#14 テスト勉強って勉強を始めるまでが一番の難所だったりする
学生の本分は勉学、そして学校という小さな社会での協調性といった社会適応能力の向上だと思ってる。
後者に関しては問題ないと思う、高校に上がってからは男の子の視線とかがちょっとあれで、中学の時みたいに誰彼構わずとかは難しくなったけど。
幸い、佐藤君からはそういった類の視線は向けられていないので、高校で初めて男の子と一緒にいても安心出来ている。
美少女的にどうなんだとかについては、前世の記憶があるからかもしれないけど。それならそれで、変に気を使わないから助かったとどこか達観することができた。
「そこに使う計算式はそれじゃない、xの代入をまず先にやってから……そう、後は残っているほうと……」
気が付いたら目前まで迫った期末テストに向けて。
先日ゲットした佐藤教員と共に、”私達”は学校の図書館でテスト対策勉強会をしていた。
「あーなるほどねえ、澄ちゃんが佐藤君に勉強教えてもらってる理由がよく分かったよー」
「そうですね、私も人に教える機会は多いですけど、佐藤君の教え方は同じ視点で行ってくれるので、理解しやすいですね」
「まーったく澄ちゃんは、こうゆうことならもっと早く言ってよねえ」
「うぅ……私だけのスペシャルアドバイザーが……」
そう、私達。
私、佐藤君、秋ちゃん、もっちゃんの4人で勉強会を行っていた。
少し前までは佐藤君とのマンツーマンで教えてもらっていたんだけど、テニスとかテスト勉強で学校と部活以外で最近遊べてなかった秋ちゃんから。
「澄ちゃんが男作ったああ!」
なんて言いがかりを付けられてしまい、色々説明を尽くしたけど、最終的に秋ちゃんもっちゃん含めての勉強会をすることで誤解を解くことにした。
しかし、もっちゃんはともかく秋ちゃんの学力は私と同じぐらい。
今の状況だともっちゃんは一緒に勉強をしてはくれるけど、テスト対策についてはアンタッチャブル。
必然的に佐藤君が教える対象に秋ちゃんが含まれてしまう。
期末テストまでの期間も差し迫ってるこの状況で。貴重な人材リソースが実質半分になってしまうのは痛い。
「っていうか、なんで秋山さんにも教えないといけないんだよ。俺関係ないだろ」
「まあまあ、そんな堅いこと言ってると澄ちゃんは手に入らないぞ~」
「別に要らないからいいよ」
「じゃあ澄ちゃんは私のものー!」
不満そうな佐藤君とは対照的に、満面笑顔で秋ちゃんが私に抱きついてくる。
抱きつかれる事に慣れてしまった私は、特にこれといった反応を見せることもなく、私の胸に顔を埋める秋ちゃんの頭をただ撫でる。
「んふー」
秋ちゃんは嬉しそう、というよりは自慢気な顔をして佐藤君を見る。
(今勉強中だよね?)
テスト対策中なのに話が脱線してしまうこの状況は如何なものだろうか。
そう思ってもう一人の頼れる友達に視線を向けるけど、もっちゃんは我関せずで自分の勉強に集中していた。
「「はあ」」
「なにさなにさ、二人して溜息なんかついちゃって」
「俺は別に構わないけど、このまま脱線し続けるなら来週の期末テストどうなっても知らないからな」
「「……」」
佐藤君の呆れ交じりの忠告で、抱きついていた秋ちゃんは何事もなかったかのように、自分の目の前に広がっている教科書に向き直る。
私、そんな切替の早い秋ちゃんが大好きなので、そのまま勉強に集中しようね?
