#10 リビドーの高ぶりって、一種の麻薬なんじゃないのかなっていう話
大翔君に無理やりお願い事をしてもらうことに成功した私は、早速そのお願い事を聞いたのだけど。
ちょっと私の想像していた事と違って、少し戸惑っています。
「ねぇ、お願い事って本当にこれなの?」
「そうだよ、これ以外に思いつかなかった。俺は満足」
本当にこれでいいのか分からなくて、何度目になるか、確認をしてみるけど。
大翔君はその度に、笑顔で頷いてしまう。
もっとこう、何かのお手伝いとか、ご飯を御馳走するとか、色々想定はしていたのだけど。
確かに、私にできることでなら、何でもいいとは言ったけど。
「膝枕ってそんなにいいの?」
「控えめに言って最高です」
膝枕ってどうなの?
私に膝枕をさせている大翔君を見ながら、どうしてこんなお願いを大翔君がしたのかを考えてしまう。
た、確かに私は可愛い。
髪はしっかりと手入れを欠かしていないから、風邪が拭けばなびくし。
手を通せばまるで絹のよう~、とまではいかないにしても、かなりサラサラだと自負している。
お肌も、前世の私からは考えられないほど気を使っている。
スキンケアはもちろん、ターンオーバーを考えて夜更かしはせず、ある程度決まった時間に寝るよう習慣化している。
更に、朝は自律神経がなんたらって、ママに教えてもらったから、学校から帰ったときに出来る限り走るようにしている。
ストレッチもしっかりしてるから、体は柔らかい。まぁ、ストレッチに関しては前世からの習慣だけど。
そんな努力の末、私のスタイルはかなり整っている。なんだったら顔はもっと整っている。
……胸はその成果の代償です。ないわけじゃないから、あるから。
……そうか、こんな美少女の膝枕なんて、体験できる人なんてレアケースもいい所だ。
まったく、大翔君も男の子だね。
ちょっとからかってみようかな。
「大翔君も男の子だね~、こんな美少女の膝枕をお願いするなんてぇ」
「まあね、澄香は内面も可愛いから、猶更役得だよ」
「はぅ!?」
そ、そうだった。
大翔君って恥ずかしがること殆どないんだった。むしろ、ストレートな表現で伝えてくるんだった。
分かり切っていたはずのカウンターに、私は顔を隠しながら照れてしまう。
やばい、真正面から可愛いって言われるのすっごく嬉しいです。
「……澄香はさ、こうやって膝枕することに抵抗感とかないの? 自分でお願いしておいてあれだけど、普通嫌がったりするものだと思うんだけど」
「確かにそうなんだけどね、流石に学校のクラスの男の子とか、異性に対しては抵抗感以前にしたくないよぉ」
私だって前世が例え男の子だったとしても、今では立派なレディーなのだ。
誰彼構わず膝枕したいなんて思いません。
「でも、さ。俺も一応男なんだけど、もしかして男として見られてない?」
不満そうな表情で、大翔君が私を下から見上げてくる。
おぉ、イケメンさん。この体制でその表情でそんなこと言いなさんな。照れてまうやろ?
しかし、大翔君に膝枕をすることに対する抵抗感……かぁ。
「……うん、なんで分からないけど、大翔君に膝枕するのって抵抗感とかないんだよねー、ふしぎだよねー」
「じゃぁさ、こういうのはされたら気持ち悪いとか思わないの?」
「うひぁ!? ち、ちょ! くすぐったいよ! あははは!」
私の回答が気に入らなかったのか、大翔君が突然私の太ももを、触れるか触れないかでくすぐってくる。
今日の私はベージュっぽい色のキュロットパンツを着ていた。
だから膝枕している大翔君の頭は、私の太ももに直に乗せているし。くすぐっている感触も、服を通さないダイレクトな形で伝わってきてしまう。
いや、だって膝枕するなんて普通思わないでしょ?
膝枕するなんて分かってたら、ズボン履いてきましたよ!
大翔君のくすぐりに耐えきった私は、肩で息をしながら大翔君を睨む。
「い、いきなりくすぐらないでよ!」
「それについては謝るよ。それで……その、気持ち。悪かったりしたか?」
流石に女の子の太ももを断わりもなく、くすぐったことの重要性を理解しているのか、私の反応をおっかなげに確認してくる。
なんだろう、大型犬がはしゃぎすぎて、飼い主に怒られると思ってチラチラ見てくる様子が、大翔君のハイライトで見えてしまう。
それはなんていうか、ずるくないですか?
