#05 ネットで充実すると、リアルがなんとなく充実していない感じがする
会話文は基本改行しないようにしていますが
会話は発言者単位で改行したほうが読みやすいでしょうか?
ゲームでの勝利に喜びを覚えることは、男女の性別なく享受できることを初めて知った。
遊びだからこそ熱中してしまうし、真剣に楽しんでいるからこそ、負けた時の悔しさは確かに感じることができる。
前世ではテニスというスポーツでもそれは同じだった。
この世界にゲームと呼べるものは無数に存在するし、その遊び方もゲームの数だけ存在している。
だからこそ、同じジャンル、同じルールを持つゲームですら好き嫌いが別れる。
どうして私がこんな前文を用意したのか、それは前世と今世でのゲームに対する認識が変化したことに他ならない。
前世では例え一生を掛けたとしても味わえない、一種の快感にも繋がる幸福を、今世では味わえるようになった。
所謂姫プと呼ばれる行為を通して、私は初めて女という性別の恩恵を受けたと思った。
例えば、最近フレンド達と一緒に遊んでいる、バトルロワイアルと呼ばれるジャンルのゲームだと。
戦うための物資集めと戦闘を交互に繰り返していくこともあって、中盤以降は少しだけ物資が足りなくなってしまうことがある。
だから回復アイテムを始めとした消費アイテムは、特に少なくなる傾向にある。
「SUMI、さっき受けたダメージは回復したか? 回復アイテムないなら分けるから言ってくれ」
「アヒルさんありがと~、少しだけ分けて貰ってもいい?」
「ほいほい、お安い御用」
しかし、女の子である私はこうして、フレンドのみんなから気にかけてもらうことができる。
なぜなら私が美少女だから。これ以外の証拠を私は持っていない。
「ワンダウン!」
「あの距離で良く当てられるなあ」
「もはや5秒先の未来が見えてるまであるぞ」
発射から着弾まで数秒の時間を要する距離で、一方的に相手を倒せた時も、こうやって皆が褒めてくれる。
なぜなら私が超美少女だから。これしかないと思う。
「はい! カウンター!」
「いや、なんで敵のコンボをジャスガ(ジャストガード)出来るんだよ……」
「たまにSUMIが人間に見えねえときあるよ……怖えよ」
格闘型対戦ゲームでも、敵の必殺コンボにコンマフレームで合わせてジャストガードを決めた時も、皆が私を賞賛する。
わ・た・し・が。超絶美少女だから。
「……ガガンさん。なにか、言いました? 私、よく聞こえませんでしたぁ」
「うぇ!? い、いや? な、何も言ってないぜ! 多分マイクが周りの音を拾ったのかもな!」
「バッカおまえ、地雷踏んでんじゃねえよ」
(世の女性ゲーマーは、こんなにも素晴らしい世界にいたんだ……何をやっても褒めてくれる優しい世界、心地が良すぎるよお)
他の人が耳にすれば、反射で否定される程の不謹慎な思考をしてしまう程に、私にとってこの世界は居心地がよかった。
(でも、どうしてリアルはネットみたいに上手くいかないんだろう。皆もっと私をちやほやしてもいいと思うんだけどな)
唯一不満があるとするなら、この環境がネットに限定されていることだ。
顔の見えない、声という不確かな情報のみでのやり取り。それなのにネットではここまで優しい世界が広がっている。
なのに、現実はネットのように上手くいかないのだ。何故か、皆私と話すときは平坦な口調になるし。
少し前まで、アニメとか漫画の話で盛り上がっていた男友達も、少し経つと急に余所余所しくなったりしてしまう。
私が何か気に障るようなことをしてしまったのかと、帰りの時も、家に帰ってお風呂とかベットの上でゆっくりしている時も、1日中悩んでも答えは出なかった。
悪口は前世の時からそうだけど、殆ど口にしたことはないし。蔭口はもっといやだったから、一度だってしたことはない。
なのに、なんでここまで避けられなければならないのだろう。
現実の前世とは全く違う、余り心地の良くない周りの反応と。
ネットの前世とは全く違う、心地の良い空間と楽しくて優しいフレンド達。
この二つのギャップを目の前に、私は楽なほうに逃げてしまった。
秋ちゃん、もっちゃんとは今でも一番仲がいいと思ってる、部活でも3人で仲良くワイワイしているし。
他の女友達とも、仲良くできていると思ってる。
一部の同級生の女の子からは、たまに睨まれているような気がするけど。多分それは私があまりに美少女だから嫉妬しているのだ。
女の子ならそうなるのもわかるけど、男の子は違うだろうと、私は言いたい。
どうしてこんなにも完璧な美少女が、笑顔で楽し気に話しかけているのに、どうして素っ気ない態度を取るのだろうか。
……楽し気というか、実際に楽しいから笑顔なんだけど。それは……まあ。前世の名残と言いますか、内なるもう一人の私がと言いますか。
(と、とにかく。この状況は大変よろしくない。中学校生活はもう1年ないけど、私にはまだまだ高校、大学生活と華々しい未来があるんだから)
中学はもう間に合わないかもしれない、だけど人生は中学生で終わるなんてことはない。
前世は高校生活を楽しむ前に文字通り梅雨と消えてしまったけども、今世の私はおばあちゃんになるまで絶対生きてやると、前世の私に誓ったのだ。
(その誓った相手も、来年にはドーン! ってなっちゃうんだけどね……)
正直、前世の記憶を思い出して。小学校に入学した当初は、未来で自分を助けようとも思った。
でも、私には未来の自分を助けることが出来なくなってしまった。それは今の私が関係していることなのだが、それというのも。
(前世の私を助けたら、前世の私が転生できないよね? もしもそうなら、こんな美少女に生まれ変われるチャンスを、自分が奪うわけには行かない!)
