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#03 新世界への扉は何時でも開いている


 突然目覚めた私の元に、着替えを取りに行っていた両親は、私が初めて見るほどの慌てぶりを見せながら走ってきた。

 ベットからケロッと起き上がっていた私を見つけたとたん、まるで真横に飛んだと思わせる勢いで抱きしめられた。


「よかったぁ……よかったぁ……」


 涙を流しながら、小さく感謝するように紡がれた両親の言葉を聞いて、3歳だった私も大声で泣いてしまった。


 熱も無く、体調を取り戻した私が退院してから数日。

 私は、前世の記憶とも言えるこの情報と、鏡に移る自分を見ながら一つの答えを導き出した。


「び、美少女転生きたあああああ!」


 鏡に映っていたのは、日本人離れした白い髪と、絹のように綺麗な肌。

 ただでさえ、これだけの情報で幻想的になっていたのだが、ダメ押しとばかりにそれを幻想たらしめる二つの青い瞳。


 前世の記憶が蘇る前の清い私は、他とは違うこの体を見て一種の迫害感を心に秘めていた。

 しかし、前世の記憶が蘇った後の私からすれば、これは空前絶後の美少女であり。鏡に移る顔立ちから見ても、現在進行形、そして高校生になるころには完璧美少女が出来上がっているだろう。


 どうして他の人と違うのかを両親や病院先生に聞いたところ、私の先祖に日本人以外の遺伝子が混ざっており、その中でも特徴的なモノが現れただけらしい。

 だから髪は白くてもまつ毛は黒いし、眉毛は黒よりの灰色だった。うん、バランスがいいね。


 ただ、この青い瞳だけは生まれつきというわけではなくて、どうやら私が前世の記憶を思い出したこの3日間が影響しているようで。

 病院でも初めて見る症例と言われてしまった。何かあるといけないということで、それ以降定期的に通院することが義務付けられることになった。


 普通に面倒。


 まあ、そうゆうことで、今の私は控えめに言っても美少女。そして普通に言えばかなりの美少女だ。

 これなら人生勝ち組、周りからちやほやで、人生楽々ひゃっほい……そう思っていました。


 小学校に上がってから、この世の不条理を私は味わうことになる。


 あ、前世の記憶については両親にぼかしながらだけど正直に伝えることにした。

 伝えると言っても、3日間寝込んでいる間に知らない男の子の夢を見た程度で伝えたが、それでも両親は何かを察した様子で。


「何かあったらパパとママに言うんだよ。澄香は何があっても僕たちの大切な宝なんだから」

「そうね、だって澄香ちゃんは澄香ちゃん。他の誰でもないのよ」


 そう言って優しく受け止めてくれました。正直ここでも私はワンワン泣いてしまった。ぼかして伝えても、気味悪がられたらどうしようという気持ちで一杯だった、だからその重圧から解放された気分で、ダムが決壊したように涙が止まらなかった。


 ということで、後顧の憂いが無くなった私が意気揚々と小学校に入学したときのお話。


 正直ね、どこかでこの小学校見たことあるなーとか、見たことある先生が並んでるなーとか。色々あって、色々目を逸らしていたんだけど。

 決定的なことが、目を逸らすこともできない事実がそこで判明してしまった。


 小学1年になった私達が、初めてのクラスで、初めての自己紹介をしたときだった。

 小学1年生の自己紹介なんて、名前が言えれば良いほうで、皆が皆頑張って自分の名前を発表している光景をみて、微笑ましく思っていると。


「じゃあ次は君だね、お名前はなんていうのかな?」


 優しい若い女性の先生が、次に自己紹介する子を指名する。


「はい!」


 元気よく声を上げて立ち上がったのは一人の男の子だった。

 その顔を私は昔から知っていた。声が出そうになるのを必死に堪える。


「僕の名前は! 鈴木 斗真です!」


 私の気持ちも知らずに、男の子は元気よく自己紹介をする。

 鈴木斗真、それは私が夢見た男の子、私の前世の名前だった。


 ☆


 ま、色々あったけど前世と同じ時間に転生して、前世の自分に会おうが、私には関係なかった。

 今の私は私で、前世の自分は全くの他人だということで納得すれば何も問題はなかった。

 だけど、それより問題、というよりは気がかりなことがあった。


 それは前世に関係していることで、前の私が初めて後に親友とまで呼べる間柄になる、もう一人の男の子と出会ったことだ。


 私の通っている小学校は小学4年から学習科目に、クラブ活動というものが追加される。一言で言えば部活動の下位互換とも呼べる科目。


 サッカーや野球、テニスといった屋外スポーツをはじめ、卓球やバスケ、バレーといった屋内スポーツ。そして習字やテーブルゲームといった屋内活動のクラブのうちどれかに必ず入り、そこで週に2限行わる授業があった。


