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#13 サーブで一番重要なのは正確なトスだと思う。

 佐藤君と今世で交流を持つようになったけど、まだまだ距離は近いとは言えないのが現状だったりする。


 特に最近はテニスを一緒にしていることもあって、それなりの関係になっていると思っている。

 そんな佐藤君だけど、最近なぜか距離感というか、違和感を感じてしまう瞬間がある。


 例えば藤君にテニスを教えてもらっている時。


「さあ!」


 競技からして違和感が大きい掛け声と同時にサーブする。


 この掛け声は前世からのお気に入りだ。

 たまたま見たスポコンアニメのお気に入りキャラがこの掛け声を使っていたので、それを真似ているだけなんだけど、意外と気に入ってしまっている。


 最初はおふざけだったけど、それがだんだんと癖になっていき、最終的にはこれでサーブを打たないと良い感じのサーブが出来なくなっていた。


 今世でそれを直そうと思ったけど、やっぱりだめで。

 全力だったり、集中している時に無意識でこの掛け声を出してしまう。


「やったあ! 佐藤君見た!? 見た!?」

「……見てたよ、ナイスサーブ」


 最初はやっぱりサーブも上手くいかなかったけど、ちょっとずつ今の自分に合うサーブを練習した私は、自分でも上達したと思えるほどだった。


 さっきも、私が打ったサーブはネットよりボール1つ間隔を開けて、相手コースの深い位置でバウンドさせることができた。


 前世は回転重視のスピンサーブだったけど、今の私はどちらかというとフラット寄りの面で打つ方がやりやすいようで。

 今放ったサーブもスピードの乗ったいい球が打てていると思った。


 だけど、それに歓喜しているのは私だけで、佐藤君は生返事を返してくれるだけで、どこか上の空だった。


「ねえ、ちゃんと見てる? もっとよく見てよー、佐藤君がしっかりしてくれないと私のサーブが本当に良いのか分からないじゃん!」

「見てるって言ってるだろ。強いて言うならボールトスがまだ真っすぐ上げられてない。安定したトスができないと結局運だよりになるよ。あと、トスを上げてるときはボールもそうだけど、打ち込む場所も意識しないと意味がない。今回たまたま良い所に飛んだだけだから」

「……はい」


 上の空でも見るとこはしっかり見てくれてるので、私は一切の反論ができず縮こまる。


 佐藤君はテニスを教えるときは結構スパルタというか、問題があれば遠慮なくズバズバ言ってくる。

 実際その指摘は合ってるし、そこが直せると明らかに自分の動きがよくなるのが分かるので、この時の私はイエスマンだ。


「まだ美月は初心者だから仕方ないけど、サーブを打ったらそれで終わりじゃないから。相手が打ち返してくるのが基本、だから打ったらすぐ動けるように構えて、相手のリターンに対応できるようにしないとダメ」

「……すみません」


 今世になっても、私は前世と同じミスを何度もやらかしては、佐藤君に説教……


「何か言った?」

「ナンデモアリマセン」


 ……指導を受けるという、前世と同じ光景を作り出していた。


「……もう一回」


 結果、佐藤君は私の問題点を上げるたび、出来の悪い生徒を前にした先生のような飽きれというか、不満そうな表情というか。


 とりあえずマイナスな顔を深めていく。


「さあ!」


 私はサーブを打った後、すぐに腰を落として相手が打ち返してきても対応できるように体制を作る。

 実際は相手コートに誰もいないからボールが返ってくることはないけど、状況を想定した練習というのはそうゆうものだから、相手が打ち返してこないとかは関係ない。


「……」


 指摘された箇所を意識したこともあって、言われた所の動きは出来ていたはずだけど。

 それでも佐藤君の表情は重くて、上手く言ってるはずなのに何か問題があるのではと不安になってしまう。


「サーブは問題ないな、打った後の動きも及第点。後は経験で慣れていくしかないから、今言ったことは意識すること」

「はい!」


 そんな不安とは裏腹に、佐藤君から告げられたのは意外な合格発表だった。

 とりあえずサーブはこれで問題ないだろう、そう思って安心しきっていると、佐藤君は口を閉じることなく最後に一言。


「さあっていう掛け声止めろよ」


 どこか冷たい言葉で、サーブとは殆ど関係ない所を針で刺してくる。

 別によくない? 掛け声って他の選手とか結構独特なの多いよ? ンフアとか、へーいさーとか絶対笑わせに来てるのとかもあるよ?


