぞ。暗くなるまでに戻ってくればいい」

「! ありがとうございます」


 ルーシャを紹介して去る時にジェニスが主人に何かを言っていたけど、まるで聞き取れなかった。だけど、仕事に厳しい主人が外への頼み後を言いつける時は大抵ルーシャに頼んでくる。


 それだけで判断出来ないものの、姉を探している辺境の娘だから手荒くするなくらいは言ってくれたような、そんな気がした。


 テーブル拭きは手際のいいペテルに任せ、ルーシャは居住区にある雑貨屋に向かう。


(どうせなら行ったことない港に行ってみても面白いかも?)


 シアンテ王国の端に位置する港は倉庫街区と呼ばれ、見上げる程の倉庫がいくつも建ち並んでいて、それだけでも壮観な場所だ。他国で買い付けた品物を商人が取引する場所で、大きめの船が定期的に停泊している。


(凄い! 間近で見ると迫力があるなぁ。雑貨屋はここにはないけど、うろつくくらい許してくれるよね)


「おい、そこの!!」


(って、言ってる傍から怒鳴られるとかツイてない)


 というか、背後から声を張り上げないでほしい。


「は、はい。何でしょうか?」


 突然声をかけられたとはいえ、怒鳴られることに慣れているルーシャは怯えることなく振り向いた。


「……ん? どこからか迷い込んだ盗っ人小僧かと思いきや、小娘だとはな! ここで何してんだ?」


(盗っ人とか失礼な!)


「何もしてないです。散歩です、散歩」

「散歩だぁ~?」


 そう言って強面で肩の張った岩石のような体つきをした男が、ルーシャに近づきながら品定めをしてくるような目つきで凝視してくる。


「ふ~ん……町娘って感じだな。名前は?」

「ル……ホワイトですけど……」


(名前を正直に答える必要も無さそうだし、ホワイトでいいや)


「ホワイト嬢か。ホワイト嬢がここに迷い込んだってことは暇してんだろ? あいつの相棒でも探してやろうと思ってたところだし、あんたでいいや!」


(え、何が?)


「な、何ですか?」

「別にとって食うわけじゃねえよ。暇そうだからあんたが眺めてた倉庫に連れて行ってやろうとしてるだけだ。中を見てみたいだろ?」

「いえ、別に……」

「まぁ、そう言うなよ! 人さらいとかじゃなくて、ほんの少しだけ作業してもらおうとしてるだけだから!」


 そんなことを言われて、ルーシャは有無を言えずに強面の男に手を引かれて倉庫の中へと連れて行かれてしまった。


「うぅっ、さ、寒ぅっ!」

「ははははっ! すぐに慣れるから心配すんな!」


 凍える程ではないものの倉庫の中であってもひんやりとしていて、吐息が白く出るくらい冷え切っている。


 寒さを感じながら辺りを見回すと、そこにいるのは数人の作業員らしき人たち。何度も重そうな箱を決められた場所に持ち運んでいて、かなり辛そうに見える。


「ありゃ? あいつどこにいった?」


 強面の男は誰かを目視で追っているようで、何度も首を左右に動かしている。しかしすぐ見つけたようで。


「おい、ヴァレリー! おいっ! 作業中でも何でもいいから今すぐこっちに来い!!」


 大声で呼ばれたことで気づいたのか、()が大慌てで向かってくる。


「な、なんすか?」

「おう。ヴァレリー。一時的だが、今からここにいるホワイト嬢をお前の相棒にするから、お前がこの子に指示出してはかどらせろや!」

「ホワイト嬢? 嬢って、女の子じゃないですか! 全く、どこのお嬢様で……」

「……はい?」


 思わず返事をしたものの、まるで見たことがない男の子だった。だけど、相手も同じ感じを受けたようで、ルーシャを見つめながらしばらく固まっていた。


「んあ? どうした、お互い黙りこくって。知り合い……じゃなさそうだが、とにかく時間内に片付けとけよ!」


 言いながら、強面の男は他で作業してる人のところに歩いて行く。


(全然知らない人のはずなのに、声を聞いて何か思い出しそうな気がする。どこかで声を聞いたようなそんな感じ)


「ホワイト……あぁ! ホワイト嬢ってあの時の!」

「……はい?」


 目の前の彼もルーシャの顔こそ知らなかった感じではあるけど、声と名前で一致したのか手の平を握りこぶしで叩いて嬉しそうな顔を見せた。


「ヴァレリーだよ! ほら、顔こそ見えなかったけど、ブルグ城の壁越しで話をしただろ? その時のオレだよ!」

「壁越しの……あ!」


 鐘を探してるとか言ってた彼だ、きっと。


 見たこともなかったのに、どこかで会った気がしたのはそういうことだった。だけど、お互い何らかを偽ってる関係のような、そんな感じに思える。


 あの時、壁越しで聞いたのは名前と年齢だった。だけど目の前に見えている彼は、どう見ても四つ上に見えない。それどころか同い年くらいの幼さを感じる。


 ルーシャも名前を偽って教えているからあいこではあるけど、どうして偽ったままこんな場所で出会うのだろうか。


「ヴァレリー……本当は何歳なの? その名前も」

「ん~……あ~やっぱり誤魔化せないか。ホワイトは今、十五歳?」

「そうですけど」

「本当は二つ上だから十七歳。名前はヴァレリーで合ってる。年は騙そうとしてたんじゃなくて、あの城ではそうする必要があっただけで……でも、気を悪くさせてごめん」


(なんだそうなんだ。怒ってないし怒る仲でもないけど、何で偽ってたのかは気になるところ)


「とりあえず作業場所に移動した方がいいんじゃない? ここ、目立つし」

「そ、そうだな。じゃあ、こっちについて来て。えっと、ホワイト嬢?」

「はい、ヴァレリー」


 倉庫で働いてるヴァレリーが何者なのかは分からないものの、倉庫に連れて来られてしまったので、今は大人しくしていようと決めたルーシャだった。


「……ホワイト嬢、か。こんな形で再会するなんて意外すぎるな」

「何か言った?」

「い、いやっ、何でもないよ」


 ヴァレリーとの出会いがルーシャの運命を変えることになる――なんて、この時はまだお互い知る由もなかった。

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