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虚構の魔女  作者: PEN
3/3

#3

 

『魔女狩り省』の庁舎は王宮にある。

 正確に言うと、王宮の周囲。

 真紅の発光するラインが引かれた漆黒の壁。

 それ自体が『魔女狩り省』の庁舎であった。

 しばしば王宮と一緒くたにされがちだが、実際には王宮の周りに貴族や官僚達が生活する特別区画があり、それの周囲を『魔女狩り省』の庁舎が囲っている。

 魔女の侵入を絶対に赦さない。

 その信念を示すかのように、周辺の壁に加えて、王宮と特別区画の間には巨大な溝が掘られており、たった一つの橋を除いて行き来できる手段はない。

 特別区画の奴らはともかく、王宮の人間は生活しにくくないのだろうか。そんな事を考えながら、ボクは歩いていた。

 聖夜の白髭よろしく肩に大きな袋を背負い、右手で"炎器"を引きずっている。

 こんな姿を班長が見たら怒るだろうか。呆れる可能性の方が高い気もするが……

 いや、そもそも予定が入っていたのに野暮用に寄り道をした事で怒られるだろう。


「たのもー」


 どんなに遠い道でも足を動かし続けると目的地には着くもので、ボクの目の前には漆黒の壁があった。

 正面・玄武門。

 そう呼ばれている、庁舎に四つある門の一つ。

 その側の(やぐら)で監視していた門番の護衛に声をかけたのだが、ボクの顔を見ると露骨に嫌そうな顔をした。

 本来ならここで、身分の確認や身体検査が行われるのだが、その過程を省略して門が開かれる。

 そんなにボクと関わりたくないのか……

 少し悲しくなりながらも、庁舎内足を踏み入れた。

 野暮用を済まし終わった時点で約束の時間が過ぎていたので、特に急ぐこともせずに目的の部屋へと向かう。

 もう遅刻が確定しているんだ。

 急いで部屋に駆け込んでも怒られるだけ。

 それなら、といつも通りのペースで向かう。

 落ち着いた精神状態で言い訳を考えながら向かえばいい。

 あれはマズイな、これは前に使った記憶があるな、そしたらこれはどうだろうか、様々な案を思い浮かばしては消して、最善の案を考えついたタイミングで部屋の前に着いた。


「さて、ならボクが考えた最高の言い訳で班長を達を論破してやるっ!」


 部屋を勢いよく開く。


「ごめんなさいっ! 道中でウシの背中で背泳ぎしてるアオムシと性行為しとる服屋の店主が引力でダ───


 顔面に向かって椅子が投げつけられた。


 ○●○


 オレの隣の席についたニガミは、満面の笑顔で肩に担いでいた袋を机に置いた。

 白色の大袋。

 見ただけで、分厚い生地で作られた物だという事がすぐに分かる。

 何が入っているのか。

 そう問おうとした瞬間、ある事に気が付いた。

 赤色。

 血が滲んでいた。

 白のキャンパスに赤のインクを落としたかのように、袋の色を徐々に染めていく。


「……狩ってきたのか?」

「はい! 会議の予定時間に遅れたらマズイなと思いましてぇ、二時間程早く玄武門の近くには来ていました。だ・け・どぉ ヒマでして! ヒマでヒマで仕方がなくなっちゃっいましてね。近くに魔女を探しに行ったんですよ! 」


 彼女は笑顔を崩さずに、今朝の出来事を語る。

 色々と気になる点はあるが触れない。

 彼女はこうなのだ。

 圧倒的に、

 徹底的に、

 致命的にズレている。


「そしたらですね、なんと一級の魔傘と磁腕がいたんです! 奇跡です! アタシ思わず声を上げて喜びながら殺しました! 」


 オレは思わず声を失った。

 少し話が逸れるが、魔女狩りには正規員ではない "見習い" を除いて、 "三級"、"二級"、"一級"、"特級" に等級が分けられており、それぞれが同じ等級に分けられた魔女の担当を主にしていた。

 魔女には狩人には無い、"四級"を加えた五つの等級に分けられている。

 魔女の等級を簡単に説明すると、こうなるだろう。

 まずは四級。国王や魔女狩り省に協力的な魔女が指定されるものであり、有益な情報提供をした魔女が指定される等級。

 三級は、犯罪行為等が報告されず、目立った危険性が無い魔女が指定される等級。四級と似た条件に思えるが、有益な情報提供が確認されていないなど、細かな違いがある。

 次いで二級は、窃盗などの軽犯罪を含めた犯罪行為が報告されている魔女が指定される等級であり、現状これに指定されている魔女が大半を占めている。

 一級は、殺人を犯した者や王政府に対する重大な脅威となりえる者が指定され、指定理由にはバラつきがある等級。居場所や魔法の詳細が判明した場合には討伐隊が組まれる事もあり、危険な存在とされている。

