#03 集中疲れって、ふとした瞬間に訪れる
描写してませんが、澄香ちゃんの私服は大体スカート系です。
だって美少女ですからね!(意味不明)
家だと大体短パンです。
佐藤君に半ば嵌められる形で、私は佐藤君の家で一緒に課題を進めることになった。
約束を強引に取り付けられた次の日、エアコンの効いている涼しい佐藤君の部屋で、私たちは課題に向き合っていた。
まあ、佐藤君と一緒にと言っても、いざ課題に望めば会話などが発生することも殆どなく。
佐藤君の部屋に置いてある簡易テーブルの上で、私たちは課題を並べて、文字を書く音がよく聞こえた。
口を開いたとしても、私が分からない箇所を佐藤君に聞いたり、佐藤君が軽く話題を振る程度で、黙々と課題だけが消化されていった。
普通であれば、クラスの男友達の家にお邪魔することに、ある程度の緊張感を抱き、課題が余り進まなかったりするのが正解なのかもしれないけど。
生憎と私は佐藤君の家に来ることが多かったから、緊張といった初々しい反応が出てこず、普段と変わらない態度でいる。
(むしろ……懐かしいな……)
課題を進めるペンを止めて、私はゆっくりと佐藤君の部屋を見回す。
十数年ぶりに来る部屋は、当然だけど私が最後に覚えている佐藤君の部屋そのまんまだった。
前世の鈴木斗真だった時の私の部屋と違い、佐藤君の部屋は整理が行き届いていて、男の子の部屋というには些か女子力が高い気がする。
ポスターの類も無く、寝るためのベッドと勉強机、ゲーム機とテレビ、そして簡易テーブル。
佐藤君の家で一緒にゲームすることも多かったこともあって、佐藤君の家、というより部屋は、生活感と共に遊ぶ場所の印象を受ける。
(あ……あの写真)
部屋を見回す目が留まったのは、佐藤君の普段使っているであろう勉強机の上、そこには大き目な写真が、その大きさに見合う写真立てに飾られていた。
そこに映っているのは、中学テニス部のメンバーが全員そろっている写真だった。
皆が一様に笑顔を浮かべる中に、前世の私。鈴木斗真と佐藤君の姿も映っている。
その写真は佐藤君たちと、中学テニス部の引退記念に撮ったモノだ。
勿論、鈴木斗真もその写真を佐藤君同様、自室の部屋に大切に飾っていた。
「どうかした?」
「え、あ……うん、そこにある写真を、ね」
「……そっか」
私が課題とは全く別の方向を見ていることに、佐藤君が気付いて聞いてくる。
隠すこともなかったので、私は素直に写真を見ていたと答えると、佐藤君は一瞬だけ間を開けてから、どこか納得した風に立ちあがる。
そして飾ってある写真をもって、私に手渡してくる。
「斗真の映っている写真は幾つかあるけど、この写真の斗真が一番よく笑ってると思うんだ」
「そう……だね。うん、よく笑ってるね」
「……」
佐藤君に言われて、私は改めて鈴木斗真の顔を見る。
前世の自分の顔を、今更になってまじまじと見たけど、この時の鈴木斗真はどうしてこんなに笑顔なんだろうか。
自分の顔を見るなんて、鈴木斗真だったころの私だったら気恥ずかしかっただろうけど。
今ではなんだか感慨深い。
こんな笑顔を浮かべた少年が、もうこの世には存在しないなんて、出来の悪い冗談に思えてしまう。
少しだけ複雑な気持ちでこの写真を眺める私は。今、どんな顔をしているのだろうか。
何も言わず、何を考えているのか、読み取れない目で私を見つめる佐藤君に、私は首を傾げた。
「私、何か変な顔してた?」
「……別に何も無いよ、ただちょっと見てただけ」
「そうなんだ……あ! ご、ごめんね。課題進めてる途中だったのに……」
休憩程度なら問題なかったのかもしれないけど、時計を見ると私は随分この写真を見続けていたみたいで、完全に課題の進行は止まってしまっていた。
写真を元の位置に戻した私は、改めて課題に向き合おうとするけど、佐藤君がそれに待ったをかける。
「一度に進める量はセーブしたほうがいいよ、こうゆうのは継続が重要なんだから。それに、結構課題進んだんじゃない?」
「まあ、それはそうだけど……」
佐藤君の言う通り、実は課題を初めて既に3時間近くが経過していた。
すぐ近くに佐藤君というスペシャルアドバイザーがいることで、特に詰まるといった事もなく、集中して進められた課題は多い。
それこそ、1日に計画している課題ペースを数日以上カバーできていた。
「でも、そうすると私やることないけど? せっかく佐藤君と一緒に課題を進めてるのに、勿体ない感じがするよ」
だけど、課題という一種の目的が無くなってしまうと、途端に何をしたらいいのか分からなくなってしまう。
「今日必ずやらなくちゃいけないわけじゃないし、せっかく家に来たんだからさ、気晴らしにゲームとかでもしない?」
「ゲームかあ……」
昔はこうして、勉強会やら真面目な謳い文句で集まっては、取って付けた理由を用意して皆で遊んでいたっけ……
懐かしい光景を思い出しつつも、私は一つの疑問が湧いてきた。
「あれ? 私ゲームするって佐藤君に言ったっけ?」
「うん、言ってたよ。FPSシューティングゲームが得意だって」
「う、うそー!? 私そんなこと言ってた!?」
「言ってた言ってた。スナイパーなら大抵の人には負けないって、自信満々に言ってたよ」
どうやら私は、高校では隠しているつもりだったゲーマー事情を、いつの間にか佐藤君に話していたみたい。
私って、知らない所で自分のことを佐藤君に話している気がするんだけど、気のせいかな?
