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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

経験値を手に入れた。勇者はレベルアップしました。

作者: PON


私の住む世界では、ヒトとマモノが争いをしていました。


東にあるヒトが治める王国と西にあるマモノが治める王国の間には、大きい戦争が起きていて、たくさんのヒトとマモノが死んでいました。


そんな世界でも、全てのヒトとマモノが争っている訳ではありませんでした。


私が住むこの村は、東の王国と西の王国の狭間にありました。


この村では、ヒトである私と姉、そして住人のマモノ達が平和に暮らしていました。






ある日の事です。


村のマモノたちが、騒いでいました。


どうやら、村の外からヒトが来たようでした。


でもマモノたちが、どうして慌てているのか私にはわかりませんでした。


外から帰ってきた姉は、怯えた顔で私を家の床下に押し込みます。


「どうしたの?お姉ちゃん?」


「大丈夫、心配しないで。お姉ちゃんが良いって言うまで、ここにいてね?」


「わかった」


そう言い残して、姉が帰ってくる事はありませんでした。




「ここに居たぞ」


大きな声が聞こえました。


私が顔を上げると、見知らぬヒトたちが居ました。


私は見知らぬヒトたちに連れられ外に出ます。


外に出ると、村のマモノたちは、みんな死んでいました。


一緒に遊んだトモダチも、優しいお隣さんも、勉強を教えてくれた先生も、みんな、みんな、死んでしまいました。


「怖かったろうに。君を捕らえていた魔物は全て倒したから安心しなさい」


私は見知らぬヒトたちと一緒に、村を出ました。





あれから数年が経ちました。


私は東の王国で、剣と魔法と歴史を学びました。


魔物は悪いモノ、恐ろしいモノ、怖いモノ...そう教わりました。


ある日、王国の王様に、勇者だと告げられました。


魔王を倒す為に、たくさん訓練をする事になりました。


魔王を倒す為に王様からは、とても美しい剣を授かりました。


この純白の剣は、聖剣というモノでした。


そして今日、私は魔王を倒す旅に出ます。


王国を出るときには、大勢のヒトたちが私の旅立ちを祝福し、祈り、見届けてくれました。


私は、この人たちの為、魔王を倒すのです。




旅の途中、人気の無い街道を歩いていると、空から一筋の光が差し込みます。


光の先には、羽の生えた小さな光のヒトがいました。


『こんにちは、勇者ちゃん。ボクは君を助ける為に遣わされた"天使"だよ』


光のヒトは天使と名乗った。


『勇者ちゃん、このままでは君は魔王に殺されてしまうよ』


「どうして?」


『君のレベルが低いからさ』


「レベル?」


『ふふ、そうレベルだよ。君はこの旅の途中で数々の困難と敵を倒して、自らを強化しなければいけない。でないと、魔王に負けてしまう』


「......そのレベルを上げるには、どうしたら良いの?」


『敵を倒せば良いのさ』


「魔物のことですか?」


『そういう事!ほら、あそこに魔物がいるよ!倒してごらん』


天使が指差す先には、ゴブリンがいました。


私は純白の剣、聖剣を抜き、ゴブリンに近づく。


私に気づいたゴブリンは私を襲う。


私がゴブリンを返り討ちにすると、聖剣は血に染まった。


『経験値が手に入りました。レベルが2になりました』


天使が突然、無機質な声を出す。


同時に、私の身体に力が漲るのが分かった。


『どうだい?凄いだろ?でも、まだ足りない。魔王には到底及ばない』





『経験値が手に入りました。レベルが30になりました』


私は森でトロールを倒した。


あれから私は、数多くの魔物を倒して来た。


人間を襲う魔物も、私から逃げる魔物も、天使に言われるがまま、殺した。たくさん殺した。


殺した魔物の多さを物語るように、聖剣は真っ赤に染まる。


「もう十分じゃない?魔王のところに行きましょう」


『うーん。まだかな?もっとレベルをあげよう』


私は正直、乗り気では無かった。


はじめの頃は強敵もいて、死にかける瞬間もあったのだが、最近では魔物の攻撃で死にかける事なんて無くなっていた。


このトロールだって、森の奥に隠れているところを、わざわざ炙り出して倒したのだ。