「美月、ここ違うぞ。というかなんだ? その絵は」
そう言って佐藤君は回答欄近くに描かれた私の力作。
ゴマ油もん吉を指さす。
中学から私の相棒として不動の地位を築いてきた彼を、高校に上がった事により、その姿を顕現させることに私は成功したのだ。
ボディはゴマで、そこから両手足がニョキっと生えているシンプルな見た目で描きやすさは抜群。
さらに顔は私の相棒なので、目がクリクリっとしていてめちゃ可愛い。
これだけでは他の落書きと思われてしまうので、差別化も含めて全身を油まみれにして完成。
この妙にテカテカしたフォルムを見ていると、愛らしさもあって私の心を穏やかにしてくれる。
描きやすさがピカイチで問題が難しい時とかはよく描いている。
彼が私に勇気と余裕をくれるのだ。
「変な絵だな」
「よし分かった、1回表出ようか」
「勉強しようって言った矢先に脱線すんなっつの。佐藤君も、澄ちゃん画伯に失礼でしょ」
そんなこんなで、私たちは共に切磋琢磨して勉強に打ち込んだ。
☆
勉強に打ち込んだと言っても、元来人間の集中力というのは長続きしない。
年齢とともに集中継続可能時間は前後はすれど、大体が40分から1時間とテレビで言っていた。
当然、完璧美少女の私も例外ではないので、1時間も集中すれば注意は散漫になる。
だから皆の集中力が切れるぐらいのタイミングで、10分の休憩を挟むことにした。
「ぐへへへ……すみちゃん、いいからだしてるねぇ……」
私がそうなら秋ちゃんはもっとそうだ、私の横で良からぬ夢の世界に秋ちゃんは旅立っていた。
「俺、ちょっと席外すぞ」
「いってらっしゃーい」
佐藤君はそう言うと席を立って図書室を出ていく。
私も秋ちゃんほどじゃないけど、集中して疲れたので。少しだけ仮眠を取ろうと体制を変える。
「私、お手洗いに行きますね」
「はあーい」
仮眠の体制に入った私は、もっちゃんのその言葉に生返事を返して目を閉じる。
仮眠から目を覚ましたのは10分と少し経った後。
目を覚ますと秋ちゃんは未だに寝ていて、図書室から出ていった二人は既に自分の席に座っていて。
私が目を覚ました後、秋ちゃんも起きてもう1時間勉強会を続けて、その日の勉強会は解散になった。
「いやー今日は助かったよー。これなら赤点は回避できそうだねー」
「秋ちゃん、普段から真面目に授業を受けていれば、赤点なんて話は出てこないですよ?」
「あいたた~、それは言わないのがお約束でしょー」
帰り支度を済ませた私たちは、学校の校門まで他愛ない雑談をした。
私たちは軽い談笑が混じっていたけど、佐藤君がその輪に入ることはなかった。
それも当然だ、私はともかく、秋ちゃんともっちゃんに関しては佐藤君は今日が初対面。
いきなり仲良くなれという方が難しい。
「佐藤君、今日もありがとうね……」
「別に、部活休んでて暇だから気にしなくていい」
それでも仲間外れみたいになるのが嫌で、私は終始佐藤君に話題を振っていた。
図書室から校門までの道は意外は長いようで短く、少し話ながら足を進めればすぐに校門まで辿り着いた。
「俺、帰りこっちだから」
佐藤君は校門から出ると、自分の家の方向を指さす。
その方向は、私達3人と真逆の方向だった。
「私たちはこっちだから、最後は無手で残念だったねー」
「花には興味がないし、煩くなくていいよ。俺、花粉症だからさ」
「なんだよお!?」
秋ちゃんの挑発する発言を、佐藤君は興味なさげに返す。
「じゃあまた明日!」
7月に入って夏真っ盛りと言っても、2時間以上図書室で勉強を続けていれば、夏でも外は暗くなる。
勉強を見てもらって帰りが遅くなっているのに、さらにここで変に話を振って帰る時間が遅くなるのも、佐藤君に申し訳ないと思った私は。
簡単に挨拶をする。
佐藤君は秋ちゃんの怒声に一切反応せず、私のほうを暫くじっと見る。
なんだろう、この期に及んで私の美少女っぷりに気が付いたというのか?
っふっふっふ、まあ私でもお風呂の時とか濡れた私を見て、ちょっとドギマギすることもあるのだ、仕方のないことよ。
「ああ、また……明日」
私を見ていた時と違い、どこか呆れたような表情になった佐藤君が、簡単な挨拶を返してくれたのでお互いの帰路に付いた。
期末テストまであともう少し、ここを頑張らないと完璧美少女がただの美少女になってしまう。
もう少しだ、頑張れ私!
「もっちゃん、今日なんかあったの?」
「何もありませんよ秋ちゃん」
「ふ~ん…………ま、後で教えてね」
「分かってますよ」
勢い込む私の後ろで、秋ちゃんたちが何か話していたけど、ただお話していると思った私は気にすることはなった。




