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#04 楽園の崩壊と、旧知の新世界

 突然だけど、転生後の私の交友関係は前世と違い、女友達ばかりになっている。

 いくら前世で男だったとはいえ、今の私は花も恥じらう女の子(ここ重要)だ。しかも美少女(ここもっと重要)。


 小学生の時は男女関係なく仲良くしてた。

 どうも人間の精神は肉体に左右されるようで、私は前世のように大声で友人と馬鹿騒ぎをすることも、プロレスごっこをするなんて事もなかった。


 美少女然とした振舞いを自然としていたし、そうなるのも当然だと思う。

 みんなも想像してみてほしいけど、絶世の美少女が大きく口を開けて、ガニ股で、ドタバタと騒ぐ姿と。

 小さな笑みを浮かべ、音も立てない落ち着いた足取り、背筋の通ったまっすぐな姿勢。


 どちらの方が美少女の行動として違和感を感じないだろうか、もちろん私は圧倒的後者。


 それでも、前世の記憶を持っている私は交友関係を広く持つことができた。

 女子トークも普通にできるし、男子トークにも混ざることができるのが小学校のときの私なのだ。


 自分でいうのも恥ずかしいけど、小学校での私は人気者だったと思う。クラスのリーダーとか、話題の中心にはなってなかったけど、それでも私が話せない人はごく少数。

 少数には前世の私と、前世の親友の二人が含まれてしまうのは仕方のないことだと割り切ってほしい。


 そんなわけで、中学でも変わらず私の交友関係は広い。さすがに基本は女子グループでお話するけど、たまに男子とも普通に話せる。

 まあ、男子生徒と交友関係を築いた理由には別(ネタ集め)の理由があったりするけど、バレなければ何も問題ない。


 そうして、普段はみんなと仲良くお話をして。

 時たま個人活動(ネタ集め)とお友達作り(布教活動)をするのが、中学2年までの私だった。

 自分の築いてきた世界が、他者から受け入れがたいものだと気付いたのも、中学2年生の時。それは、ほんの些細な会話からだった。


 中学2年の秋ごろ、少しの哀愁と肌寒さを感じる放課後。

 中学に上がっても変わらずに所属している、テーブルゲーム部で女友達と部活動にいそしんでいた。


「ねえねえ、鈴木君と、佐藤君ってやっぱりどっちが受けなのかな」

「それ、前も話したけど鈴木君が受けで落ち着いたじゃん。なんで掘り返すかな」

「腐腐腐、愛の形は千差万別ですよ。昨日の受けは今日の攻め」

「さすが部長、ためになること言うね~」


 狭いテーブルゲーム部の部室で、部活とは関係ない話をしているのは私を含めて3人。


 最初に鈴木君と佐藤君の話を持ち出したのが私。あ、言い忘れてたけど佐藤君というのは、前世の私の親友の名前。佐藤大翔さとう はると


 そして、私の話を否定したのが秋山智登世あきやま ちとせ。黒髪ポニテの勝気な性格の持ち主、あだ名は”秋ちゃん”。

 最後に特徴的な笑い声を持つ、テーブルゲーム部部長の藤堂森加とうどう もりか。黒髪ロングの眼鏡女子で、なぜか部活動以外では完璧な猫をかぶる才女でもある。あだ名は”もっちゃん”。


 私が最も深く交流しているのはこの二人といえる、なんせ同じ穴の狢(腐女子仲間)だから。


 三者三葉ではあるけど、三人とも部活動以外では腐女子であることを完璧に隠している。

 だから腐トークはもっぱら部活動の時間に行われる。(部員数は5人で、私達以外は幽霊部員)

 話は戻って、どうして私が前世の自分と親友のカップリングトークをしたのかというと。


「だって、今日の休み時間に鈴木君から佐藤君に抱き着いたりしてたの。それを見たらやっぱり逆なんじゃないのかなって」


 三人それぞれ好みのカップリングを持っているけど、私にとってのそれは、前世の私(鈴木)と佐藤君なのだ。

 必然的に私が二人に振る話題のリピート率が一番高い。

 それを知っている二人は、呆れたような反応を見せつつも、優しく反応してくれる。


「あー、それなんとなくわかる。普段見ない行動とか取られるとそれだけで盛り上がっちゃうよね」

「秋ちゃんならわかってくれるって信じてた。もっちゃんはどうかな、鈴木君が攻めってパターン」

「澄ちゃんの言っている攻めというのは、純粋な気持ちでぐいぐい行く感じでいいですか?」


 流石はテーブルゲーム部部長、例え攻めと受けの区分けを行おうとも、細部の設定まで意識してくれる。


「もちろん。鈴木君が腹黒独占キャラとかイメージつかないもん」


 前世の自分を私が評価することに違和感はあるけど、自他共に前世の私は良くも悪くも裏表がなかった。

 頭は悪い方ではなかったと思うけど、精神的に馬鹿だったと思う。だから私から見た鈴木という男の子は純粋だった。


「そうですね、私好みのテイストではないですけど、全然ありだと思います。……あ、そういえば」

「ん? どうしたのー」

「佐藤君の事ですが、もしかしたら本当に鈴木君の事が好きなのかもしれないですよ」

「「え!?」」


 もっちゃんの口からさらっと出てきた内容は、私にとって信じがたいものだった。

 あの佐藤君が前世の私を好きだった?

