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#02 小さい頃、高熱のときに見た夢って意外と覚えてたりする

 私が記憶を取り戻したのは、通っていた保育園で転んで頭を打ってしまったとき。

 余りの衝撃と共に、3歳になったばかりの私には、到底耐えられない程の情報が、濁流となって押し寄せてきた。


 それから私は三日三晩、高熱にうなされ続けてしまうほどの重傷だった。


 当時の両親は、母の体の都合でなかなか子供が出来ず、それでも諦めずに頑張った結果ようやく授かることのできた一人娘が、私だった。

 だからかもしれない、倒れた私のために両親は仕事を三日間休み、付きっきりで私の看病をしてくれた。


 当時のことを両親に聞くと、少しでも目を離したら死んでしまいそうなほどだったそうで。当然、高熱が出たその日に入院してしまった。


 その三日間でうなされ続けた私が見たのは、一人の男の子が生まれて、そして高校生になって死ぬまでの記憶だった。


 男の子はいつも楽しそうで、いつも友人に囲まれていた。少なくとも記憶の中ではそうだった。

 そんな男の子にも一つだけ気がかりな事があって、それは男の子にとって一番の親友だった一人の男の子の事。

 二人は小学校からずっと仲良しで、中学からはテニスというスポーツを通してより一層仲良くなっていった。

 でも、どのスポーツでも言えることだけど、スポーツを続ければ続けるほど、例え同じ時間を過ごしても、そこに実力の差という絶対的な壁が出てきてしまう。


 二人もその例に漏れることはなかった。


 男の子は悩んでいた、親友である友達の実力はテニスを続ければ続けるほど、如実に上達していった。

 シングルスで試合をすれば、男の子は必ず親友に負けてしまう。大会に出れば男の子は市の中でも準決勝に行けるかいけないか。これでも凄いと思う。


 だけど親友は違った、市の大会なら必ず優勝するし、悪くても準優勝。

 県の大会に出れば上位に食い込める程だった。当時は流石に県大会より上の大会に行けるほどではなかったけど、でもそれは行けそうだけど、ギリギリいけないということ。

 彼が県大会より上の大会にいけない理由を、男の子はなんとなくでも分かっていた。


 ”自分と一緒にテニスをしているから”男の子が最初に出した答えがこれだった。


 親友はテニスの練習をするとき、必ず練習相手に男の子を選んでいた。それは善意だったのかもしれないし、他の人よりもやりやすいだけだったのかもしれない。

 でも、男の子からすれば、実力差の大きい二人が練習することは、下のためにはなっても上のためにはならないと思っていた。


 そう思って親友のために練習相手を変えようともした、だけどそのたびに親友は悲しそうな顔をしてしまう。それに耐えられずに結局二人で練習してしまうことになった。


 これじゃダメだと、今度は思い切って退部しようと顧問に退部を届け出ようとした。

 だけど、退部というキーワードを顧問に話した途端、顧問は慌てたように男の子の話を遮り、そして遠回しに退部なんてさせないと伝えてきた。


 顧問はかなり真面目な性格のようで、学業の一環である部活を辞めさせるなんてことは許容できなかったようだった。


 そうして練習相手チェンジも、退部という切り札も失敗。

 男の子は最後に部活に出ないという、サラリーマン最終奥義にもなっているボイコットを発動しようとした。

 まあ、結果的にこれが一番の失敗だった。


 サボっていたことが部活経由で両親に伝わり、その日のうちに青空の元落雷が鳴った。

 そうして、どう足掻いても無理だと悟り、それでもどうにか出来ないかとモンモンしている間に、ついに高校生になってしまった。


 高校を変えようとも思ったが、将来に大きくかかわる高校受験を、それのためだけに棒に振ることはできなかった。

 男の子はバカで他人の気持ちを汲み取ることが苦手だったが、それでも将来のことを考えるぐらいの自己保身力は身に着けていた。


 真面目に受験した結果、晴れて男の子は希望していた高校に進学することができた。


 親友と一緒に。

 

 高校でもまた、同じようになるのかと考えた矢先、入学してから二か月。気が付いたらテニス部に親友と入部、中学同様二人で練習するという光景がそこにはあった。


 そして、男の子の記憶が途切れるのも同じく二か月後。

 親友と一緒に部活帰りをしていた時、石に躓いた親友が体勢を崩して、車道に飛び出そうになった時だった。


 普段は通学利用されていることもあり、車道になっていても車が通ることすら珍しい道だった。しかし、そんな車が殆ど通らない場所に、運悪くその日は車が猛スピードで迫ってきていた。

 男の子がそれに気が付いた時には体が動いていた。前のめりに倒れかけていた親友の手を掴み、自身の方へ強引に引っ張った。


 ただしそれは、親友と体を入れ替えるようにしてだった。


 男の子が最後見たのは、自身に呆然とした眼差しを浮かべる親友の顔と、自分へと無慈悲に迫ってくる一台の車だった。

 そんな状況でも、男の子の頭は冷静だった。男の子は命の危機的状況で一つのことを考えていた。


(ああ、これで怪我すれば入院になるし。少なくとも数か月はこいつがまともに練習できるはずだ)


 所詮、冷静に思えていた思考は、パニックになっていたのだろう。それを最後に、男の子は走馬灯を見ることもなく。

 そこで一人の男の子の人生は幕を下ろした。



「下ろしたんかい!」


 三日三晩高熱にうなされた私が飛び起きて放った一言は、何とも締めの悪いセリフになってしまった。


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