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#01 俺が死ぬとき、俺と私の物語が始まる

 私達が高校に入学して2か月、夏を目の前にしたその日、鈴木君が死んだ。

 目の前で行われている葬式に参列しながら、私は少し前までのことを振り返っていた。


 前世の親友と、今世で初めて話をした中学3年の秋。

 初めて見る親友の一面に驚いた私は、結局それ以降鈴木君とも佐藤君とも話をすることはなかった。


 それでも、鈴木君が死んだ後に落ち込むであろう親友に、ただ何もしないで知らないフリなんてできない。

 結局、私は前世と同じ高校を受験して、2度目の合格を貰った。


 まあ、自宅から自転車で通学できる高校が、前世と同じだったというのもあるけど。というか、それが一番大きいかもしれない。



 前世で自分が死んで、記憶を取り戻してから十数年が経った。

 自分の葬式を見ることが出来た人間は、もしかしたら私だけなのかもしれない。


 遺影に映る他の誰よりも見たことのある顔、鈴木斗真という名前の男の子の葬式を目の前に、私はどこか現実逃避していた。


 目の前で泣き崩れる前世の両親、年末年始や特定の時期にしか会えないお爺ちゃんとおばあちゃん。

 そして、親戚の集まりで少し話しただけだったり、逆によくゲームをした従弟達。


 十数年たっても忘れなかった面々が、鈴木という男の子の死を悲しんでいる光景を見るのが、正直辛かった。


 今すぐにでも飛び出して「私、転生しました!」なんて言えたらと思う、だけどそんな話は到底受け入れられるはずがない。


 だからは私は黙ってるしかできない。


 軽い気持ちで見れると思ってた。

 もっと、他人事のように受け入れられると思ってた。


 自分の死……ではない。


 そんなものは前世を思い出したときに受け入れたし、覚悟は出来ていた。今の私が生きているのに、どうして前世の死を悲観できようか。


 私が辛いのは、家族の悲しむ姿を、友達や親友の暗い顔を見ているしかできない事だった。


 視界の端で、佐藤君の顔を盗み見る。


「……」


 彼の表情は一貫して暗いものだったけど、他の人みたいに泣いたりはしていなかった。


(悲しんではくれるけど、落ち込んだり、ふさぎ込んだりしてる訳じゃなくてよかった)


 私は客観した視点を持つのが苦手だ。だから気づかないし、楽観していた。

 目の前で親友と呼べる人が、自分を庇って死んでしまう光景を見せられた人間が、どれほどの精神的なダメージを受けるのかを。


 想像できなかった。

 もしも、その話の登場人物が逆転していた時、自分がどう思うのかを。



 ☆


 自分の葬式に参列した次の日の学校、最近になってようやく座りなれた私の座席に、秋ちゃんともっちゃんが来てくれた。


 私が進学した高校に、二人も進学した。

 理由は簡単で、私同様、家から通える範囲で通いやすい、そんな簡単な条件に当てはまるのがこの高校ぐらいしかなかったからだ。


 一応は進学校と言われていて、入学難度は地味に高かったりするけど、私より頭のいいもっちゃんは当然として。

 私とどんぐりの背比べな秋ちゃんも、私が入学できる高校ならば当然、受験戦争を勝ち抜いた。


 高校入学日、3人で手を取り合い、喜び合ったあの時を、私は大人になっても忘れることはないと思う。


 一応先に言っておくと、私達3人は同じクラスで、鈴木君と佐藤君も同じクラスだけど、佐藤君はまだ登校してきてはいなかった。


 そんなわけで、普段は和気あいあいとしている私達だったけど、今日ばかりはそうもいかなかった。


「お、おはよう」

「おはようございます」

「二人とも、おはよう……」


 普段は明るい空気が、今日ばかりは重かった。


「それでさ、澄ちゃんは大丈夫?」

「うん、私は大丈夫だよ。参列したって言っても、私は鈴木君と話したことなかったし」

「それはそうですが……でも、鈴木君は澄ちゃんにとって、少なくとも他の人とは違うでしょ? だから私達、心配なんです……」

「もっちゃん……、秋ちゃん……心配してくれてありがとう……」


 多分、もっちゃんと秋ちゃんの認識だと、鈴木君と佐藤君に色々と因縁(主に腐ネタ)があったりするから、私が気落ちしているのかと心配してくれているのだと思う。


 二人の気遣いは本当に嬉しいけど、実際の所私は鈴木君の死に対して思うところはない。

(だって前世の自分だし、死んでしまう事も知っていたし)