 普段からもっちゃんは冗談は言うけど、嘘を付いたりすることは殆どなかった。だから今、もっちゃんが嘘を言っているなんてことは思えなかった。


 私と秋ちゃんの驚きに、もっちゃんは楽しそうに笑いながら話を続ける。


「やっぱり驚きますよね。実はこの間、鈴木君が突然顧問にテニス部を退部したいと、話をしたそうです」

「え、退部? またなんでよ」


 そこで私は思い出した。そうだ、この時期だった。私が佐藤君のためにと部活を辞めようとしたのは。

 でも、そのあと顧問に退部は認められないと言われてしまい、そのまま中学3年間テニス部で活動することになったのだ。


(でも、なんでその話と。さ、佐藤君が鈴木君を好きだって話に繋がるのかな?)


「理由は分からないけど、いじめとかがあったわけじゃないみたい。ただ、鈴木君が辞めるって言い出す少し前に、佐藤君が顧問に”鈴木君が辞めるなら、僕もやめる”って言ってたみたいなの」

(えー! な、なにそれ! じ、じゃあ。あの時顧問の先生が慌てたのってそうゆうこと?!)


 まさか前世の私が部活を辞められなかった理由が、今頃になって判明してしまった。

 思い返せば、あの時の顧問の慌てようは相当なものだった。てっきり、顧問が真面目で最後まで頑張らせようとしていたのかと思っていた。


「あっはっはっは! 鈴木君のこと好きすぎでしょ!」

「そうよね、私も普段から二人の仲。というよりは佐藤君が鈴木君といるときの雰囲気とか、結構他と違ったから、この話を聞いてやっぱりってなったのよ」


 もっちゃんと秋ちゃんが楽しそうに、BLトークで盛り上がっていたけど。今の私には付いていけなかった。

 自分が命と引き換えに助けた親友が、まさか自分の事を好きだったなんて誰が信じられるだろう。

 確かに、他の部活仲間とかと違って肩を組んだり、部活前のストレッチは基本的に佐藤君だった。いつも佐藤君が誘ってきてくれたから、断る理由もなく、結果としていつも二人でやっていた。


 そうして思い返せば、結構色々なところで、あれはもしかしたらってなる出来事が多かった。あの頃の私には佐藤君以外の友達も多かったけど。

 思い返してあれ? となるのは殆どが佐藤君だった。


(これって、もしかして……本当なのかな? え、ウソ!?)


