不意打ちで脅迫的で問答無用な虫除け少女
「はぁ……はぁ……」
熱い息が顔にかかる。いつの間にか俺は肉宮に、獲物を狩るような形相で接近され、壁に追いやられて、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。
そして、そこに白坪さんの視線が横から刺さる。所謂、修羅場という奴だ。
「はぁ……。嘘はだーめ。だよ?それだけは許せないかなー」
肉宮の目つきが変わる。いつもの、アホ丸出しのヘラヘラした目ではなく、ギラついた肉食獣のような眼光をしていた。
「浮気のための嘘なんて最低だなぁ。あぁ〜あ、こんなにカワイイ子が猛アピールしてるのに、別の子に現を抜かすような男になっちゃったんだ〜。悲しいよ〜……」
触手が、俺の身体を制服の上からなぞるように這ってくる。
服越しなのに、ゾクッとするような感触が脳まで遡ってきて、俺の思考をかき乱す。
「それに……。そっちの子。シラツボちゃんだっけ?」
「え、は、はいっ」
「私のこれ、見えてる?ほら、触手」
「は、はい……」
「ふぅん。見えるんだ。催眠が効いてないんだね。じゃあ、そこでしっかり見ててね〜。この人は私のものになる予定なんだから」
「……」
触手は俺の首筋を通り、シャツの中へと入ってくる。そして、肌に吸い付いて全身を這いずり回る。
「ひっ……。っ……」
「あれ?結構耐えるじゃん。他の女の子の前だからカッコつけてる?そんなことしても無駄だよ。君は私に情けなーく犯されちゃうの。ほら、その様子を見せつけてあげよ?」
その容赦の無さは普段の頭ゆるゆるで、じゃれついてくるような感じとは違って、徹底的に俺をねじ伏せる凄みがあった。
「はぁ……はぁ……。おい……流石にやりすぎだって。お前らしくないぞ」
「私は別に普通だよ?ただ、焦ってるだけ。猛アピールしなきゃ君が他の子に取られちゃう。だから、こうして必死になってんだよ」
触手は少しずつ、俺の制服をひん剥いていく。ボタンが半分くらい外されて、ベルトはカチャカチャと音を立てている。
「やめろ……!」
「……んー。まあ、別にやめてあげてもいいんだけど、その代わりにお願い。私とキスしてよ。ね?いいでしょ?」
「……」
俺は黙り込む。恥ずかしいとかそういう感情は既に無くて、豹変した目の前の少女に得体の知れない恐ろしさを感じていた。
何か、取り返しのつかないことになるような、そんな予感がする。
「ねえ、早く答えてよ。それとも、黙ってるってことはOKってことなのかな?それじゃあ……」
肉宮の顔が近付いてきて、今まで越えなかった境界すらも簡単に飛び越えていく。
目を瞑るまでの刹那にほんの少しだけ、肉宮の目の奥に何かが見えた気がした。
「ん……」
唇が触れ合う。まさかこんな形ですることになるなんて思ってはいなかった。
くらっとする甘い香りと口内が痺れるような酸っぱい味がして、頭が整合しない。
痙攣する身体に這う触手も俺の肌に吸い付くようにしてきて、全身で肉宮に包まれているような錯覚に陥る。
何重にもバグを起こした脳が意識を手放し、身体の末端から力が抜けていく。
そうして、俺の視界は暗転した。