これでは弱い者いじめと変わりない。


それでも私は天使に従い、次の敵地へと向かった。





『経験値が手に入りました。レベルが50になりました』


目の前にはドラゴンの亡骸が横たわる。


もはや、私に勝てる存在はいないのでは?と思うほどの力が私にはあった。


「魔王を倒しに行きましょう」


私の手にある聖剣は赤黒く染まる。


かつて純白だった美しい刀身を暫く見ていない。


『まだ足りないよ。きっと魔王はもっと強い』






『経験値が手に入りました。レベルが70になりました』


迷宮の奥深く、ここには七体の強大な力を持った悪魔が住んでいた。


しかし私の手に掛かれば、それも一瞬だったのだ。


「もう、いいでしょ?」


私の聖剣は黒く染まり、刀身が血で錆び付いていた。



ーーー助けてくれ


強大な力を持つはずの悪魔たちが私に命乞いをする姿が脳裏から離れない。


もういいじゃない。


もう十分じゃない。


もう終わりにしたい。



『ーーーまだ足りない』


「どうして?!この悪魔たちですら、私にダメージを与える事は出来なかったのよ!」


『うーん。でも、きっと、もしかしたら、魔王はもっと強いかもよ』


「そんなーーー」


『さあ、次に行こう』






『経験値が手に入りました。レベルが80になりました』


目の前には、巨人達の死体が転がっていた。


聖剣は刃毀れし、ボロボロになっていた。


巨人達は、私に勝てないと悟り降伏していた。


無抵抗な巨人を私は皆殺しにした。


老人も、女も、子供も...皆殺しにしたのだ。


「もう...イヤ。殺したくない。殺したくないよ......」


『あははは、君に決定権は無いよ。さあ、どんどん行こう』


「これ以上のレベル上げは無理......だって、この巨人より強い魔物なんて、存在しないじゃない!」


『無理じゃないよ』


「えっ...」


「簡単な話さ。質がダメなら、量だよ」


私の背筋に悪寒が走る。


「や、やめて。お願いだから。もう殺したくないの!」


『うふふ。残念だったね』





『経験値が手に入りました。レベルが90になりました』


私の目の前には、小さな魔物の村があった。


村の建物は燃え落ちて、住人であった魔物たちの亡骸がそこら中に転がっていた。


すべて、私がやったことだ。


私の身体は赤く染まり、手に握る聖剣は折れ、刀身が半分となっていた。



ふと、昔の事を思い出した。


私も似たような村に住んでいたな、それは遠い日の記憶だった。


どうして私は戦っているのだろうか?


本当に魔物は悪い存在なのだろうか?


少なくとも、私と姉が暮らしていた村の魔物は優しかった。


ヒトもマモノも変わりなかったのだ。



『この辺の村も滅ぼし尽くしたね...うーん。あっ!北の地域はまだ行っていなかったね。うん、あそこなら、まだ集落が残っているかも』


「......」


『あれれ?最近口数が少ないね?』


「黙れ」


『あははは、怖い怖い』





『経験値が手に入りました。レベルが91になりました』


私は北の地域一帯を滅ぼした。


それで上がったレベルがたったの1だ。


私は、絶望した。


逃げ惑い、泣き叫び、憎悪し、苦しみ、痛み、祈り、命乞いをする魔物たちを殺した。


その結果がたったの1だ。


これに何の意味があるのだろうか?


誰か教えてーーー。




『やっぱり、量だけじゃあ、効率が悪いね。神様も飽きてきたみたい...うーん。別の手を考えないと』


ここまでする魔王は嘸かし強いのだろう。


なら、早く私を殺しに来てほしい。


終わりにしてほしい。


もう、誰も殺したくない。






私の目の前には、小さな洞窟があった。


ここはゴブリンの巣穴だ。


「今更、ゴブリンを倒したって経験値は入らないじゃない!それなのになんで...」


『あははは、そうだね。でもね、それは聖剣を使えばの話さ。君には今から、素手でゴブリンを倒してもらう。そうするとね、経験値が"1"入るのさ』


「え...」


『勇者ちゃんのレベルが99になるまで、あと経験値は100万くらい必要だから、がんばって!』


不思議と、ここの巣穴からゴブリンが無限に湧いてくる。


これから、ここでゴブリンを100万体殺し続ける事になるの?