「二人で出来るFPSゲームって、俺が持ってるのはキャンペーン形式の奴だけど、最近新しいのが出たんだよね……やる?」
「……やります」
しかし、口を滑らしたところで佐藤君であれば問題ない。
むしろまた昔みたいに一緒に遊べるなら私は大歓迎だ。
(ふっふっふ、今世の私はかなりのFPSゲーマー。前の私とは違うところを見せて上げよう佐藤君!)
今の佐藤君に、前世の私と今の私を比べさせることなんて出来るはずがないけど、佐藤君と一緒にゲームが出来れば何でもよかった。
決まれば早速、私たちはテーブルの上に広げていた課題を片付けて、ゲームの準備をする。
実は佐藤君、鈴木斗真以上にゲームを持っていたりする。
前世の私は、自分が持っていないゲームを持っている佐藤君の家に来ては、こうして自分が持っていないゲームを佐藤君とよく一緒に遊んでいた。
佐藤君がゲームコントローラーを手渡してくる。それは前世の私がいつも使っていた、もはや鈴木斗真専用コントローラーになっていた懐かしいモノだった。
準備が出来た佐藤君がゲームを起動させる。
重低音のBGMと共に、迷彩服を着た一人の兵士が銃を構えている画面が表示される。
佐藤君が選んだゲームは、本当につい最近出たばかりのゲームで、私がパパにおねだりしようか迷っていたタイトルだった。
「わあ! 私このゲームやりたかったんだあ!」
「そうなんだ、それならよかったよ。このゲームなら協力プレイが楽しいって、レビューされてたから丁度よかったよ」
自分がやりたかったタイトルだったこともあり、私の気分はどんどん上がっていった。
佐藤君の部屋はベッドとテレビが対面の壁際に、それぞれ配置されていることもあって、前世では佐藤君のベッドで寝転んだり、座ったりしながらゲームをしていた。
テンションの上がっていた私は、そんな前世の習慣ともいえる所作を自然体に、無意識化で行ってしまった。
佐藤君のベッドに、何の遠慮もなく私は座り、ゲームコントローラーを構える。
「……気にしたりしないの?」
「ん? 気にする?」
「いや、気にしないならそれでいいけど……俺ちょっと飲み物取ってくるよ」
「ありがとう~」
ちょっと佐藤君の反応に引っかかるところはあったけど、何でもない風で佐藤君は飲み物を取りに部屋を出ていく。
「ふふん~、ふんふふ~ん」
遊びたかったタイトル、またこうして遊びたかった友達。
またこの場所に来ることができるという喜び。
そんな一揆に押し寄せてくる幸福感に満たされた私は、部屋から出ていった佐藤君を待ちながら、リズムもテンポも無い鼻歌を唄う。
「ふん~……ふふふ~……んぅ……」
だけど佐藤君がすぐ戻ってくることは無かった。
と言っても、後で思い出せば、佐藤君が部屋を出てからまだ数分も経ってなかったけど。
楽しみを目の前にお預け状態だった私には、その時間が何倍もの長さに感じられた。
そして、なんだかんだと3時間も集中して課題に打ち込んでいた私の頭は、自分が思っている以上に疲弊していた見たいで。
気が付くと私は、佐藤君のベッドに寝ころび、心地の良い匂いに包まれながら眠ってしまっていた。
「ごめん、ちょっと氷が中々取り出せなく……て……」
それから数分後、製氷皿と格闘していた佐藤君が戻ってきたとき。
「すぅ……すぅ……」
佐藤君の目の前には、自分のベッドで気持ちよさそうに眠っている、私の姿が映っていた。