 前の私はこのうちのテニスを選んで、そこで親友と出会う。


 中学に上がるまで、前世の私は親友と同じクラスになることはなかったが、このクラブ活動で後の親友と友好を深めていく。


 だが今世の私はテニス部に入ることはなく、興味本位でテーブルゲームクラブに入った。端的に言ってここのクラブは極楽だった。


 活動場所が室内、しかも少し狭く熱気が篭りやすく、換気が難しい都合上、ここには例外的にクーラーが設置されている。

 そしてテーブルゲームクラブ、通称TGクラブで活動する人間は私を含め、夏の猛暑日や冬の極寒に対しての耐性が物凄く低かった。


 さらに、私という美少女が涙目で教師にお願いすれば簡単にクーラーが稼働した。まあ、私が何もしなくてもクーラーは動かしてくれたけどね。


 そんな快適空間の中で、皆と楽しく将棋やチェスといった王道ボードゲームから、一風変わったモノまで多種多様なゲームを楽しみながら、私は窓から見えるグラウンドの光景を見るのが習慣となっていた。

 窓から見ているのは勿論テニスをしている前世の私と、親友の姿。


 なんとなく、二人が楽しく遊んでいる光景を見ながら、当時のことを思い出すのが楽しかったからそうしていた。

 最初はそう思っていた、楽しく眺めていたのは4年と5年のうちだった。


 6年になったとき、変わらずテニスに夢中で楽しく遊んでいた二人を見ていた時だった。


「斗真君はやっぱり受けだよね、普段は陽気で楽しく遊んでいるけど、親友からいきなり押し倒されて。それから……」


 同じクラブに所属する女友達の一人が、二人の姿を見てぽつりと呟いたのを聞いてしまった。

 最初は何を言っているのだろうかと思った。


「腐腐腐、澄香ちゃんも今に分かるようになるから。この神秘の花園はいつでも誰でも歓迎してるから」


 その日からだと思う、私から見た二人の姿を普段通りに見れなくなったのは。


 ダブルスで勝てた時に嬉しさのあまり抱き合う二人だったり、じゃれ合っている姿。子供ながらも試合に集中する二人を見ていると、なんとなくムズムズするようになった。

 そんな私にいち早く感づいたのも、女友達だった。


「腐腐腐、種は育ってるみたいだね、あともう少し」


 どこのフィクサーだ、と言いたくなるが、何故か彼女はそんな私を見透かすように、不気味に笑みを浮かべていた。

 やばい、やられる。そう思ったときには遅かった。


「……」


目の前に置かれてるのは一冊の本、中にはおぞましい世界があるというのは分かりきっている。

だから意識から遠ざける、自分には縁のない世界なんだと言い聞かせ続けても、目が一点に吸い寄せられてしまう。


「腐腐腐、隠そうとしても無駄だよ。ほら、ほら」

「……べ、別に私は興味とかないよ」


 私の必死の抵抗は、目の前にいる魔王にはお見通しだった。


「腐腐腐、本当に興味がないならそれでいいけど、外見だけで嫌悪される食材って可哀相だと思わない?……もしも一口でも試そうと思ったなら、私は澄香ちゃんをいつでも歓迎するよ?」


 そう言って彼女は一冊の本を、私が心では否定しても、体が求めてしまったそれを手渡す。


 一冊の本に描かれているのは二人の男性、これだけなら他の漫画と差して変わらないモノだけど。そこに描かれているのは二人の裸の男だった。

 二人は言葉巧みに交わり、否定しつつも体が求める快楽に溺れる様は、前世を含めて見てきたどの漫画よりも、私を滾らせた。


 ダメだとわかっているのに、ページを捲る自身の手を、私は止めることができなかった。


 ページを捲るたび、自分がどんどん毒されていくのが分かってしまう。自分はなんて愚かな存在なのだろうかと、自己嫌悪に陥ってしまいそうになる。


「最初は皆そう、だけど一度この禁忌に触れてしまえば離れることはできない。体が求めてしまうから」


 彼女の声は、そんな私の心の隙間をスルリとすり抜けて浸透する。

 なぜだか、見慣れた友人の姿に後光まで見えてしまう。その光景を私はどこかで見たことがある。


「でも、それは罪ではないの。抗っても自分が辛いだけじゃない、ね。澄香ちゃんが落ちづらいなら、私が一緒に落ちてあげるから」

(マリア様……)


 その時の私には、彼女が救世主の母たる聖母マリアに見えた。まるでこの楽園を慈悲深く、慈愛に満ちた瞳で見守る女神様に見えた。


 その日、私は神に出会った。他者から腐った神と蔑まれようとも、目の前にいる彼女は私にとって、女神さまに他ならない、彼女が要れば何も怖いものはない。


「腐っ腐っ腐っ。ようこそ、秘密の花園。私たちの楽園へ」


 あの時の私は、彼女の腐りきった瞳に気づくことができなかった。

 その日から私の人生は一変した。一変してしまった。


 クラブ活動の時に、二人の光景を純粋に楽しみにしていた私はいなくなり、代わりに、二人の姿を見ながら私だけの楽園を彩るために、濁った瞳を向ける、地に落ちた私がいた。

 最初は前世の自分を使うなんてことは考えられなかった、だけど一度そのラインを踏み越えれば、後は驚くほどに簡単だった。


 私がこの暗闇から目が覚めたのは、それからしばらく経った中学2年。

 きっかけは前世の自分と、親友の話を聞かされた事だった。


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