 そして特級。最優先討伐事項であり、常に六人の魔女が指定されている。王政府に対する重大な脅威であり、加えて強力な魔法を有している者が指定され、単騎で町一つを簡単に壊滅させる能力を持つとされている。

 特に、王国を恐怖の底に突き落とした虚構の魔女や、詳細不明の非公式狩人(アウトロー)虐殺の犯人とされる紫電の魔女は有名だろう。

 失礼、話を戻すとしよう。

 ニガミは、九人いる特級狩人の一人だ。いや、八人と言うべきなのだろうか、日頃から実働している者を考えると七人と表した方が正しいのかも知れない。

 華炎を持ち、最狂の狩人と呼ばれ、《絶死痕》の二つ名を与えられた彼女。

 ゆえに、彼女が一級魔女を討伐するのは不思議な話ではない。

 ただ、討伐した相手が相手だった。

 先程も説明したが、一級魔女の指定理由にはバラつきがあり、魔女の危険度にも差がある。

 磁腕の魔女は、自らの腕に"引き寄せる"性質と"引き離す"性質を付与する事ができる魔法を持ち、一級指定前には三級魔女として、その魔法を活かして土木関係の仕事をしていた。その現場で彼女の魔法が原因で死亡事故が起き、一級に指定されて逃亡していた。あくまでも事故。故意では無いだろうと目撃者も証言しているので、正直そこまで危険性が高い魔女ではなかった。

 一方、魔傘の魔女は違う。討伐隊を組んだ作戦の決行数三回。その全てを返り討ちにし、二年前の事件以前から重大な脅威とされている魔女。虚構と紫電が現れなければ確実に特級に指定されていた魔女。

 それを簡単に殺した、と彼女は言った。


「魔傘は磁腕に、自分に協力しないかと提案していました。それを磁腕は了承しました、なので殺しました! 」


 最多討伐数の更新。

 それが、彼女が入隊数日で成し遂げ、特級狩人となった理由だったと思い出す。

 天性の狩りの才能。溢れんばかりの狂気。最狂の狩人の名に相応しいと思う。

 状況の確認ができて言いたい事が整理できたが、その前に……


「と、とりあえず、その袋を下ろしてくれないか? 大臣がキレかけてる」


 ◇◆◇


 部屋にいるのは、オレを含めて九人。

 一番奥の席に座る短髪の男が魔女狩り省の大臣であり、その隣に炎器開発室の室長である紅い長髪の女がいる。本来そこには副大臣が座る筈なのだが、今は──いや、もういない。

 様々な情報が書き散らかされた壁の前に立っている、ガタイのいい男は参謀長のツガルだった。彼の脇には片眼鏡(モノクル)の書紀がおり、その正面にオレ達は座っていた。

 対特級部隊・五魔伐に所属する特級狩人だ。

 殲滅班の《獅獣凰》を除いた五人。確か彼は、鎧操の魔女を追っていたか。

 追跡班の《不死鳥》

 巡回班の《幻氷炎》

 防衛班の《黒爆腕》

 調査班の《羅生門》と《絶死痕》

 五魔伐以外の二人の特級も不参加らしい。


「本題の前に一つ、確認したい事がある」


 大臣が口火を切った。

 低い声で、オレに視線を向けながら話す。


「調査班・班長《羅生門》のアク、貴様に問う。なぜ、副大臣の護衛任務を放棄した? 」


 普段通りの無表情ではあるが、声音に怒気を感じた。

 オレは、まぶたを閉じてその時の事を思い出す。


 ○●○


 私たちの隠れ家は、王国の中心から離れた田舎にある。

 そこに小さな家を借りて暮らしていた。

 普段は私と銃器の魔女であるシータの二人暮らしだ。

 だが、


「ロチョウちゃん、最近の調子はどうなん? 」


 今日はもう一人いた。

 凪嵐の魔女・ルスタ

 彼女は持ち前の明るさのまま話し続ける。


「そういえば王国で今流行っとるお菓子があってな? 」


 ルスタは私たちと協力関係ではあるが、あくまでもその程度。それ以上ではなかった。

 様々な反逆魔達(レジスタンス)と関係を持ち、それぞれに有益な情報を提供をするのが彼女の仕事。

 本人は三級魔女ではあるが、一級や特級とも関係がある。

 狩人にバレたら文字通り殺される所業だ。

 そのくせして、頻繁に王国の中心地に出入りしている強心臓。


「はぁ、用件はなんです? 」


 露骨にため息をつきつつ、話を促す。

 彼女は少し残念そうにしながらも話し始めた。


「いやぁ、大した事やないんやけどね? 薔薇の反逆魔達(ローズレジスタンス)が本格的に動き始めたみたいやで」


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