「イ、イヤ...お願いだから、神様...どうか......」


『あれれ...神様の姿が見当たらないな...あっ!自動作業モードにしてる。勇者ちゃん可哀想に...』


天使がナニを言っているのか、私には理解出来なかった。


私の身体が、私の意志に関係なく動き出す。



洞窟から湧いて出てくるゴブリンを機械のように殺した。


『経験値が手に入りました。レベルが92になりました』


ゴブリンを踏み潰し、頭を握り潰し、首を捥ぎ取り、腕を引き千切り、内蔵を引き摺り出し、蹂躙した。


『経験値が手に入りました。レベルが93になりました』


朝も夜も...何日も......殺し続けた。


『経験値が手に入りました。レベルが94になりました』


眠らずに...休まずに...食べずに...飲まずに...殺し続けた。


『経験値が手に入りました。レベルが95になりました』


殺した、殺した、殺した。


『経験値が手に入りました。レベルが96になりました』


ころした、ころした、ころした。


『経験値が手に入りました。レベルが97になりました』


コロシタ、コロシタ、コロシタ。


『経験値が手に入りました。レベルが98になりました』


ああ、誰か私を止めて。殺して。





『経験値が手に入りました。レベルが99になりました』


目的は達した、レベルはもうこれ以上、上がらない。


なのに神様は現れない。


『あれー、神様ー!...忘れちゃってるのかな?』


私はもう、これ以上レベルは上がらない。


それなのに、ゴブリンを殺す手は止まらない。


叫び声が聞こえる、泣き声が聞こえる、命乞いが聞こえる。


だけれど、この手は止まらない...


『経験値が手に入りました。これ以上レベルは上がりません』

『経験値が手に入りました。これ以上レベルは上がりません』

『経験値が手に入りました。これ以上レベルは上がりません』

『経験値が手に入りました。これ以上レベルは上がりません』



これ以上彼らを殺す意味はない。


では、今から死ぬ彼らに意味はあるのだろうか?


......ああ神様、どうか彼らに慈悲を与えてください。





ーーーどのくらいの時が経ったか。


数日のような気もすれば、数年のような気もした。


私の目の前には、ゴブリンの死体の山。


文字通り、山があった。


腐敗したゴブリンたちの死体からは、凄まじい腐臭がするが、もはや何も感じなかった。


私の手は、腕は、脚は、顔は、身体は赤く染まっていた。


ーーーああ、もう何も感じない。感じない。


そして、その時は突然訪れた。


『よし!魔王を倒しに行くよ!』


「う、うあ...ウあああ、う」


『あれれ、もしかして壊れちゃった?』


「......」


『まっいいか』





ここは魔王の城。


この扉を開けると、魔王がいる。


やっとこの地獄が終わる。


私は殺し続けた。


強くなる為に、殺した、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺した...


すべてはこの時の為。


扉を開けるとーーー。








そこには、姉がいた。


「久しぶりね、元気にしてた?」


「う...あ?」


私はうまく話せない。


もう何も考えられない。


「そう、私が魔王なの...」


「あ、あ...ア」


『おやおや、姉妹の感動の再会ってやつだね!』


私はこれから、姉を殺すのか?


姉を殺す為に、たくさん魔物を殺したのか?



「さあ、戦いましょう。それが私たちの"役割"なのだから。でも戦うのが貴女で良かった...貴女になら殺されても良いーーー」








気づくと目の前には、姉が......姉だった肉塊があった。


それは一瞬で決着が付いた。



身体が勝手に動き、気づくと姉の身体は爆ぜ、内臓と肉片が辺りに飛び散っていたのだ。


私はただ掌で姉に触れただけだったのに...


こうして、戦いは終わったのだ。

あっけなく、あっさりと、簡単に。


聖剣を使うまでも無く、魔法を使うまでも無く......



『もう終わっちゃった?あっけないねー』


「あウあアアう、あああう、あああウがアアアアアアアアアア」


私は最後に残った気力で天使を殴りつける。


しかし、私の拳は空を切った。


『ムダムダー。そんなの意味ないよ』


私はそれでも、拳を振るう。


『滑稽だねー。おや、お別れの時が来たようだ』


世界が揺れる、揺れる。ゆれる。ゆれる。


『エンディングが来たようだね!もうこの世界は此処でお終いだ』


何を言っているんだ?


『ラスボスを倒したからね。この世界に、ここから先は存在しないんだよ』


そして世界は暗転する。


『じゃあ、さようなら』







ーーー気がつくと、私は村にいた。


小さい頃に過ごしたあの村に。


「夢...だった?」


目の前には優しい姉の笑顔があった。







『強くてニューゲームが開始されました』


レベル上げをしているキャラの気持ちを描いてみました。

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