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#09 ネトゲのフレンドと遊ぶときって、普段より少し悪戯好きになる気がする

 バトルロワイアル、通称”バトロワ”と呼ばれるジャンルのゲームの特徴として、戦うための準備というものが上げられる。

 従来のFPSシューティングゲームでは、対戦開始前に自身が扱う武器をカスタマイズすることで、個性とともに自分の戦い方というのを確立する。


 しかし、バトロワでは対戦開始前に武器の準備といった要素が排除されている。

 ではどうやって戦うのか、答えは簡単で、対戦開始後に対戦フィールドで現地調達する。


 敵と戦う前に操作するキャラクターをどこまで強くできるか、それがバトロワという新しいジャンルを確立していった大きな要因だと、私は思っている。


 ここで重要なのは、武器といったアイテムを入手できるかどうかの大半が、運に委ねられているということ。


 運が良ければ例え初心者と呼ばれるプレイヤーでも、武器を持たない敵に万全の状態で戦いを挑むという、一種のビギナーズラックがシステムとして幾分保証されている。


 実際はそうならないように、ゲームの仕組みを分析したりするのだが、それでも”運が悪ければ”という可能性が必ず付いて回る。


 ここまで説明すれば、大半の人が戦う前の準備という行為がどれほど重要なのかが分かるはずだ。

 だが、ここで気を付けなければいけないのは、自分の運と敵の二つではないということ。敵は身近に居るものだ。


「――って事があったんですよ。私、明日からどんな顔して学校に行けばいいんですか……」


 秋ちゃんに復讐シッペを完遂した私は、家に帰るなりパソコンを立ち上げて、ネットの向こうにいるゲーム仲間フレンドを招集。

 憂さ晴らしと愚痴の吐き場所を用意した私は、遠慮することなく今日までの流れを説明し、鬱憤を敵に銃弾に形を変えて撃ち込みまくった。


「現実でファンクラブ出来た人の話なんか初めて聞いたよ」

「俺もー、っていうかSUMIって自分のことをいつも可愛いとか、完璧美少女だー、とか言ってたけどあれってマジだったんだ」

「マジですよー、私ウソ嫌いだもーん」

「あ! てめっ! それは今俺が拾う所だったんだぞ!」

「関係ないでーす、早い者勝ちでーす」


 フレンドと遠慮のないやり取りをしながら、私はフレンドの目の前にあった回復アイテムを搔っ攫う。


「まあ、SUMIも大変だろうけどさ。こうゆうのはネットとかで顔も見えない相手にいうもんじゃないぞ?」

「えー、どうしてですかあ」

「今どきリアルにファンクラブあるとか、SNSあさったりすれば芋づる式に身バレする可能性があるんだよ。だから愚痴るにしても特定し難い内容にするのがベターなの」

「じゃあ、アヒルさんは私の事探そうとか、身バレさせてやろーなんて思ってるんですか?」


 中学2年の秋から始めたオンラインゲーム、その中でも大人で正常な思考をしている、私にとってのお兄ちゃんポジに勝手に任命しているアヒルさん。


 オンラインゲームで始めてあったのがアヒルさんでなかったら、私のオンラインゲーム生活は、今以上に楽しくなることはないだろうと思える人だ。


 私が所属しているコミュニティを管理しているのもアヒルさんで、私のオンラインでの人脈はアヒルさんを中心として広がっている。

 必然的に、私が何かリアルで嫌なことや嬉しかったことがあったときに、家族以外に話せる相手としても一番候補だ。


 そんな人に社会人のモラルと正論で嗜められた私は、それでも子供っぽく反論しようとする。

 ついでに、コミュニティで知り合って一緒にゲームする中で、今も一緒にゲームをしているもう一人のフレンド、ガガンさんの目の前にあったシールド防具を掠め取る。


「だから俺の前にあったシールド飛んじゃねえよ!」

「ねえ、アヒルさん。どうなんですかー?」

「いやしねえけどさ、するつもりならこんな話自体そもそもしねえっての。それでどうなんだ、自分のファンクラブがあったこと知って、どう思った?」


 アヒルさんの質問に、私は少し悩んでから返答する。


「正直実感ゼロです!」

「そりゃそうだ、がっはっはっは!」

「もう! 私は真面目に話してるんですよ! もうちょっと真剣な態度で聞いてくださいよお……」


 私の気も知らないで笑うアヒルさんに、私は抗議の声を上げる。

 後ついでに、目の前でアイテムバッグの整理を行っているガガンさんがいたので、丁度ゲーム内でかなり強い武器を捨てたので、私はありがたく頂戴した。


「うがああああ!」


 悲鳴を上げるガガンさん。

 何故か今日のガガンさんは私が前を通ると発狂する。どうやら私が本当に美少女だったことに気づいて、気が動転しているのだろう。

 良いぞ良いぞ~、私は美少女だから許してしんぜよう。


「諦めろガガン、こいつの前世はさぞ名の知れた大怪盗だったんだと俺は予想するぞ」

「貧しい奴からアイテム強奪する大怪盗が居てたまるか!」


 二人が何やら不遜な会話をしていたのを、私は聞き逃さなかった。

 残念、私の前世は名もなき一般男子高校生です。


「はあ、私がこんなにもパーフェクトエンジェルだったせいで、ガガンさんのハートを盗んでしまったみたいです」

「――――ンガアア! 死にさらせえええ!」

「だっはっはっは!」


 ガガンさんが私に向かって銃を乱射してくる、しかしこのゲームではFFフレンドリーファイヤは存在しない。それを知らないガガンさんではない。

 つまりガガンさんの行動は私への照れ隠しということなのか……可愛いお人やないか。


「ガガンさん、そんなに私に好意を向けられても困ります。でも安心してください、私は皆の美少女なので! だから、はよアイテムください、貢いでください」


 そう言いながら私は、ガガンさんの目のまで自キャラを左右に微振動させる。

 ついでに屈伸も合わせて催促する。どうだ、この1年で磨かれた物乞いステップは!