 しかも、そうゆう選手は皆強かったり、全力真剣でしているので前世の私は、大会とかで密にそうゆうのも楽しみにしていたりしていた。


「別に、さあって掛け声変じゃないよね?」

「変、すっごい変だから。サーブの時にわざわざ声とか普通出さないし」


 少しの抵抗も切り伏せられて、私は自身の数少ないアイデンティティを取り上げられてしまった。

 というか、変なら前世で教えてくれませんかね? 鈴木君が可哀相じゃん。密にかっこいいとか思ってたかもしれないじゃん。


「……静かにサーブします」


 こうして、私はサーブの時に声を出すことはなくなった。



 ☆


 そんなことが度々あり、サーブ以外でもアニメで見た何とかステップとか、前世と同じプレイスタイルを試そうとするたびに、佐藤君に注意をされ続けた。


 しかもその時の佐藤君はめちゃくちゃ機嫌が悪そうで、私は静かに従っていった。


 あの時も思ったけど、変とか違うって言うなら前世でそう教えてほしかったよ……、

 今みたいに訂正されてればもっとうまかったかもしれないじゃんか、おのれブルータスお前だったのか。


 ……セリフ違う気がする。何か不純物が混じってるぞ?


 不機嫌な顔で、不満そうな声で色々言ってくる佐藤君だけど、それでも間違ったことは言っていないと思う。

 その証拠に、初めて一月経っていないのに私のテニス力はかなり上がっているのだ。


 前世でいっぱい練習したのもあるかもだけど、それでも中々な成長ぶりだと思う。


 そして、今日も今日とて佐藤君にテニスを教えてもらっていたある日。


 いつものように練習前の軽い運動として、お互いに数メートルの距離で軽くボールを打ち合っていた時だった。


「そういえば、再来週に初めての期末テストだな。美月は勉強とか得意なのか?」

「はっ!」


 軽い運動時に何時もしている他愛ない雑談、だけど今日ばかりは違った。


 佐藤君が選択した話題が、まるで後頭部を鈍器で殴られた衝撃を私に伝える。


「そうだった……」

「忘れてたのか」


 佐藤君とのテニスが楽しすぎて忘れていたけど、季節は既に7月始め。

 期末テストはすぐそこまで来ていた。


 ただ、ここで誤解しないで欲しいのは、私は勉強が出来るほうだ。授業はしっかり受けるし、家に帰れば簡単な復習もするようにしてる。


 こんな美少女が頭悪かったらなんか残念キャラになりそうだったから、もっちゃんにも分からないところは教えてもらったりと、私なりの美少女努力を行っている。


 普段なら、問題はないはずだった。


「……佐藤君」

「やだ」


 私が小さく名前を呼べば、佐藤君は何かを察してすぐに拒絶してくる。


 だけど逃がすわけにはいかない。もっちゃんはめちゃくちゃスパルタな上に、ものすっごく真面目なので。

 普段はともかく、テスト前のテストの点を取るための勉強というのに良い表情をしない。


 今のように、テストを忘れて遊んでいたりすると絶対に助けてくれない。

 昔秋ちゃんが同じ状況で、もっちゃんに縋りついたことがあったけど、笑顔で極刑宣告されていた。


 頼れるもう一人の友人秋ちゃんは、二人だけでの勉強会を開けば必ずちょっかいを掛けてくるから。結局勉強どころじゃなくなってしまうのが目に見えている。


「……お願いがあります」

「俺、今日野暮用あったのを忘れてた。美月も大変だろうけど、勉強頑張れよ?」

「逃がすかあ!」


 そう告げて踵を返す佐藤君の腕を、私は全力で掴みにかかる。

 一度掴めば最後、絶対に離さないとばかりに私は両腕で佐藤君の腕を胸に抱きとめる。。


「み、美月!? 離せ! 色々不味いから!」

「いーやー! 勉強教えてえ! 佐藤君頭良くて教えるの上手って鈴木君言ってたもん!」

「だからって俺が教える必要ないだろ! と、とりあえず離せって!」


 必死に暴れる佐藤君。

 そこまでして私に勉強を教えたくないというのか! ぜ、絶対に逃がさないぞおお!


 私はさらに力を入れて、佐藤君の腕をしっかりと捕縛する。

 暫くそうして二人で問答を繰り返し続けることで、ようやく佐藤君が諦めたように抵抗を止める。


 っていうか顔を赤くして……そこまで嫌なの? 私、美少女。貴方、役得。OK?


「わ、分かった。教えるから、とりあえず離してくれ」

「良かったあ……じゃあ明日から教えてくださいね、先生!」

「はあ……なんでこんなことに」


 こうして私は、安心信頼実績の三拍子揃った優秀な教師をゲットした。


「……顔赤いけど、そんなに嫌だった?」

「……心の底から」

「!?」

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