第13話 王国途中のロンド平原で 2
訳も分からないままジェニスに抱っこされ、そのまま馬から降ろされたのもつかの間。
後ろの方では護衛の女性騎士達はすでに戦闘状態になっていて、ルーシャがいる辺りを気にする余裕はなくなっているみたいだった。
そしてジェニスはというと――
「――ルーシャ。よく覚えておくといい。君がこれから見る世界は戦い続けなければならない場所だということを!」
「う、うん」
(とは言うけど、城ゲーで散々戦いまくっていたからそんなもんだろうなって感じ)
馬とルーシャを背にしたジェニスの目の前にいるのは、女性騎士と戦っている輩とは別動隊なのか、魔物を従えた盗賊が立ちはだかっている。
テイムで従えた狼を連れた盗賊というのは城ゲーではあまり見たことがないものの、それほど驚く光景じゃない。
攻略の仕方も単純なもので、まともに戦わなくても簡単に撤退させることが可能だったはず。
「で、だ。ルーシャは戦う術は持ってたんだっけか?」
「ううん、今のところは特に……」
城ゲーで得ていたスキルの確認すらしてない(というか、どうやって見られるのかも分からない)うえ、今までお城見学しかしてないから何も出来ないと言った方が正しいかも。
「なら、オレの後ろで大人しく待っててくれ。馬を興奮状態にさせたくないからな」
「うん。そうする」
「いい子だ。じゃあ、ちゃっちゃと始末するから驚かずにいてくれよ」
(始末する……って、ああそっか。ゲームじゃなくてリアルだからか)
ルーシャが見ている前でジェニスが取った行動は、目の前にいる盗賊と魔物に対し拳一つで殴打することだった。
石工職人のスキルは一切使わず、武器も持たず使うのは己の拳のみ――とか、そんな人だったのは意外すぎる。
「え~……」
後ろの騎士達が剣や槍で応戦しているのに対し、ジェニスはまさかの格闘技。武器に頼らない戦いがあるとはいえ、魔法でもスキルでもない近接戦闘だとは思わなかった。
呆気に取られるルーシャをお構いなしに、ジェニス一人によって魔物数匹と盗賊数人はあっけなく地面に倒れていた。
「ロンド平原に出てくる奴らだから大したことはないと思っていたが、驚くくらい楽に始末出来たぞ! ん? 口を開けたままでどうした、ルーシャ」
(おっと、いけないいけない)
口を半開きにしたまま別の意味で驚いていたルーシャは、すぐに口を閉じてジェニスに向き合う。
「ジェニスって意外に強かったんだなぁって……」
「ミラー将軍の下で動いてたって言ってたろ? あの人の下で動くってのはそういう意味だからな」
「どうして石工職人のスキルを使わなかったの?」
「スキルってのはいつでも使える分、油断してしまう。オレはスキルに頼らずに自分の力で戦いを有利にしたいって思いがあるんだ」
スキルにも色々あるけど、油断を生むことになるって考えがあるなんて思ってもみなかった。
「そういうものなんだ……」
「ま、ルーシャが将来戦闘の指揮を執ることになるんなら、部下の能力を把握しておかないとな!」
ジェニスはそう言いながらルーシャの頭を撫でてくる。
「もう、すぐ子供扱いする!」
「はははっ。二、三年もすれば今よりも貫録が出てくるよ。三年なんてすぐだよ、すぐ」
「貫録は別にだけど、年数経過は確かに早いかも」
「おっと、女性騎士達も片付けたみたいだな」
後ろを気にすると、ジェニスの言うとおり女性騎士達がルーシャが立っているところに近づいてくる。
「お嬢様。ご無事で何よりです」
「……どうやら、その男の実力は確かなようですね」
などなど、ジェニスの強さを最初から確信していたみたいに聞こえた。当のジェニスは、女性騎士達と特に言葉を交わさず、倒した盗賊から何かを探すような動きを見せている。
「ジェニスの、あれは何をしているの?」
城ゲーであんな描写はなかったので、ジェニスがしていることの意味を女性騎士達に訊いてみた。
すると。
「盗賊連中は旅人を襲うのですが、その際に金品を奪い自分の物としていることが多いのです。あの者は、そうした金品を見つけ出してはなるべく元の持ち主に返している――と聞いたことがあります」
「へえぇ~そうなんだ」
「……ですが、持ち主不明なことも多いのであの者がしていることが正しいかどうかは何とも言えませんね」
(なるほどね。綺麗ごとだけじゃ生きていけないってことだよね多分)
この世界で生きていく為には必要なこともあるってことかもしれない。
「ジェニスはそういうところを見透かされてアロナお姉様に婚約破棄されたのかな?」
「そっ、それは私たちには分かりかねます……」
「ルーシャお嬢様。それは恐らく――」
「――おっと、その話は終わったことだから詮索は無しだぞ、ルーシャ」
女性騎士達が俯く中、一仕事を済ませたジェニスが戻ってきた。ルーシャの話に都合が悪くなった女性騎士達は、自分達の馬がいるところに戻ってしまった。
「ご、ごめんなさい」
「いや、怒ってないぞ。ただ、ルーシャにはまだ早い話だから勘弁してほしいぞ。アロナの為にもな!」
「そ、そうする……」
(う~ん。流石に気をつけないと)
「よし。もうすぐで王国入りするから、ほれ、お手を……」
「う、うん」
ルーシャはこっちの世界ではまだ少女の年齢だということを思い出しつつ、ジェニスの馬に揺られながらレラのいる王国へ向かった。




