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#08 一つの出来事、視点の数だけ、千花になる

 秋ちゃんともっちゃんにまさかの回答を告げられた私は、空いた口が閉じるまで時間を要した。


「ちょ、二人とも何言ってるの!? 普通じゃないから悩んでるの!」


 流石にこのまま終われるわけがない。


 私は必死に二人に向けて抗議した。


「例えばだよ、テニスの練習の時とか、いつもより距離が近かったりしたんだよ!」

「いや、それは普通に考えて、今の澄ちゃんに教える佐藤君なりに、最適な方法としてそうなっただけじゃないの?」

「そうですよ澄ちゃん、逆に考えてみてください」

「逆に考える?」

「澄ちゃんが教える側で、佐藤君が教えられる側だった場合です。佐藤君にもっとテニスを上手になって欲しくて、テニスを教えてるのに、佐藤君からテニスとは関係ない、距離間が変だからなんて言われた場合ですよ」


 もっちゃんの言葉に、私は実際にその光景を想像した。


 ……私が大翔君にテニスを教えてるときでしょ。

 そしたら大翔君が急に嫌な顔をして、『なんか距離近くね? お前変だよ」 ……うわ。


 実際に想像出来た時に、私は相当嫌そうな表情をしていたのかもしれない。


 もっちゃんが私の顔をみて、何度も頷く。


「そう! つまり、今の澄ちゃんの言葉は、相手の善意ある気持ちを無下にしているも同然!」

「いやいや、流石に距離感は大切じゃない? 森加ちゃん……」

「ハッ! そ、そうだったんだ……」

「おいおいマジかよ、澄香ちゃん騙されやすんぎゅ!?」

「はーい先輩はこっちでいい子にしてましょうねー」


 私は、もっちゃんの言葉に感銘を受け、そして善意の気持ちでテニスを教えてくれていた大翔君に、謝罪の気持ちが溢れてしまう。


 元はといえば、テニスを教えてと、大翔君に頼み込んだのは私自身。


 大翔君にとってはメリットなんて一つなく、プライベートの時間まで使わせてしまっているのだ。


 それなのに私はなんだ?

 幾ら美少女だからって、相手の気持ちをないがしろにしていいはずがない、そんな外見だけ美少女なんて私が最も嫌悪するものだ。


 ……危うく最低な美少女になり下がってしまうところだった。もっちゃんには感謝しきれないね。


 あれ?

