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#10 友人と数年ぶりに話すと、どこか違和感を感じる話

長かった序章が終わりました!

次話から高校に移ります!

 創作の世界でしか聞いたことのないファンクラブという幻想が、まさかの自分に出来ていたという、衝撃の事実を知ってしまった翌日。


 アヒルさんやガガンさんに愚痴り、慰めて貰うことができた私は、昨日よりは落ち着いて学校に登校することができた。


「あ、澄ちゃんじゃない?」

「本当だ、校門の隅っこでどうしたの澄ちゃん。全然気づかなかったよ?」

「え!? あ、いや!? な、何でもないよー……」


 ごめんなさい、落ち着いて登校なんて出来ませんでした。

 登校時間真っ只中、学校に近づくにつれて私の足はどんどん歩みを緩めていき、校門を目の前にして完全に停止してしまった。


 だけど校門で立ち止まるということは、登校する他の生徒たちとすれ違うわけで、すれ違う人の中に確実にファンクラブの会員がいると思うと、恥ずかしさから私は自然と校門の陰に隠れてしまった。


 そんな私を見つけたのはクラスメイトの女の子二人、休み時間にたまに話したりする関係だった。

 昨日まではそんな友達を見つけたらすぐに声を掛けていたけど、今の私には難しかった。


(仲がいいと思ってた人も、もしかしたら会員なのかもしれないんでしょ……)


 そう思うだけで、普段は勝手に開く口が全く機能してくれない。


「それなら別にいいんだけど……っていうかもう少しでチャイムなっちゃうよ、行かないの?」

「だ、大丈夫! 私すこし用事があって、すぐに行くから二人は先に行ってて!」

「澄ちゃんも早く来てねー」

「この時期とか遅刻すると担任煩いしねー」


 昨日までと全く変わらない二人の反応が、今はそう見えなかった。


 ☆


「はあ……間に合った……」


 羞恥心との葛藤の末、私はどうにか教室へたどり着くことができた。


「あっはっはっは! どうしたの澄ちゃん、顔真っ赤だよー!」

「あ、秋ちゃん。多分私たちのせいですよ……」


 もっちゃんは昨日同様申し訳なさそうな顔をして、逆に秋ちゃんが私の顔を見て笑うけど、こうなったのはどこの誰のせいなのかを考えてほしい。


 ☆


 どうにか授業が始まれば中学三年の後半、受験シーズンもあと3か月程になってきている事もあって、恥ずかしさを忘れて勉強に集中することができた。


 前世で一度やったところではあるけど、それでも体感10年以上前の話だ。流石に前世の時よりは理解できるようになっているけど、それでも集中して頑張らないと大変なことに変わりない。


 普段はふざけたりしている秋ちゃんも、最近は授業にも真面目に取り組んでいる。

 部活でも普段は建前でしかない受験勉強も、真面目にする機会が少しずつ増えてきてもいる。


 そうして受験と羞恥心の忘却のため、集中したおかげで体感だけど普段よりも早くお昼休みになった。


 いつも通り机を合わせて私達3人は給食を食べ始めた。


「いやーそれにしても昨日の澄ちゃん、物凄い慌てぶりだったねえ」

「秋ちゃんのせいだからね! もう皆とどんな顔してお話したらいいのか、分からなくなっちゃったじゃんかぁ……」


 次第に小さくなる声で、最後には呟くようにして私は秋ちゃんに言う。

 秋ちゃんにはこの手の意趣返しは意味がない、だからと言ってそれをしないのは負けた気がするので、少しだけ秋ちゃんを睨む。


「澄ちゃんの場合、睨んだところで可愛いしか出てこないよねえ」


 ダメだった。


「でもさ、昨日の話だと。このクラスの人も結構、その……会員だったりするのかな……」


 給食の時間ということもあって、周りは話声とかで騒がしいけど、それでも誰の耳に入るか分からなかった私は、秋ちゃんに小さい声で問いかける。


 少し考える素振りを見せた後、秋ちゃんは口を開いた。


「まあ、そうだねえ。男子は半分以上で、女子は少しいるぐらいかなあ。ほらあそこの子とか、結構前からの会員だったはずだよ」


 そう言って秋ちゃんが指し示した方向には、二人の女の子が楽しそうに談笑している姿があった。

 二人は今日の朝、校門の蔭に隠れていた私を見つけて、優しく声を掛けてくれた二人だった。


(……あはは)

「……あはは」


 心の中で呟いた乾いた笑い声が、自然と口からも漏れてしまった。


 そんな私を見かねたのか、もっちゃんがフォローに回る。


「澄ちゃん、あまり気にしないほうがいいですよ。昨日も言いましたけど、ファンクラブに入っている人の大半が面白半分、軽い感じで入っている人が多いですから」

「でもさ、でもさ。それでも私の、そ、その。ふ、ファンクラブ……があるなんて受け止め切れないよー」


 私はとうとう机に体を投げ出してしまう。

 秋ちゃんともっちゃんの場合、二人がこのファンクラブの創設者だったとしても、何ら変わることもなく接することができるけど。


 他の人となるとそうもいかない。もう、なんとなくだけど視線すら感じるようになってしまうし、自意識過剰だとは自分でも思うけど、どうしようもない。


「まあ、私達も誰が会員なのかどうかも正直分かんないところあるし、気にしなくていいんじゃない?」


(それって管理者としてどうなのかな……?)


