#01 夏休み前って、見慣れた教室でもちょっと不思議な感じがするよね
ま、毎日投稿ってきつくなる波があるって聞きますけど。
あれって本当なんですね。
というわけで2章開幕です!
2章は夏休みと自分の中で考えているので、1章よりも短い可能性があります。
……個人的には、攻めてるつもりで無自覚カウンターを貰ってしまうのが一番の胸キュンポイントだと思ってます。
「――であるからして、夏休みでの皆さんの行動というのは……」
秋ちゃんともっちゃんの3人での部活動、佐藤君とのテニスコーチ。
そして先日フレンドになったトサさん。
夏休みが待ち遠しくなる理由が沢山ある私は、全校生徒の前で演説をする校長の、長くゆっくりとして眠くなる内容を華麗に受け流している。
周りを見回すと秋ちゃんは頭を小さく揺らして、気持ちのよさそうな寝顔を見せてくれる。
分かる、分かるよ秋ちゃん。
私たちの学校は普通に進学校。
そのためかは分からないけど、教室にはエアコンが設置されていて、日に日に熱くなってきた7月でも授業中は快適空間になっている。
そして私たちの学校は凄い所は、そのエアコン設備が体育館にも備え付けられているという事。
全校生徒が入ることができて、なおかつ室内運動部が縦横無尽に駆け回るこの体育館。
広大という表現がピッタリな、この空間を冷やすほどの設備は誇るべきだと思う。
中学の夏休み前の全校集会では、エアコンなんてモノはついてなかったこともあって、もはやサウナ一歩手前だったと言っても過言じゃない(過言)。
体育館でも演出される快適環境、そして初老の校長先生が刻むゆっくりトークは眠りを誘うのに十分だ。
それを証明するように、秋ちゃん以外の皆も何人か眠ってしまっていたり、頭をカックンカックン揺らしていたりする。
私は眠り姫から視線を外して、再度周りを伺う。
今度見つけたのはもっちゃんだ。
優等生なもっちゃんは流石に寝てしまうなんてことは無く、体育館に座っているというのに真っすぐ背筋を伸ばした綺麗な姿勢を保っていた。
(流石もっちゃん! ……あ、あくびした)
しかし、流石のもっちゃんも睡魔には勝てなかったようで。
綺麗な姿勢のまま、少しだけ口を開けて欠伸をする。
片手で口元を抑える仕草で、欠伸なのに何故か上品に見えてしまうのが不思議だ。
(目が合った……顔を隠した……耳が赤い。なんだあの生き物、か、可愛い……)
目が合うと、もっちゃんは自分の欠伸を見られたことを悟ったのか、赤くした顔をすぐさま隠してしまう。
そして少しの間の後、顔を赤くしたままおずおずと持ち上げると、恥ずかしそうに微笑んで軽く手を振ってくれる。
うん、可愛い。
私も笑顔で手を振り、先生に注意される前に姿勢を正して校長先生の方向を向く。
(中学から思ってたけど、校長先生ってどうして毎回お話がいっぱいできるんだろう……話題とか尽きないのかな?)
校長先生に聞かれたら凄い苦笑いをしそうな事を考えていると、私は背中に向けられる生暖かい視線を感じた。
この生暖かい視線を私は知っている。
というか最近学校で授業中とか、休み時間中にもたまに感じる事があり、今では馴染み始めているほどだったりするのだけど。
(なーんでそんな笑顔なんですか……佐藤君)
私は背中に向けられた視線の主である佐藤君を見る。
佐藤君は私と目が合うと、優しく微笑みを浮かべる。
カフェでの一件以来、佐藤君の私に対する反応が可笑しくなっていた。
特に最近はいいことがあったのか、やたらと笑顔なことが多い。そして厄介なことに、周りの皆にその話をしても誰も理解を示してくれないのだ。
というか佐藤君が笑顔だということに気が付いてすらいないのは、どうゆうことなんだろう。
確かに佐藤君が笑顔と言っても、その笑顔はポーカーフェイスに包まれた笑顔とでもいのだろうか。
一件笑顔じゃないのに、しっかり見ると笑顔に見えるのが佐藤君なのだ……あれ、これ気付く方がおかしいのかな?
