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うっかりで印象的でいたずらな触手系少女

 学校に着くと、案の定というべきか、教室には肉宮がいた。机の上に座って足をぶらぶらさせている。しかも、よりによって俺の机で。

 そしてこちらをじっと見つめている。

「……」


「……なんだよ。キモい髪うねらせやがって」


「え〜。女の子にそんなこと言っちゃうの? みんな私のこと可愛いって言ってくれるのにな〜」


 嘘つけ。触手持ちの変態に気持ち悪い以外の感想を持てるかよ。


「まあ、催眠かけてるから当たり前なんだけどね〜」


「は?」


「えへへっ。口が滑っちゃった」


 舌をぺろっと出してごまかす肉宮。こいつ、今なんつった? 催眠?


「お前、まさか……」


「うん。そうだよ〜。みんなこの触手のこと理解できてないの。だから、私の秘密を知ってるのは君だけなんだぞっ!」


 どうりで誰も騒がないわけだ。こんな変態触手女もただの美少女としか認識していないんだろう。


「君さえよければぁ。みんなの前で公開れーをしちゃうことだってできるんだよぉ」


「おいやめろ。聞かれたらどうすんだ」


「大丈夫だって。みんな催眠かかってるから」


 こいつの気が知れない。本当に。そこまでして俺を手に入れたいか?


「ってか、そこどけよ。座れないだろうが」


「あ、ごめんごめん」


 普段はしつこさ極まりないのに。変なところで素直だったりする。


「今日も、一緒にお昼食べようねっ! 約束だよ?」


「嫌だ」


「じゃあまた後でね〜」


 肉宮が自分の席に戻っていく。その様子を見て、近くの席の奴とかは恥ずかしいものに向けるような生暖かい視線を送ってきたりする。俺はそれに気づかなかったフリをして、自分の席についた。

 こういうところも催眠とやらでごまかしてくれよ。あいつと一緒にいるってだけで恥ずかしい。



 授業中。俺はずっと悶々としていた。肉宮のあの甘い言葉と声色。それらが頭の中でぐるんぐるんと回っている。

 それに、口の中も気持ち悪い。今朝突っこまれた時に、粘液的なものが分泌したのかまだ少しネバついているような感じがする。

 俺の中に蓄積した残滓が、肉宮 嬬樹という存在を嫌というほど知覚させる。

 肉宮のことが嫌いなのに。あんなのの言いなりになってたまるものかと思っているのに。どうしてこうも意識してしまうのか? ああ、イラつく。

 こんなことになるくらいなら俺も催眠にかかって、あいつのことをただのクラスメイトとでも思うだけの人間になりたい。

 なんで、あいつは俺にだけ催眠をかけないんだ、そっちの方があっちにとっても楽じゃないか。

 それに、楽って言うなら俺が寝てる隙に夜這いでもすればいいものを、それをしないというのもおかしい。

 何か理由がある。

 そこに、付け入る隙を見い出せそうで出せない。

 俺の思考が堂々巡りを繰り返していると、首筋に何か冷たい感触を感じた。


「……っ!」


 授業中だから声を出すとまずい。咄嵯に手で口を塞ぎ、周りの様子を伺う。

 向こうの席から、肉宮が触手を伸ばしてきていた。その先端を俺の首元に当てて遊んでいる。

 なにやってんだよ。

 触手は先端で俺の机の上のペンを奪うとノートに文字を書き始めた。


『だいすき♡』


 なんかもうここまでくると、ウザいとかじゃなくて器用だなぁと感嘆するようになってしまう。

 俺の青春が普通のそれなら、こんなラブレターもどきを受け取った時点で恋に落ちてたんだろうけど、あいにく普通じゃない。肉宮はそういう対象として見れないし、見たくない。

 そもそも、触手に恋愛感情なんて抱けるはずがない。だから、肉宮の触手にドキドキするなんてことはない。

 そう自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。

 すると、肉宮の触手がまた動き出した。今度は俺の頬をツンツンと突いてくる。やめろ。くすぐったい。

 俺はその手を払い除けようとするが、その前に触手は俺の手の甲を撫でるように絡めてきた。

 ゾクッとした感覚が背骨に走る。

 そのまま触手は、俺の指の間に触手を差し込んできて、いわゆる恋人繋ぎの形になった。

 なにこれ気持ち悪い。

 肉宮の方を見ると、彼女は顔を赤らめ両手を頬にあてながらうっとりしたり、顔をぶんぶん振り回したり、こちらを見てニヤついたりしていた。

 おい、なにしてんだよ。こっちはお前の触手がキモすぎて鳥肌立ってるわ。

 心の中で悪態をつくが、当然それは届くわけもなく、触手の絡みつきはますます強くなる。俺は触手を振り払おうと手に力を入れるが、全くビクともしなかった。


「……」


 肉宮の方を睨みつけるが、触手は相変わらず俺の手に絡んだまま離れようとしない。

 仕方なく、ペンで触手をぶっ刺し、強制的に引き剥がす。


「いっっっ……」


 向こうの席で、小さく悲鳴が上がった。それに懲りたのか、それ以上授業中にちょっかいをかけてはこなかった。

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