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#01 プロローグは大切

 事実は小説よりも奇なりと誰かが言った。

 俺はその言葉を中学生で知ったとき、こう思った。


「いや、普通に小説のほうが奇妙奇天烈だろ」


 しかし、人間は時と共に成長する生き物だ。

 高校1年になった俺は、一つの葬式に参列していた。

 目の前で亡くなった人の親族が涙を流している光景は、(よわい)高校生という成熟しかけている年齢であったとしても、複雑な気持ちにさせられる。

 たとえ自分にとって親密な関係でないとしても。


 皆の前で、生前の話をする親族が涙を堪えきれず、嗚咽しながらもどうにか言葉を紡ぐ姿は見ていてこちらまで悲しくなる。

 ではなぜ、亡くなってしまった人の旧友でもない俺が、この葬式に参列しているかといえば簡単なことで。


 亡くなった人というのが俺と同じ高校、そして同じクラスの男子生徒以外の理由はない。

 実のところ参列しているのは基本的に彼の親族、そして学校でも仲の良かった友人たちが大半となっている。


 俺のように、彼との関りが殆どない人間も参列しているが、それは極少数。

 ここで、俺がなぜこの葬式に参列しているのか、それは亡くなってしまった彼の名前を聞けば、察することは容易だろう。


 亡くなってしまった男子高校生の名前は、鈴木斗真(すずき とうま)

 そして、葬式に参列している俺の前世の名前は鈴木斗真(すずき とうま)


 同姓同名の別人、なんてことはなく。亡くなった男子高校生と俺は同一人物だ。

 自分の葬式を目の前にして、俺は先の言葉の認識を改めた。


「うん、事実のほうが奇なりだわ」


 俺こと鈴木斗真改め、今の私の名前は美月 澄香(みつき すみか)

 前世と同じ時代に、まったくもって無意味なTS転生をしてしまった、ただの一般人です。


 ただし、その一般人の前には美少女というキーワードが付きます、これ大事。



 そして……


「ね、ねえ……なんとなくなんだけど近すぎない?」

「そんなことないよ、普通の距離だと思う」



「ねえ、なんでいつの間にか手を握ってるの? これおかしくない?」

「友達と手を繋ぐことって普通のことだと思うけど、澄はこうされるのって嫌なの?」

「そういわれるとおかしくはないのかな。それに嫌ってわけじゃないけど……」



「ねえ、なんで私が上に座らされてるの?」

「周りを見てみてよ、僕は自分の椅子に座っている。でも、澄の座れる椅子はどこにもないじゃん」

「……確かに」

「女の子を立たせておくなんて男として最低だと思うんだ」

「……そうだね」

「だからこうするのは至極当然のことだと思うけど?」

「……なるほど」



「ねえ、私のお腹に顔を埋めるのって変だよね?」

「そんなことない、こうすると落ち着くだけだから」

「でも……これって流石に……」

「澄は嫌なことあったらどうしてほしい?」

「んー、それはやっぱり愚痴を聞いて貰ったり、慰めて欲しいかな」

「そうだね、だから僕はこうして澄に慰めてもらってるけど、澄が嫌なら悲しいけど僕は止める」

「わ、わかったから! ごめんね、嫌な言い方しちゃった……でもさ、これって普通なの?」

「普通だよ、皆やってる」

「普通なんだ……」

「だけど僕以外には、こうゆう事しちゃだめからね」



「澄ちゃん、今の状況を客観的に見て変だと思ったりしないの?」

「え? こういわれてるけど、変な所あった?」

「いや、無いよ。普通のことだよ。澄も僕もおかしく思ってないなら、これは普通ってことだろ?」

「ないって言ってるよー? 普通だって―」

「そ、そうなんだ……ご、ごゆっくりー」


 前世では色々失敗した私だけど、だからこそ今世で私がやるべきことが一つだけあった。


 それは、前世の私のせいで精神的に傷ついた親友を助けるということ。

 そしてできるのならばもう一度、前みたいに仲良くなりたい。


「澄ちゃーん! き、気づいて―! それ絶対おかしいからああ!」

「澄に変なこと吹きこまないでね?」

「イヒィ!?」

「仲いいねー」

「いや、これ見てそう思うのは可笑しいでしょ……」


 死んでしまった前世の私の分まで、私は今世を絶対に楽しもうと思います。

 あと、前世で助けたせいで傷つけてしまった親友に、優しく接していこうと思います。


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