 先輩さっき何か言いかけてたけど、いつの間にか秋ちゃんと仲良くお話している。


「ごめんもっちゃん、私、最低な人間だね」

「ううん、そんなことないですよ。そうやって、自分の間違いに気が付いたとき、素直に受け止められる澄ちゃんが、最低なはずないですよ」

「ほんと?」

「本当です。もしも澄ちゃんを最低だーなんていう人が居たら、例え澄ちゃんでも私は許しませんよ?」


 そう言って優しく微笑むもっちゃんは、まさしく天子様だった。


 こんな素晴らしい友人をもてたことは、私の人生においてまたとない奇跡だったのかもしれない。


「……でも、澄ちゃんもこれだけで悩むとは思えません。他に何か、あったんですか?」


 流石天子様、私の事はまるでなんでもお見通しみたい。


 私だって、テニスの練習の一件だけだったら、そもそも悩むなんてしない。


 むしろテニスについては、後々思い返したらという程度、もしかしたら脳内改ざんして、自分の都合のいい様にアレンジていたかもしれない。


 本命は昨日、2回目となる二人での課題作業をしたときのことだ。


「あはは、流石もっちゃん……でもね、別に何か大きなことがあったとかじゃなくて、小さな疑問? みたいなのが積み重なってる感じなんだ」

「なるほどです、1つのことが気になった瞬間、今まで気にしてなかったことまで気になったような感ですか?」

「本当にすごい! そのとおりなの!」


 もっちゃんには一体どこまで何が見えているのだろうか……


 ここまで親身になってくれるもっちゃんを前に、私は言うのを止めようとしていた内容を、包み隠さず話すことにした。


 ちょっと、この話をして、自意識過剰だとか言われたらどうしようかと思ったけど。

 こういう時の、私の親友は100%信用できる。


「あのね、昨日も一緒に課題を進めてたんだけど。その時に幾つかあって……」

「あ、昨日も行ってたんですね」

「うん、それで課題を進めてるときなんだけど、1回目の時は向かいに座ってたのに、昨日は隣に座って、肩とか結構近かったの」


 しかも、大翔君はさも当然だという体でくるので、私は気が付いても何もいえず、結局そのまま課題を進めた。


 今考えれば、そこまで気にすることではないのかな? なんて思っているけど、悩みの中にこれが含まれていたことは事実なので、包み隠さず言う。


「それも普通ですよ、だって澄ちゃん。勉強教えるときに、向かいの席だったらやりずらいじゃないですか」

「あ、そっかぁ……私また変な思い込みちゃってたのか。ありがとう、もっちゃん!」


 もっちゃんにそう言わればなんてことはない。


 確かに誰かに教えるときに、逆さまの状態で教えるのは結構難しい。

 クラスの友達とか、秋ちゃんに教えるときとかも、上下逆だったせいで間違った事を教えてしまったこともあった。


 もっちゃんに勉強を教えてもらうときがあるけど、その時も、もっちゃんは私の隣まで来て教えてくれる。


 隣で教えたほうが効率的だし、面倒も少なくて済む。

 なるほど、考えれば納得だ。


 お礼をもっちゃんに言いながら、もしかしたら悩んでいたことが、実はなんでもなかった事になる予感がしてきた私は、徐々にいつもの調子に戻っていった。


「そ、それじゃあ。大翔君、私の名前を関係ない時でも呼んだりするんだけど。こ、これも私の勘違いなんだよね?」


 もはや勘違いで、私の自意識過剰にしてもらった方が、精神面上大いに助かる。


 私はもっちゃんに縋る気持ちで、言葉を発した。


「え、え~っと。それは~、んー……」


 あ、あれ?

 天子様大丈夫ですか?


 天子様の反応に、少しだけ不安が再燃仕掛けた時。


 百恵先輩と話していた秋ちゃんが、百恵先輩を連れて戻ってきた。


 ちょっと気になるのは、戻ってきたときの百恵先輩の表情が、いつもの面白いものを見つけた時の、あの表情をしていること。


 秋ちゃんは自信あり、という表情でもっちゃんの代わりに答えてくれた。


「そんなの簡単だよ、友達の呼び方って、それだけで相手との距離っていうか、仲良し度? みたいな感じするじゃん」

「あーそうだね、私も何時か澄香ちゃんたちを、貴方たちと同じようにあだ名で呼べるようになりたいわー」


 秋ちゃんの言葉に、百恵先輩が同意する。


 私も同意見なので、静かに頷く。


 あ、百恵先輩、いつでも澄ちゃんって呼んでもらって大丈夫ですからね?


 それだと最低限の先輩プライドが邪魔する? 元々部長らしいことしてましたっけ……あ、そういう事じゃないんですね。


「だから、佐藤君も嬉しかったんだよ。澄ちゃんと距離が縮まったみたいで。だから何かにつけて名前を呼んだりしたんじゃない? 案外子供っぽい所あるじゃん」

「あーなるほど! 大翔君も可愛い所あるじゃん!」


 なんと、秋ちゃんまで私の勘違いに気付かせてくれるなんて…・・・

 私は本当にいい親友を持ったなぁ……


「じゃあこれも普通の事、でいいんだよね?」


 一応不安なので、再確認。

 やっぱり普通って最強だよね、普通最高!


「もっちろん! 普通普通、むしろ仲良くなれてよかったじゃん!」


 確かに秋ちゃんの言う通り、元々仲良くなるのが目的だったんだ。


 つまり、今回のことは、単に大翔君の方から歩み寄ってくれたという事、むしろいいことだったんだ。


 凄い、悩んでいたことが。

 二人の言葉で真逆の効果を、私に提供してくれる。


 胸の奥にあったモヤモヤが消えていき、体が軽くなっていく感覚の、何と心地良いこと。


 私はこの気持ちを求めて、他にも勘違いしていると思われる内容を、矢継ぎ早に口にした。


「解いた問題が正解だった時に、頭撫でてくれるのも?」

「普通だね、ほーらいい子いい子~」

「えへへぇ」


 秋ちゃんが頭を撫でてくれた、やったね。


「クラスの男の子とを話題に挙げた時、ムッとした顔をしたのも」

「仲いい友達が、他の人と仲いいアピールしてきたみたいになってたのかもね。気を付けなよぉ?」


「髪にゴミがついてるって、櫛でとかしてくれたり」

「お、粋なはかりでアール。普通なのでアール」


「膝枕したりするのも」

「ふ、普通だねぇ。き、きっと疲れてたんだねぇ」


「ゲームする時、大翔君の足の間に座らせられたのも?」

「ぅえ!? ……あ、ああ! 普通だよ、普通! ほ、ほら私達も良くするじゃん?」


 そうか、そうだったんだ。

 私は大きな間違いをしていたんだ。


 今までの大翔君の行動は、友達なら普通の事なんだ。


 少し前までとは真逆の、むしろ大翔君と仲良くなれていることの、再確認をしているみたいな状況に、私の気分は最高潮を迎えていた。


「じゃあ、お腹に顔埋めたりするもの、普通ってことだよね!」

「……いや、それは違う」

「……澄ちゃん、お願いですから。佐藤君以外の男性には近づかないでください」

「……澄香ちゃんって、天然ビッチだよねえ」

「急に辛辣!?」


 ちょっと違ったようです。

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