「でもそんなお悩みな澄ちゃんに朗報だよ。澄ちゃんが推してたカップリングの御二人は、まだ会員になっていないからね、そこんところは安心して」

「安心できる要素ないよ、秋ちゃん」


 そう返す私に、秋ちゃんは悪いことを考えているような表情を見せる。


 多分、この後秋ちゃんから出されるお話は、どう転んでも私にとっては不幸なモノになると思う。


「いい機会じゃん、あの二人に話しかけてみたら? 今の状態だと、あの二人以外に確実に会員じゃないなんて言える人、私しらないしー」

「ウソだ、絶対知ってるでしょぉ……」

「秋ちゃんの言い方はあれですけど、話しかけること自体は良いことだと思いますよ。結局中学3年間話しけることもなかったじゃないですか」


 秋ちゃんだけならともかく、まさかもっちゃんもそれに同調するとは思わなかった。


 もっちゃんからすれば、私があの楽園の住人になる切っ掛けでもあり。その楽園から出ていく原因でもある。

 私だけじゃなくて、もっちゃんから見ても、因縁のある相手に見えているのかもしれない。


(まあ、最初の目的といえば。あと1年もしない間に、目の前で友人の死を目撃してしまう親友を、鈴木君の代わりに私が少しでも慰められたらっていうのが大本だったし)


 最近、仲良くなることが先行してしまっていたみたいで、ここで私はそんな自分の当初の目的を再認識した。

 もっちゃんと秋ちゃんは、私があの二人と仲良くしたいと勘違いしているみたいだけど、大本命は佐藤君だ。


 本音の所で言ってしまうと、鈴木君はあと1年もない命だし、なんだったら前世の自分だ。わざわざ仲良くなる必要も義務もない。


「それに、私達もこれから受験勉強の追い込みにもなりますし。そうなってしまうと、今動かないと中学であの二人と仲良くできる機会はないかもしれませんし」


 心配そうにもっちゃんの言うことは確かに的を得ていた。


 というのも、鈴木君と佐藤君はこの時期、性格には部活を引退してから高校受験に向けて猛勉強しているのだ。

 しかも、元々頭の良かった佐藤君がよく鈴木君に勉強を教える日も多い。だから受験の追い込み期間直前の今を逃せば、必然的に彼たちと接点を持つのは難しい。


「もっちゃんの言う通りだよ、澄ちゃん他の連中には普通に話に行けるのに、なんであの二人のことになると渋るんだよ」

「そ、それは……い、色々あるの……」


 自分の口が滑らないように、すぐさま私は給食のパンを口に放り込む。


「ふーん、色々ねえ。もしかして、二人のうちどっちか好きだったりするのか?」

「んぐ!?」

「あらまあ、そうなんですか?」


 秋ちゃんの突然の言葉に、すぐさま反論しようとする、だけど私は給食のパンを口に頬張っていたこともあって思うように声が出なかった。


 その反応に何かを察したようにもっちゃんが口に手を当てながら、お上品だけどどこかわざとらしく驚く。


 慌ててパンを水で流し込むことで、ようやく口が使えるようになった私は、すぐに否定しにかかる。


「ち、違うから、そんなんじゃないから!」

「へえ……特別な感情も何もないなら話しかけられるよなあ? そういえば、今日の掃除の時間とかなら行けそうだよねぇ?」

「うぐぅ、秋ちゃんのいじわるぅ……」


 反論の術を失った私は、秋ちゃんの言葉に頷くしかなかった。


 こうして私は、転生したから初めて。前世の親友と対面することになる。



 ☆


 放課後、掃除の時間。

 佐藤君が一人のタイミングを見計らって私は声を掛けた。


「何?」


 前世では見たこともない冷たい表情、聞いたことのない程感情の乗っていない声を聞いて、私は動揺してしまった。


 だから私の口調は自然と早口になって、まくしたてるように言葉を続けた。


「あ、あの。私、佐藤君とも、す、鈴木君とも仲良くしたいなって……ほ、ほら。私達小学校から同じ学年だけど、話したことって殆どなかったように思うの。だ、だか「興味ない」 ――え?」


 佐藤君の冷たい声が、私の言葉を遮る。


 いつの間にか下を向いていた視線を、佐藤君に向ける。

 そこには感情が一切読むことの出来ない、無機質な瞳が私に向けられていた。


「先に言っておくけど。斗真と仲良くしようとか思わないでくれるかな? 出来れば、余り話しかけないでくれると助かるんだけど」


 この時の私は、見知ったはずの親友が、全く別の人間に見えた。

 だからかもしれない、この時の私には分からなかった。


 無機質に見えていた佐藤君の瞳に、警戒と敵意が少なからず篭っていたことに。


 そこで私は、前世では見る事のなかった親友の、全く知らない一面を見ることになった。

 結局、私はそれから佐藤君に話しかけることが出来なかった。


 高校に上がって2か月後。前世の私、鈴木斗真が交通事故で亡くなるまで、私は前世の自分と話すことは結局なく。

 佐藤君と言葉を交わすことも、前世の私である鈴木君が死ぬまでなかった。


 だけど、その日からようやく私達の物語が動き出した。

次話と合わせて前話までの登場キャラクターを、軽くまとめたものも投稿する予定です

イメージとしてはある一定のタイミングで、同じような紹介話を出していければなと思ってます。

今作の主役佐藤君(主人公はヒロイン)はもう少しでちゃんと出てきます。


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