「……もうそれでいいです、アイテムも上げるので許してください」

「仕方ないですね、それで許してあげます。あ、そのアイテム以外弱いので、それだけ頂ければ大丈夫です!」

「なんてむごい光景なんだ……」


 そんな茶番をしていると、どうやらガガンさんの乱射を聞きつけた敵が、こちらのほうに全力疾走してくるのが見えた。

 バトロワではよくある光景だ、銃声=戦闘が起こったという意味であり。そうなればどちらが勝つにせよ、アイテムや体力の消耗は避けられない。


 バトロワ名物、漁夫の利を狙うプレイヤーだ。


「あ! 敵が来てます。S方向からです。ガガンさんの銃声におびき寄せられたっぽいですね」


 物乞いステップを止めて、私は銃口をガガンさんの操作キャラに突きつける。


「おいSUMI、なんで俺に銃口向ける。敵は今目の前から来てんだろ、銃を向ける相手は味方じゃなくて敵にするべきだと俺は思うんだ」

「いや、やっぱりこうゆうのって、原因を排除するところから始めるべきだと思うんです」


 私は普段とは違い感情を感じさせない声色を、少し低くしてガガンさんに話しかける。


「わかった! わかったから! 今来てる連中を俺が3人とも相手するから許してくれ、お前のその声マジで怖えんだよ……」

「いってらっしゃーい」

「SUMI、俺はお前の成長が嬉しいぞ」

「アヒルさん、マジでなんでそんな反応するんだよ。まずはSUMIの暴走を止めるところからだろ? っていうか、この1年でSUMIがこうなったのあんたのせいだろ!」


 ガガンさんが一人敵陣に突っ込みながら、アヒルさんを無責任に非難する。

 私をここまで育ててくれた大恩人になんてことを言うのだろうか。


 私たちのコミュニティは所詮エンジョイ勢と呼ばれる、ゲームで相手に勝つことよりも楽しければそれでいい、っていうのが大前提のコミュニティになる。


 だけど、エンジョイ勢がゲームが上手くなかったり、弱かったりするのかと言えば、一概にまとめることはできない。


 私はまだオンラインゲームを初めて1年ということもあって、まだまだ足りない部分が多いことも自覚している。

 それでもコミュニティ内で、この手のゲームが上手い人を上げるなら、アヒルさんとガガンさんはまず名前が上がるほどに上手だ。


 コミュニティ外の他プレイヤーと比較しても、かなり上手いほうだと私は思っている。


 だからガガンさんが敵チーム全員を相手にするという言葉も、決して絵空事というわけではない。

 現に敵陣へ向かったガガンさんは、1対3の状態で2人を倒すほどの働きを見せている。


「ラストワンー! でああ! 撃ち負けたあああ!」

「惜しかったなあ、あともう少しだったな」

「そうですね、ラスワン私貰いますねー」


 絵空事では決してないけど、それが今実現できるかと言われればそういう話でもない。

 ガガンさんは敵と最後の一騎打ちで破れてしまう。敗因としては回復アイテムが足りなかったこと、それと強い武器を持ってなかったことだ。

 何とも爪の甘い話である。


 バトロワでは戦闘前の事前準備が大事だと言える、典型的な例がそこにあった。


 私はガガンさんがくれた、ゲーム内で上位の強さを誇る遠距離武器のスナイパーで、ガガンさんに止めを刺そうとしていた最後の敵を打ちぬく。


 言い忘れていたけど、スナイパー系の遠距離対決なら、コミュニティ内で私に勝てる人は居ないのが私の数少ない自慢話だ。


