#09 例え親友でも、その気持ちを推し量ることはやっぱりできない話
部活動で最近の大翔君の相談を皆にした結果、当初想定していなかった回答を得られた私は、そのことを大翔君本人に話すことにした。
「結局、私天然ビッチなんて言われちゃったんだよ!」
「へぇ、澄香は天然ビッチなんだ」
「ちっがうよ!」
というわけで、3回目となる課題作業を大翔君の家でやっている、完璧美少女の澄香ちゃんです。
私の夢見る美少女像は、こんな声を荒げての抗議なんてしないんだけど。
流石にビッチなんて呼ばれたら、誰だって声を荒げると思う。だから私は悪くない、まだ美少女です。
「でも、澄香は俺とするようなこと、他の男にしてるわけじゃないよね?」
「うぇ!? し、しないよぉ。だって仲のいいお友達、大翔君以外いないもん……」
中学の時は、それなりに話せる男の子は居た。
仲良くなった瞬間、みんなファンクラブに入会(強制&洗脳)したせいで、結局一緒に遊んだりするような男友達は、出来なかったけど。
もしかしたら、中学の時に大翔君と仲良くなってたら、大翔君も入会しちゃって、今みたいに遊んだり出来なかったのかな?
そう思うと、高校で仲良くなったのは正解なのかもしれない。
……まぁ、中学の時にすっごい拒絶されたから、どのみちそんな世界線は無かったと思うけど。
今思えば、あの時は鈴木君(前世の私)と遊ぶのが最優先だったから、大翔君はあんな感じで反応したんだよね。
「ん~」
「どうかしたの?」
それでもあの反応はちょっと失礼なのでは?
なんて考えて唸っていたら、どこかの問題が解けないと思われたようで、大翔君が私が手を付けている問題集を覗いてくる。
……今の思いやり全開の大翔君と、中学の時の大翔君の姿が、全くイコールにならないのが不思議で仕方ない。
思い切ってあの時の事聞いてみようかな。
といっても、中学3年のあの日から、まだ1年たってないんだけどね。
「ねぇ大翔君」
「なに?」
「どうして中学3年の時、素っ気ない反応だったの?」
「あー、あの時だよね……」
もっちゃんみたいに、相手が傷つかないような言葉を選ぶなんて、私には難しい。
だから私は、こういうときは素直に真っすぐ聞くって決めてる。
私の突然の質問に、大翔君は苦笑いを浮かべながら、視線を少し上に向ける。
大翔君はどちらかというと、もっちゃんよりな人なんだと思う。
勉強を教えてもらってるときもそうだったけど、 大翔君の話し方は凄く理解しやすい。
多分、今みたいに、頭の中で話すことをまとめて、それを相手に伝えるという能力が高いんだと思う。
前世では気付かなかったけど、今なら少しだけだけど、前世とは違ったモノが分かるような気がする。
そのたびに再認識する。
大翔君はやっぱり、いい人なんだと。
話すことが纏まった様子で、大翔君は視線を私に戻すと、申し訳ないという表情で口を開いた。
「あの時はごめん」
「あ、だ、大丈夫だよ? 私全然気にしてないから、ただちょっと。気になっただけで」
大翔君に謝って欲しいとか、そんな女々しいことは一切思っていない。
ただ純粋に、気になっただけで。
「いや、あの言い方はかなり失礼だったと思ってる……あの時の俺、少し余裕がなかったんだよ」
「余裕?」
その言葉が出たことに、私は驚いた。
前世の記憶からは、中学3年の時の大翔君が悩んでいた様子は見られなかったから。
「あ、ああ。勿論、斗真には何も言わなかったよ。というか言えなかった」
「ど、どうして?」
「中学三年の秋になるころには、俺達3年生は部活も引退して、高校受験に向けて頑張っていただろ?」
「うん、私も毎日もっちゃん達と勉強してたよぉ」
あの時のことを思い返すだけで、今でもあの息苦しさを鮮明に思い出せてしまう。
転生してハッキリと理解できたのは、例え生きた記憶が前世と合わせて、20年以上になったとしても、心が大人になるなんてことは無い。
私は前世でも今世でも、高校までの経験しかしてない。
社会人になって経験する、人生の経験というのを知らない私は、どれだけ記憶と経験が積み重なっても、質というのは薄っぺらいものだ。
だから2回目の高校受験だとしても、前世と同じかそれ以上に辛い気持ちで頑張った。
思えば中学3年のあの時期に、大翔君に話しかけたのは1種の現実逃避だったのかもしれない。
私の中で、ある意味大翔君との記憶というのは、私の青春だったから。