そう、今世の私は美少女なのだ。前世では高校にまでなっても、花より団子状態だった私は、女性というものに興味を持つことなく生を終えてしまった。
そして、今世の私は今の状況に大変満足している。もう、あの時、佐藤君を助けたことに対する贈り物だと本気で信じるぐらい。
私にはできない、こんな男が一度は考える展開を、自ら潰すことなんて。
とはいえ、真面目な話。私はバタフライエフェクトと言われるものを信じていたりする。
過程が変わることで、私の知っている世界が大きく変わってしまうのが怖い。論文や哲学書などで情報を集めてみたりもしたけど。
情報を集めれば集めるほど、ただただ不安を煽るだけになってしまった。
だから私が前世の自分を助けることはない。
だけど、前世の通りに私が死んでしまった後、両親や親友の佐藤君は悲しむだろう。そこは今世の私が出来る限りフォローしていこうと思っている。
前世の両親には、前世の私が死んだあと少し落ち着いた時を見計らって、転生したことを告白しようと思う。
最初は信じてもらえないと思うけど、その時は両親しか知らないはずの話をして、どうにか説得しようと考えている。
多分、前世の両親なら分かってくれると、なんとなくではあるけれど、そう思える。
両親と合わせて、佐藤君にも打ち明けようと考えていた……1年前までは。
もっちゃんからもたらされた衝撃の事実を知って以降、私は転生した話を佐藤君にするべきかずっと迷っている。
もしも、万が一、本当に佐藤君が前世の私……もう前世の私と表現するのが面倒なので、鈴木君にしよう。
もしも、万が一、本当に佐藤君が鈴木君を好きだったのなら。後からぽっと出てきた私を、彼が信じれるとは思えない。
両親のように、説明できる何かすら。今の私は思い出すことが出来なくなっていた。
流石に転生して10年以上経っている、前世の記憶なんて、よほどのインパクトが無ければ覚えていられなかった。
私が一番鮮明に覚えているのは、死ぬ直前。自分の命を刈り取りに来る鉄の塊と、佐藤君の顔が私の記憶では一番鮮明だった。
例え鈴木君が好きではなく、ただの友達という認識だったとしても、目の前で友人が引かれた光景を目にしてしまうのだから。
どちらであるにせよ、佐藤君は相当なショックを受ける。
私が出来るのは、そんな佐藤君を鈴木君の分まで慰める事なのかもしれない。
(まあ、なるようになるよね)
そんな楽観的な思考をしていた中学3年の能天気な私を、もう一度転生してでも叩きに行きたくなるのだけど。
それは1年後の話だったりする。
(それよりも、未来で佐藤君と仲良くなって慰めるためにも。今のうちから男友達を沢山作って、佐藤君に話しかけやすくしないと!)