「別に気持ち悪いとかないけどさ、もう絶対しないでよね? 私くすぐられるの物凄く弱いんだから」
「ご、ごめん。もうしないから」
「分かればよろしい」
くすぐられること事態は嫌だったけど、それに対して気持ち悪いとか、嫌悪感は一切なかった。
多分、大翔君以外だったらこうは行かないと思う。
私にとって大翔君が特別だからなのかもしれない。だって、大翔君は私の親友だから。
たとえ相手が私と同じ気持ちを持っていなかったとしても。自分の姿が変わろうとも、大翔君は私にとっての――
「大切な人だから……」
そう、ポツリと無意識に呟いてしまった。
呟いた声は、本当に小さかった。
多分、学校の教室で、隣の席に座っている人にすら、届かないと思えるほどの呟きだった。
膝枕をしている距離出なければ、この呟きが大翔君の耳に届くことは無かった。
そしてそのことに、私は気が付かなかった。
「……」
「きゃ!?」
突然だった。
何も言わず起き上がった大翔君が、そのまま私に抱きついてきた。
そして、抱きついてきた勢いをそのままに、大翔君の重さに耐えられなかった私は、ゆっくりと背中から倒れてしまった。
「えっ!? ちょ、は、大翔君!?」
抱きついてきた大翔君も、当然私に覆いかぶさるように倒れてきていた。
秋ちゃんたちに抱きつかれた時とは違う、男の子の高い体温と、スポーツをしてる影響か、力強い体としか表現できない感覚が、私を包んでいた。
流石の出来事に、私は当然パニックになってしまう。
「……ごめん。少し、このままにさせてくれ」
私の肩に乗っている大翔君の頭が、声を出したことで振動する。
弱弱しくて、小さすぎて消えてしまいそうな囁きは、耳元じゃなかったら聞き取れなかったと思うほどだった。
「自分でも、気持ち悪いと思う……だけど。ごめん、ごめん。そ、そんなつもりじゃないんだ……」
大翔君の体が少し震えていることに、私は気が付いた。
さっきよりも大きい声なのに、声を絞りだしているせいか、震えている声はたどたどしくて。弱かった。
そんな大翔君の姿に、混乱している私の頭がどんどん沈静化していく。
どうして大翔君がこんな行動に出たのかは分からない。
もしかしたら、大翔君本人ですら、自分がこうしている状況を理解できていないのかもしれない。
「ごめん……」
私を抱きしめている腕の力を、大翔君がゆっくりとだけど、強める。
まるで逃がさないように、縋るように。
前世の自分が死んでしまってから、この1月で、親友の色々な顔を見る事が増えた。
それこそ、前世の自分が見たことのない表情ばかりで、嬉しさと困惑が半分に混ざりあった気分になってしまう。
色々見落としてきた私だけど、今の大翔君は気が動転して、自分でもどうしていいのか分からなくなっていることは、分かった。
なら、彼を心の中で何度も親友と呼んでいた私が、取るべき行動は決まっている。
「……安心して、気持ち悪くなんてないから。ほら、落ち着て。ね?」
宙ぶらりんになっていた両腕を、抱きしめ返すように大翔君の体に廻す。
片方の手で、大翔君の頭を撫でる。
1月前とは色々状況が違うけど、私のやるべきことはあの時と同じだ。
「ちょっと、気持ちが動転しちゃっただけなんだよね? 大翔君がそういう事する人じゃないって、私知ってるから」
優しく言葉を投げかけながら、ゆっくりと大翔君の緊張を解いていく。
最初に震えが止まり、次に私を抱きしめていた両腕の力が弱まっていくのが分かった。
徐々に大翔君自身の体からも、力が抜けていく。
「落ち着いてきた?」
「うん……その、ごめん」
「もう、謝るのはいいからさ。とりあえず、起き上がらない?」
未だに私は仰向け、大翔君は私に覆いかぶさるようになっていることもあって、未だに体は密着しきったままだ。
多分、この体制のままでいるのも良くないと思った私は、起き上がることを提案した。
すると大翔君はすぐに起き上がってくれたので、私も圧迫感から解放されることができた。
……さて、また気まずくなったぞ。
……悔いはない
……当初はオマセな大翔君が、澄ちゃんをからかって赤面させて~なんて考えていたんですが。
なんか……気が付いてたら押し倒してました、ハイ。
あ、評価・ご感想、お待ちしています!
特に、大翔君のこのリビドー溢れる行動とかって需要あるのかが気になります!