それもあって、あの時は辛かったし、大翔君が当時悩んでいたことに気が付けなかったのが、情けなく思えてしまう。
「俺さ、高校でも斗真と一緒に居たかったんだよ。また、中学と同じように高校でもテニスをしたかったんだ」
「そう……言ってたもんね」
1月前のことを思い出す。
あの時の大翔君の言葉は、心からの言葉に思えたから、記憶に鮮明に刻まれている。
「でも、斗真はそうじゃなかった、みたいだったんだ……」
「あっ……」
「思えば何時からか分からないけど、斗真は俺を避けようとすることが何回かあったんだ。多分、俺と遊ぶのが嫌になってたのかもしれないな」
そう言って、自嘲するように笑う大翔君をみて、私は胸を締め付けられてしまう。
確かに中学の時の私は、大翔君とペアを変えたかったり、部活を止めようとしたりしていた。
高校だって、大翔君と別の場所にしようとしていた。
でも、それは大翔君が嫌いだからでも、一緒にいるのが嫌になったからでもない。
ただ純粋に、大翔君がもっと上手になる方法がそれしかないと、勝手に思っていただけなんだ。
過去の自分が犯してしまった間違いを、今すぐにでも訂正したい気持ちに掻き立てられる。
「部活の時もそうだったけど、高校受験なんて、どこの高校を受けようとしているのかも、斗真は教えてくれなかったんだ。俺と同じ高校に行きたくなかったのかもな」
「……違うよ」
思わず声が出てしまう。
だけど小さすぎる声は、大翔君に届くことは無かった。
「そんなに俺と一緒が嫌なのかって、当時は思ってた。もしかしたら、何かそうなった理由があるんじゃないか、なんて被害妄想までしてたな」
「……」
「その時だった、澄香が俺に話しかけてきたのは」
「そう、だったんだ……」
「ここまで言えば、何となくわかっただろ? 俺はさ、勝手に思い悩んでいた原因を、澄香のせいにしたんだ」
「……」
「だから、今更何をって思うかもしれないけど。本当にごめん」
大翔君は、そう言って頭を下げてくる。
だけど、私はその言葉を素直に受け取ることができなかった。
だってそうでしょ?
大翔君が悩んでいた原因を作ったのは、文字通り私なのに、どうして大翔君が謝る必要があるんだ。
謝るのは私の方なのに、頭を下げるべきなのは私なのに。
大翔君を悩ませたのも。
そのことに気が付かず、ヘラヘラと笑って居たのは、私なのに。
「私こそ、ごめんなさい。私が気が付いていたら、あんなことしなかったのに……」
私は卑怯だ。
転生したことも言わず、バレるのが怖いからって身勝手に振る舞う。
心の底から謝りたいのに、怖いから曖昧な言葉で、自分の思いを一方的に伝えてしまう。
最低な人間だ。
「澄香は何も悪くないよ。それに、そのあとすぐに斗真が行きたいところも、本人から教えてもらったしね」
「え、そうなの?」
思わず聞き返す。
私には、大翔君に行く高校を教えた記憶がなかったから。
「まあ、ポロッと教えてくれたんだよね。だから、斗真が俺と同じ高校に行きたくないわけじゃないんだって、その時分かったんだ」
慌てて記憶を掘り返すけど、そんな記憶は一切出てこなかった。
多分、昔の記憶過ぎて覚えてないんだと思う。何せ10年以上前の記憶だから。
でも、だからと言って私の気持ちは晴れなかった。
卑怯な私は、今からでも何か贖罪できないかと、身勝手にまた考えてしまう。
「そうなんだ……でも、私が大翔君に悪いことをしちゃったのは本当だから。な、何か。私に出来ることない? 私にできることなら、何でもするよ?」
「ん? 今なんでもって……」
「ちちち、違うよ!? 変なこと言わないでよ!」
最近の大翔君の様子が普通だって、もっちゃん達のおかげで誤解が解けたけど。
それでも抵抗感が出てしまう。
大翔君が変なことをお願いしないってことぐらい、分かっていはいるけど、万が一ということはある。
なんたって、私は白髪雪肌美少女な私なんだから。
「あははは、ごめんごめん。実際そこまでしてくれる必要ないからさ」
「で、でも……何かさせてよぉ」
このままでは引っ込みがつかない。
どうにか私ができることはないだろうか、その気持ちを精一杯大翔君に伝える。
大翔君は少し驚いた様子をしたけど、私が真剣なのだと伝わったのか、考え始めてくれた。
「じゃあ、一つお願いしていいかな?」
そうして半ば無理やり、私は贖罪の機会を貰うことに成功した。
ようやく、主人公に大翔君の魔の手が迫ってきますね……
やっと描きたいことが、少し書けるかな。という感じですねぇ(ゲス顔)