「もう、大丈夫ですかー? だからしっかりと物資集めしないといけないって、いつも言われてるじゃないですかー」

「くそお、今絶対それを言うのはお前じゃねえはずだ……」


 安全を確保した私は、敵との戦闘で死亡判定をされる一歩手前、ダウン状態と呼ばれる味方からの蘇生待ち状態だった、ガガンさんを蘇生しようとする。

 ガガンさんはそんな心優しい私に、感謝の言葉もなく悪態をついてくる。


 私は少し悲しくなって、蘇生を中断してガガンさんの前で物乞いステップを開始する。


「ほら、アイテム出してください。蘇生はそれからです」

「マジで鬼だろ」


 自身を助けた仲間に対してのあまりな扱い、これには心優しい私も少し傷ついてしまう。

 悲しさを表現するために、私はガガンさんの周囲を物乞いステップで回る。


「そういえば、この状態って。また次の漁夫狙いがきますよね、アヒルさん」

「もちのろん」

「はい! これ、俺が持ってるアイテム全部だ。だから、だから……早く蘇生をしてくれええ!」


 ようやくガガンさんは素直になり、自分が持っているアイテムを全て目の前に放出するとともに、蘇生の催促をする。


「もう、始めから素直にそうしていただければ、私もこんな悪戯なんてしなかったんですからね。次からは気を付けてくださいね?」

「これだけのことして、それがただの悪戯……?」

「あはははは、可愛い悪戯ですよー」


(はあ……楽しいな。今日あった不安もこうやってどこかに吐き出せたり、何もなくても楽しく遊べる)


 オンラインゲームでこうやって騒げる時代に生れてよかったと思える。


 アヒルさんとガガンさんという、顔も見たことない人達とこうやって騒いだりできる事が、あずかり知らぬところで祀られたリアルと違って。

 変わることのない場所が、少しでもあるということを実感と共に、私の心に少しでも余裕をくれる。


(まあ、今日は少しガガンさんに当たり過ぎちゃったな。この間秋ちゃんから人との接し方とか、色々教えてもらったのに、また失敗しちゃった)


 アヒルさんはいつもより茶目っ気を出して場を和やかにしてくれるし。

 ガガンさんも普段以上にテンションを上げて、盛り上げてくるを私は知っている。

 私はただこの二人に甘えているのだ、年は分からないし、前世も今世も一人っ子だけど。


 まるで兄のように二人を慕っている自覚はある。


 私が二人にこうして現実の愚痴や不安を吐露できるのも。二人を始めとして、私の属するコミュニティが最も信頼出来るものだと思えるからだ。

 少なくとも、この1年で私はそう思うことが出来ている。


(もう少しで中学校卒業して、高校生になるけど。その時でも今と変わらず皆と楽しく出来たらいいな……)


 前世の自分が死ぬ時が近づいていることもあり、最近はこうして未来のことで不安になることがあるけど。

 秋ちゃんやもっちゃん、そしてアヒルさんやガガンさんを始めとして、仲良くしてくれるコミュニティがあることで、最後には前を向いた気持ちに慣れる。


 だからきっと、前世の私が死ぬ時でも、私は大丈夫だと思える。


「諦めろガガン、SUMIの前世は大怪盗なんかじゃなく、きっとどこかの革命家だったのかもしれない」

「絶対前世の最後は斬首刑だろ」


 残念、前世の最後は交通事故です。

次話で序章が終わります。

そして、やっと物語が動き始めますので、もう暫しお待ちください。

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