能天気な思考回路を持つこの時の私は、未来のことを楽観して。まずは男友達ともっと仲良くしたいと、意識をきれいさっぱり切り替えてしまう。
☆
「というわけで、男の子ともっと仲良くなる方法を二人とも一緒に考えて!」
お昼休みの時間、いつもご飯を食べる。信頼できる友達に私がこの相談事を持ち込んだのは、当然の流れだった。
「何を言っているのでしょうか? どこか体調が悪いとかありますか?」
「それ、他の人が聞いたらビッチ扱いされるぞ……。澄ちゃんの場合、本当にただ仲良くしたいだけってことは分かるけど」
もっちゃんは困惑したように、給食に出された煮物を箸で掴んだまま。私のことを心配してくれた。
秋ちゃんは呆れたように、同じく給食で出されたコッペパンをスープに付けて食べながら。なんとも不躾な事を言ってくる。
前世が男だった私は、前世と同じ性別である男の子に興味を持つ事が出来なかった。だから前世の時の意識のまま、男のことは接している。
異性に興味が湧かないからといって、今世の同姓に興味を持つこともできず。そんなジレンマの反動で腐の世界に迷い込んでしまったわけだけど。
「でもでも、これでも私は男の子に人気あると思ってたんだよ? なのに、最近は皆となんとなく距離感がある気がしちゃって……」
「あー、ほー、うーん。ま、まあ。男には色々あるんだよ」
「まあ、私は男性の交友が無いのでよくわかりませんけど。やはり異性と話すと違和感のようなものを感じてしまうのかもしれませんね」
(前世が男だった私にも分からない、男の子の色々ってなんだろう。っていうか、なんで秋ちゃんがそんなことわかるの?!)
もっちゃんの言いたいことは分かる。前世でも逆バージョンで似たようなことはあったし。
鈴木君という男の子は、良くも悪くも男女の差を微塵も意識しなかった。多分、デリカシーという概念をどこかに忘れてきてしまったというのが、私の予想。
なぜなら今世の私はその辺の機微をしっかりと意識しているからだ。
「色々ってなにー? 私わーかーんーなーいー」
「まあまあ、澄ちゃんは分からなくていいんだよ。そのまま、私たちの姫でいてくれ」
「そうですね、澄ちゃんは私たちの癒しですから。変に知恵を身に着けないようにしてくださいね」
「大丈夫、そこんとこは私がしっかりカバーしてるから!」
「んもー。二人してなにさなにさー! うー!」
まるで私を小ばかにするような発言、これはと遺憾の意を表明して威嚇する私に。秋ちゃんから謝罪とともに謝礼として、これまた今日の給食に含まれてたストロー付きリンゴジュースを差し出してくる。
そこまでされては仕方ないと、私は素直に提供されたジュースに口を付ける。
前世の分も合わせれば私は立派な大人だ、これぐらいで腹を立てるなんてことはしない。
「それにしても、男の子と仲良くするのって意外と難しいんですね」
「そうかー?」
もっちゃんの言葉に、私は心底同意するけど。男勝りな秋ちゃんにはよくわからなかったようだ。
(まだまだ子供だね)
私が秋ちゃんに憐みの視線を送っていたのに気づいたのか、秋ちゃんが急に私のほっぺを引っ張る。
「今、私のことバカにした目で見ただろ!」
「ひーふぇーあーいー!」
必死な弁明に、私の頬っぺたはすぐに解放された。
とはいえ、私の完璧なポーカーフェイスを見破るとはなかなかだね、秋ちゃん。私は秋ちゃんを見くびっていたよ。
いつか秋ちゃんが私の高みに登ってくるのが楽しみだよ。そして、私と秋ちゃんによる世紀の大戦が幕を上げるのだ。
「こいつ、またなんか分不相応なこと考えてる。絶対」
「いつもの光景ですねー」
脳内で私と秋ちゃんによる、キノコタケノコ戦争が勃発していた私には。二人の生暖かい視線に気づくことはなかった。
そして、結局男の子と仲良くするための妙案も出ず。議会は放課後に持ち越しとなってしまった。
お昼休み終了のチャイムが鳴って、皆が自分の席に戻っていく中。
私は秋ちゃんの肩を叩いて、こちらに振り向かせる。
「ふっふっふ、秋ちゃん。私と相棒のゴマ油もん吉と戦うまで負けちゃだめだよ?」
「バカかおめえ」
なるほど、秋ちゃんにはまだゴマ油もん吉は早かったみたいだね。仕方ない。
普段は勝気な秋ちゃんだけど、こういった女の子らしい所も見せてくれる。あれだよね、こうゆうのってギャップ萌えって言うんだよね?
「仕方ないなあ、じゃあ末の丸ゴリざぶろーにしてあげるよ」
「ご、ごま油。ゴリ……ざぶろー……ぷふっ、ぷふふふ」
「変なこと言うから、もっちゃんの浅いツボにハマったじゃねえか!」
「頭叩かないで! 痛いよお!」
もっちゃんはなんでか肩を震わせて笑いを堪えている。
そして悪いことは何もしていないはずなのに。秋ちゃんに何故か頭を叩かれてしまう。
なしてよ……