死神のセレナーデ
死神、とは何か。生きるとは何か。をたんぺんで薄っぺらく書いてしまって大変申し訳ないですが、私の生きるとは所詮、この程度の感覚なのだろうと思います。
人々は私を死神と呼んだ。
手をかざす。思いを込める。
ただ、それだけで、目の前の生き物が、眠るように、目を閉じる。
苦しむこともなく、緩やかに、ゆっくりと。
そして、呼吸を忘れ、現世の命を終える。
とても不思議な事が起きている。
ただ、手をかざしてだけなのに、思いを気持ちを込めるだけなのに、生物の生命活動を、いとも簡単に終わらせてしまう。
更に、不思議な事は続く。
それは、目には見えないが、体の中に吸い込まれてくる、独特の感覚がある。
生命力を奪う、という表現が合っていると思う。
力が漲るという事、元気が湧くという事、なのだろう。
目の前の生物が死んだ代わりに、私は活力を得る。
特殊な力を持つ仲間は他にもいるが、私はその中でも割と特別というか、異能だという。
だからなのだろう、死神と呼ばれるには十分な能力だ。
古き友が名付けた呼び名。
好きでも嫌いでもない呼び名。
気付けば、私だけ生き長らえて、戦で共に戦った友は死に、約600年の月日が流れた。
苦しかった。何のための力なのか。誰も救うことのできない、奪うだけの力。
救いなどない。あるの心の地獄だけ。
当然、何度も死のうと思った。
色々試してみた。自分の不老不死を終わらせるために。
ドラキュラの弱点のように、心臓を串刺しにしてみたり、首を刎ねてみたり、爆薬で体に木っ端微塵にしてみたり。
ありとあらゆる事を試した。
でも、何をしても体は再生した。
だから、自分を殺す事を諦め、自然に死ねる方法を考えた。
生命力を奪わなければ、飲みくいしなければ自然に死んでいくのでは?と。
1日たち、2日たち、3日、5日、1週間。
ただひたすらにじっとしていた。
生命力を奪う事も、食べることしなかった。
少しずつ疲弊していく感覚。
目の前はかすみ、手足の感覚は次第に薄れていった。
これで、今度こそ、死ねると思った。
死を渇望し、死に期待した。
でもそれも叶わなかった。
極度の疲弊状態。
私は、気づかぬうちに深い深い眠りに落ちた。
ハッとした。
目を開けた時には、体からは生命力が溢れていた。
意識の無い状態、私の体は自動的に、周りの生物から生命力を奪っていた。
あたりにはたくさんの動物が、眠るように死んでいた。
それ以来、死ぬ事も諦めた。
生きていくしかなかった。
果たして、その状態を生きていると、言えるのだろうか。
呼吸をするように、生命力を吸い取り、命を奪い、ただ心臓が動いている。
肉体が動いていれば、生きているといえるのだろうか。
心が満たされることはない。希望もない。
それを、本当に、生きているといえるのだろうか。
そんな、私を必要とし、生きる目的をくれたのは、今共に戦う仲間達。
彼らが必要としたのは、私の異能だ。
でも、気付けば、私が彼らを必要としていた。
異能を必要としつつも、私を一人の人間として認め、向き合い、受け入れてくれた彼らを、私の生きる拠り所になっていった。
誰になんと呼ばれようとも、死神と呼ばれようとも、私は一向に構わない。
彼らと共に歩める人生に、共に戦える喜びに、私は歓喜している。 そこに愛を感じている。生きる目的を得ている。
生きていていいのだ、と安堵している。
故に、彼らと共に戦い続ける。
私を必要とし、私が必要とし続けるかぎり。
愛を感じて続けられる限り。
人々は私を死神と詠んだ。
読んでくださりありがとうございました。
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