 未だ盛り上がっている二人の友人とは別に、私の脳内はそれ以上に爆音が鳴り響き、天変地異が起こっていた。


 呆然として回らなくなっていく思考と、真っ白になった視界が色を取り戻したのは。

 どうやって帰ってきたのか覚えてないけど、自室のベットの上だった。


 あれやこれやと、答えの出ない自己問答を繰り返し続けて行くうちに夜になった。

 そして考え続けた頭が、倒れるようにして眠りについた。


 目が覚めた時、私にとって全てともいえる、青春とも呼べる一つの世界が終わってしまったことを悟った。


「もっちゃん、秋ちゃん……私、もう腐れない……」

「「はあ!?」」


 私はあれほどどっぷり染まっていた腐の楽園に、あの花園に、踏み込むことが出来なくなっていた。



 ☆


 もっちゃんと秋ちゃんに私の世界が終わってしまったことを話した。

 最初は困惑していた二人も、私が必死に伝えようとする姿に理解を示してくれた。そして温かく見送ってくれた。

 この世界に住んでいれば、こういったことは多々ある。理由は様々で、彼氏ができたとか、単に冷めてしまったとか。もっとくだらない理由の時もある。


 だけど私はそのどれでもなかった。


 今でもあの楽園は好きだし、戻れることなら今すぐにでも戻りたい。

 でも、佐藤君が前世の私のことを好きだという話を聞いたとき、それが受け入れられなかった。

 二人のカップリングを楽しんでいたのは、あくまでも空想の話。だけどそれが何の前触れもなく、唐突に現実として叩き付けられた時。


 私の心はそれを受け入れられなかった。


 いつか、またあの楽園に戻ることが出来る日が来るのかもしれない。でも、それまで私はあの楽園に足を踏み入れることはできない。


 そうして、小学校から続いた私の一つの世界が、終わりを告げた。


 今まで生活の大半を楽園に費やしてきた私は、その世界が終わったことで新しい一歩を踏み出した。


「ひ、暇だよぉ~」


 なんてことはなく、情けない未練とともに、気の抜けた日々を過ごしていた。


「澄ちゃん、最近ずっとその状態ですね」

「どうしようか部長、我らの姫の気力がゼロ状態だぞ?」

「そうですね、澄ちゃんの元気がないと私達も楽しくないですし。何か、別の楽しいことが見つかれば良いとは思うんですけど」


 部活動の時間、私はテーブルゲーム部で一人机に突っ伏してしまう。

 あの世界を一度知ってしまった私は、何をするでもなく、ただこうして自身の身の上を嘆き続けていた。


(おかしい、前世の私はいつも楽しそうだったはずなのに、どうして今の私はこんなになっちゃったんだろう……)


 何か面白いことをしよう、そう考えても次の瞬間には面白くないと思ってしまう。

 所詮ダウナー状態なのかもしれない。


 そんな状態の私を見ていたもっちゃんが、何かいいことを思いついたように笑顔を向けてくる。


「そうだ、澄ちゃん。オンラインゲームとかどうですか?」

「オンラインゲーム?」

「オンラインゲームなら、ネットを通して楽しいことがいっぱいできると思うんですよ」

「あー分かる。澄ちゃんってゲーム得意だし、いいんじゃない?」


 忘れていたけど、ここはテーブルゲーム部。

 普段の活動でもしっかりとボードゲームを中心とした、多種多様なゲームを皆と遊んでいる。まあ、活動しているのは私を含めた三人だけだけど。


 前世の私はゲームが大好きで、部活以外の時間は携帯ゲームを始めとして、色々なゲームを遊んでいた。

 そんな前世を持っている私は、テーブルゲーム部で前世の経験をいかんなく発揮していた。特に読み合いのゲームとかはめっぽう強いほうだと思う。


 だから、二人がこの提案をしてくれたのは自然な流れだと思う。


「でもな~、すぐに飽きちゃいそうなんだよねえ……」

「まあまあ、そういうなって。やってみたら案外はまっちゃうもんだぞ」

「そうかなあ……」


 私を励まそうとしてくれる秋ちゃんの姿に、少しならやってみようかなと思ってしまう。


(多分、初めてもすぐに飽きちゃうかもしれないけど。せっかく秋ちゃん達が言ってくれたんだもん、やってみようかな)


 心配してくれる友人のためにも、こんな暗い気持ちでいたくない。


 何かハマれる物があればいいなと思いながら、私はこの時期に流行っているオンラインゲームはなんだったっけと、前世の記憶を思い出していた。



 ☆



 錆びれた廃屋で、私は息を殺して獲物を待っていた。


「SUMI、もう少しでそっちに敵が向かうはずだ。準備しておけ」

「了解です」


 敵に聞こえることはないけど、それでも自然と声を落として仲間の声に応答する。


 私はただ動かず、焦らず、時が来るのをじっと待っていた。

 風に舞う砂塵の粒の流れを自然と追うほどに、私は集中していた。


(来た……)


 まだ遠いけど、確かに足音が聞こえる。

 固い地面を叩く、短く乾いた音が聞こえてくる。


(音の方角と、この特徴的な音から。相手はリス位置付近から近寄ってきている)


 徐々に獲物が近づいてくることを証明するように、一定のリズムで足音が少しずつ音量を上げていく。

 もう少しで、獲物が目の前に出てくる。


 冷静にしなければという気持ちと裏腹に、唯一の武器を握りしめる私の手には自然と汗が浮かんでいた。


 後3メートル……後2メートル……後…………


(今!)


 獲物が背を向けて別の方角を警戒するであろうタイミングを狙い、私は勢いよく飛び出る。

 私の飛び出した時に響いた足音に、獲物は素早く反応して回避のために移動を開始しようとする。


 だけどそれよりも早く、私は獲物を蜂の巣にする。

 数秒もしないうちに獲物は血をまき散らしながら倒れ、目の前には勝利の二文字が浮かぶ。


「ふぅ……やったああああ!」


 自然と止めていた息を吐き出した直後、私は黄色い歓声をあげた。


「SUMIナイス!」

「ないすう!」

「GG!」


 私が勝利したことで、先の試合を注視していた戦友達フレンドが、思い思いの賞賛の言葉を並べてくれる。


「えへへ~、私に勝とうなんて百年早いんですよ!」

「さっすが俺らのリーサルウェポン!」

「SUMIがいればランキング上位も夢じゃねえぞ!」

「もっと褒めてもいいんですよー!」


 楽園を去ってから早1年、私はオンラインゲームにどっぷりとハマっていました。


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