とりあえず微笑みを向けてくる佐藤君に対して、どう反応したらいいのか分からなかった私は、とりあえず笑顔で手を振り返すしかできなかった。
(私が気にし過ぎてるだけで、これって普通の事なのかな? 今度佐藤君に聞いてみよう)
気になることがあればとりあえず確認してみる。
今みたいにずっとモヤモヤ悩んでいるなんて、完璧美少女の私らしくない。美少女の曇り顔はそれだけで世界の損失なのだ!
☆
校長先生の睡眠導入ボイスを乗り切った私たちは、一度自分たちのクラスに戻ったのち、先生から夏休み中における各種注意を受けた。
夏休み前日ということもあり、今日は授業は一切行われず、全校集会とクラスのHRが終わり次第解散となった。
皆が夏休みに心を踊らせ、友人と夏休みの事の予定を話したり、部活に向かう中で私は佐藤君に話しかけた。
「ねえ佐藤君、ちょっといいかな」
「ん、どうした?」
何故だろう、普通に声を掛けただけなのに、佐藤君はいつも通りの平坦な返しをしているはずなのに。
佐藤君が無表情なのに笑顔を向けているように見えてしまう。
(なんですかこの真笑顔は……)
しかしここで狼狽えてしまえば話が一向に進まないのは確実。私は全校集会中に聞こうと決めたことを口にした。
「最近なんとなくなんだけど……さ、佐藤君の私に対しての反応と、いいますか。雰囲気と言いますか……す、少しか、変わったかなあーなんて……」
本人を目の前にした私の口は、まるで他人のように敬語を使い、しどろもどろにつっかえながら、私の声で佐藤君に聞いてしまっていた。
いや、普通に考えて欲しい。
友人とか親友に、「最近の貴方、私に対する反応変わってきてませんか?」って素直に聞ける人って相当少ないと思うんだけど。
むしろこんな難しい質問を実際本人に聞けた私って凄くない!?
なんて現実逃避を勝手に始める私だったけど、佐藤君は特に気にした様子も見せず、首を少しだけ傾げる。
「いや……そんなことないと思うけど。最近の俺ってなんか変だった?」
まるで私が過剰に反応しているだけに思えてしまうほど、佐藤君の返しは自然なものだった。
しかし、佐藤君の言葉を聞いて思い返すと、自分で言うほど佐藤君に感じていた違和感が薄れていく。
あれ……私って本当に何か勘違いしてたってこと?
考えれば考えるほど、佐藤君の反応に違和感が無くなっていく。
それもそうだ、まともな会話をしてからまだ1月と少し。
ぎこちない関係から友人関係に発展した1月だ、だから佐藤君の私に対しての反応というのも、”友人”として見た時には普通なんだ。
この一月は色々濃かったから、私が一人で勝手に話を進めてしまっていただけだったんだ……
気が付くと途端に恥ずかしくなってくる。これじゃまるでではなく、本当に勘違い女になってしまっている。
顔が熱くなるのを感じ、私は慌てて顔を両手で覆う。
目の前で不思議そうな表情を浮かべる佐藤君も、内心はこんな変な質問をした私を、変な人だと思っているに違いない。
「ご、ごめんね! 急に変な事聞いちゃって!」
この場にいるのが辛かった私は、佐藤君にすぐさま謝罪をして離れようとする。
しかし動こうとした私の頭に佐藤君の手が乗せられる。
気が付くと佐藤君は、私のすぐ目の前まで近づいていたことに気が付く。
佐藤君の突然の行動に驚いた私は、逃げ出そうとしていた思考が停止してしまい、動けず固まってしまう。
そんな私に構わず、佐藤君は私の頭に乗せた手をゆっくりと動かす。
(あ、あー。なんだろう……落ち着くなあ)
初めて佐藤君に頭を撫でられた時を思い出す。