「私は大丈夫なのは本当だから、二人が暗い顔してると私も辛いからさ……いつもみたいに、楽しくお話ししようよ」


 私が笑顔でそういうと、二人は安心したように息をつく。


「そっか……澄ちゃんがそうゆうなら」

「そうですね、私達まで暗くなってしまうと澄ちゃんもつられてしまいますし」

「まったく澄ちゃんは、普段はあんなにポンコツなのに、こんな時ばっかり大人ぶっちゃってさー! この、このー!」

「あははは! 止めてえ!」


 落ち込んでいる私のためなのか、二人はすぐにいつものように優しい雰囲気で、私に接してくれるようになった。


 秋ちゃんからの悪戯も、今日はなんだか優しい気がするし。私に対するちょっかいも、今日はどこか落ち着ているような気もする。


「ん? 澄ちゃん……、中学までぺったんこだったはずだけど、最近大きくなった?」

「や、やめてー! そそそ、そんなに触らないでぇ……」


 前言撤回。秋ちゃんは秋ちゃんでした。


「秋ちゃん、周りの目がすこし危ないですから、すぐに止めてください」

「おっと、そうだった。ご、ごめんね澄ちゃん……」


 流石にもっちゃんがすぐに静止してくれたので、秋ちゃんはすぐに私から離れて謝罪してくれた。

 だからと言ってすぐに許すわけではないけど。


「つーん、変態秋ちゃんなんか嫌いですー」

「ねえ~ごめんってばー! 澄ちゃんを元気づけようとしただけなんだよお!」


 今日の私はそんなにも落ち込んでいるように見えるのだろうか。

 そうなると、私は秋ちゃんからのせっかくの善意を無碍にしてしまった事になる、そう思うと心が痛い。


「こちらこそごめんね、秋ちゃん。私、秋ちゃんの気持ちに気づけなくて……」

「気にしなくて大丈夫ですよ、最初はそうだったかもしれませんが、最後は完全な私利私欲でしたから」

「へえ、ふーん。そうなんだね秋ちゃん?」

「あ、バレちゃったじゃんかもっちゃん。澄ちゃんなら簡単に騙せるんだから、余計なこと言うなよー」


 秋ちゃんの気持ちに気づけなかったと思って謝罪したけど、すぐにもっちゃんからの証言によって前言撤回になった。


 最近、秋ちゃんがどこぞのセクハラ上司みたいになってきてるような気がする……

 き、気のせいだよね。私の知ってる秋ちゃんはいつもカッコいいんだから。中学の時だって気が動転してる私に優しくしてくれたり。


 愚痴とかも聞いてくれるし、一緒遊んでくれる。たまに抱きしめてきて、話してくれなかったりするけど。


 そうして秋ちゃんの良い所を探していくけど、何故か一定のタイミングで今日みたいなことを思い出してしまう。


(も、もしかして。秋ちゃんのセクハラって昔からだった……?)


「もっちゃん」

「どうしたんですか秋ちゃん」

「澄ちゃんが何かに気づいたみたい。目を見開いたと思ったら、私に怯えたような目を向けてきてるんだけど」

「きっと今まで騙してきた行いの真実に、辿り着いてしまったみたいですね。というか、今までよくばれなかったですね。やっと年貢の納め時ですか……」

「甘いぜもっちゃん、澄ちゃんはこっからでも丸め込めるから澄ちゃんなんだ。ま、見てな」

「はぁ……」


 昔の美化された淡い記憶と、現実という非常な狭間で私が揺れ動いているなか。

 私が気づいていない間に、秋ちゃんともっちゃんはそんな会話を進めていたけど、私がそれを知ることはなかった。


 良くも悪くも考え事をしている私は、周りが見えなくなってしまうのだ。


 ようやく現実を受け入れることができた私は、余罪を含めて秋ちゃんに罪状を叩き付けようと口を開く。


「秋ちゃん、今まで私にしてきたことで何か言うことはありますか?」

「言うこと? はて、何のことやら分からないな」


 ウソだ、私が何を考えて口を開いているのか、付き合いの長い秋ちゃんなら察しているはずだ。

 分かっていてとぼけているのだ。それならば、私も容赦しないよ。


「今日みたいなこと、今までもあったよね? レストランの時とか、水泳の授業の時とか」

「はっはっは、何を言うかと思えばそんなことか、その時私が何をしたのか逆に聞かせて欲しいね?」


 なぜ秋ちゃんがここまで強気なのか、私には分からなかった。

 だってあの時の秋ちゃんは、今日みたいに悪戯にかこつけて、体をまさぐってきていたのを私は覚えている。


 あの時は気づけなかったけど、思い返してみればあれとか、これとか、秋ちゃんが私の体に触れるときの、大体でセクハラが行われていた。


 気づけなかった私が抜けているだけなのかもしれないけど、このままではエスカレートしていくのではないかと不安だ。

 今のうちにしっかりと予防線を張って行かねば。


「澄ちゃん待って、今ここでその話をするのは止めておきましょう」


 自分を守るための戦いに熱を入れ始めた私に、もっちゃんが待ったをかける。

 そして、もっちゃんの言葉に私は慌てて周りを見る。


 教室の空気は重い、それもそうだ。

 高校に進学してすぐとはいえ、この高校に進学する生徒の大半が私達と同じ中学になる。だから死んだ鈴木君のことを知っている人間は多い。


 しかも鈴木君はこのクラスの生徒でもあった。だから、この教室の空気は他と比べても暗かった。


「そうだね……ここでふざけるのは違うよね?」


 私がそう言うと、秋ちゃんもバツが悪そうに同意してくれた。


 私たちは、高校で3人そろって入部した、アナログゲームの開発を活動目的にする、通称アナログゲーム開発部で雌雄を決することにした。


 まあ、結果から言ってしまうと、秋ちゃんからちゃんとした説明を受けた私は、自分が自意識過剰に勘違いしているのだということが分かった。


 なので最終的に、私が秋ちゃんを疑ってしまったことに対する謝罪を行うことで、決着がついた。

 ごめんね秋ちゃん、友達を疑うなんて私が間違っていたよ。


「本当に丸め込めてしまいましたね……」

「澄ちゃん、本当に悪い奴に騙されないか心配になってきたよ」


 そんな会話が私のいない部室で繰り広げられていたなんてことを、私が知る日は来なかった。


 なぜならその日、私はやらなければならない事があって、部活動の終了とともに家にダッシュで帰っていた。


 ☆


 学校から返ってきた私が、とある決意とともに両親にある話をしたのは、皆で夕食を食べている時だった。


「お父さん、お母さん。お話があります」


 その日の晩御飯の味を感じることが、私には出来なかった。

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