あの時も佐藤君は気を取り乱した私をこうして落ち着けてくれたんだった。
前みたいなぎこちなさがない手が、優しく動く感覚に身を委ねたくなってしまう。
「落ち着いた?」
「……も、もうちょっとだけ。お、お願いしますぅ」
佐藤君の優しい声に、私はつい甘えてしまう。
あーこのナデナデはよくない、まるで撫でられているところから溶けていくようだ。
秋ちゃんたちとは違う効能を持つ佐藤君の手に、私は次第に目を閉じて意識を佐藤君の手に集中させる。
この時の私は、テンパっているところを強制的に落ち着けられたせいもあって、正常な思考が上手くできなかった。
「でも立ってる状態だと辛いからさ、椅子に座ろう。ほら、こっちに来なよ」
しかも相手が前世の親友ということもあり、佐藤君はともかく私が一方的に心を許していたこともあって、次に発せられた佐藤君の言葉に素直に従ってしまった。
先に少し深めに座った佐藤君が両足を広げて、その隙間に私の座る場所を用意する。
私は佐藤君に誘導されるまま、こちらを向く佐藤君に背中を向けるようにして、空いているその隙間に体をすっぽりと納めてしまう。
流石に二人が一緒に座るには、この椅子は狭かったけど。
私の頭を撫でていないほうの手が、優しくお腹に回されることで私の体を固定してくれた。
「うぉ……疑ってたけど本当だったのか……だけど……これ……役……」
佐藤君が後ろで何かを言っていたけど。
ボーっとした頭と、背中を向けている事もあって、私はその言葉を一切理解することができなかった。
そしてもはや自暴自棄になっていた私は、考えることを放棄して、佐藤君に少しでも掛けないように、なけなしの理性で保っていた姿勢を崩す。
「――ッ!」
私が体の力を抜いて佐藤君に委ねると、一瞬だけ佐藤君の動きが止まって、体に力が入った。
「んぅ……」
だけど、佐藤君の動きが止まって、少しの不満と寂しさから漏れてしまった声に、佐藤君の緊張はすぐに解けて、また私の頭を撫で始めてくれた。
あーこれこれ、もうだめー。気持ち良すぎるよぉ……
「……お、俺は悪く……しかた……」
まるで自分に言い聞かせるような佐藤君の声に、校長先生とは別ベクトルの安らぎを覚えてします。
今の私にとって、佐藤君の優しい低音ボイスは睡眠薬に匹敵し、私の意識を凄い速さで刈り取っていく。
朦朧とする意識の中、暖かい何かが重みをもって肩回りに乗る感覚がした。
その重みが徐々に強くなるほど、どこか覚えのある匂いが強くなっていき、その匂いでさらに私の気持ちが安らいでいく。
(このまま……寝ちゃおうかな……)
自堕落になってく思考に抵抗せず、私が意識を落としていこうとしたときだった。
「はーいしゅーりょー!」
秋ちゃんの大きな声が、無理やりに私の意識を覚醒させる。
「あー、あきちゃんおはよおー」
寝る寸前だった私は、回復しきってない頭でどうにかおはようの挨拶だけする。
「はいはい、澄ちゃんおはよう。ほーら起きて起きてー、このままだと佐藤君が帰れないでしょー?」
どこか棘を含んだ秋ちゃんに手を引っ張られて、私は眠りのオアシスから無理やり外に出されてしまう。
全身を包んでいた暖かい感覚が抜けて行く感覚が、少し寂しかった。
「じゃ、佐藤君お話はまた今度しようね。私たちはこれから部活があるから」
「……ああ、そうだな」
「ばいばーい、さとーくうん」
未だ回復しきらない思考で佐藤君に別れを告げた私は、秋ちゃんに引率されながら部室に向かった。
そして部室に行くと、何故かもっちゃんと秋ちゃんによって全身揉みくちゃにされた……なんして?