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異世界貴族につき・・・  作者: 茶と和
第1部 田舎の異端児
30/33

30 父と娘

 翌日、父親である王に呼ばれたララは、王の執務室の横にある小さな談話室に呼ばれた。側仕えが入室を取り次ぎ、許可を得て入室する。「ここに来るのはいつ以来だろう?」ララは覚えがないほど、ここに来たことがない。


「父上、お呼びにより参りました」

「よく来た。まあ、座りなさい」


 ララは王が勧めるソファーに座る。側近がてきぱきとお茶の用意をする。王族にしか口にできないハーブティーだ。側近がお茶を出し終えると、王が「皆、下がれ」と、人払いを命じた。2人きりになると、早速、王が話しを切り出した。


「昨夜、アマンダに話しを聞いた。ララは誰にどこまで話しを聞いたのだ?」

「地母神様の御使いさまにですよ。どこまで母上が話したか分かりませんが、父上が秘匿にされたようなので、個人名や研究される魔法のことは、母上には伝えておりません」


 あくまでも、御使いさまに聞いたと主張するララに、王は、昨夜から考えていたシナリオ通りに話しを進めていく。


「これだけは言っておこう。それは何かの間違いだ。子供に爵位を与える代わりに、その子の魔法を国で研究するなどあり得ん。大方、誰かが根も葉もない噂を流し、それが妙にねじ曲がってララに伝わったのだろう。お前は被害者なのだ」


 王は、ララが聞いたのは噂話で、彼女を被害者にすることで、感情を刺激し、誰から話しを聞いたのか吐かせようとしたのだ。しかし、御使いから直接話しを聞いたララにそれは通じない。御使いの存在を信じなかった王は、初めから悪手を打ってしまったのだ。


「なるほど、そういうことですか。では何故そのような噂話を私にしたのでしょうね」

「それは儂が聞きたい。誰がそんなことを言ったのだ?」

「誰かをお疑いなら、そのようの者はおりません。お調べになればすぐに分かるでしょう。父上はもっと真剣に考えてくれるものと思っていましたが、そうではなかったようです。嘘までついて否定してくるとは……」


 ララは失望の言葉を口にし、王の言葉を嘘だと断じる。


「儂の言葉を嘘と申すか? 否定するその根拠はなんだ」

「噂話程度なら、そもそも私をここに呼びつける筈がありません。無視すれば良いのですから。でも秘匿情報が洩れたのなら、誰が洩らしたか特定せねばなりません。手っ取り早いのは私から聞くことです。母上は私が地母神の加護を持つことを疑っています。今回のことで、いよいよ私の気が触れたとでも思ったでしょう。母上を落ち着かせるためにもあまり時間を掛けられません。大方、父上は自分が話してみるとでも言って、母上を納得させたのでしょう。父上も本当に気が触れたとお考えなら、初めから嘘までついて否定することはありませんから」


 まるで、見てたかのようなララ言葉に、王は考えを改める。ここまで確信したような口調だと、否定しきるのは無理かもしれない。初めからララが心の病に罹ったことにすると、ララの汚点になる。そこまでしてレオンに義理立てする必要はないと考えた、自分の脇の甘さが恨めしく思った。


 こうなれば、ララにも秘匿事項を話すしかないだろう。それにララの話しが事実なら、地母神や御使いさまの話しが信ぴょう性を帯びてくる。王はすぐさま方針転換した。


「すまんかった。だが、ララはグラセス男爵家のレオンのことを『気になるとか興味があるとかではない』と言っていたから、別に伝えなくても良いと思ったのだ。8歳の子に情報を秘匿させるのは、些か酷だからな。それで、ララはどこまで聞いておるのだ?」


 王の態度が変わり、ララも一安心する。いつもの父と娘に戻ったようだ。


「御使いさまは、レオンに爵位を与える代わりに、レオンの飛行魔法を軍で使えるよう研究するのだとおっしゃっていました」

「うむ。概ね合っている。それを地母神の御使いさまに聞いたと申すか」

「証拠は出せませんがその通りです。御使いさまは、飛行魔法は人には使えないともおっしゃいました」


「人が使えない魔法をレオンは使えるのか? それではレオンは人ではないことになるぞ」

 まだ御使いの存在を完全には信じ切れていないからだろう、王がからかい半分でララに軽口を叩く。だが、思ったのとは違う真剣な答えが返ってきた。


「もしかすると本当にそうかも知れません。だから、御使いさまが王都まで付いてきたのだと言えます」


 王が絶句する。……そこまでレオンのことを想っているのか? 恋は盲目というが、8歳でもこんなことになるのだな……でも8歳だから修正も利くのだ。

 

 そして、王にある考えがひらめく。

 いっそのこと、ララとレオンの距離を縮めてみるのはどうだろう? レオンのことをもっと知れば、レオンの嫌なところも見えてきて、案外簡単に冷めるかも知れない。

 この歳では、将来のことなど絵空事のようなものだ。相手を理想の存在と思い込み、夢や憧れを抱く。滅多に会わない相手ならなおさらだ。会えないからこそ、思い出や理想でより美しく描こうとする。だが、どんなに美しく描かれた絵も、見慣れてしまえばいつかは興味を失うものだ。それを早めてしまえばよい。


 王は具体策まで思案してみた。

 問題は二人の距離だ。遠すぎては意味がないし、近すぎるのは儂が許さん。月1くらいでララを研究所に遣って、レオンの近況を儂に直接報告させるというのはどうだろう。儂がララに会える機会も増える。秘匿事項だから、わざわざ王族を使っているのだと言い訳が立つし、歳が同じだから、王都に来たばかりのレオンの話し相手にもなると説明もできる。

 年の頃なら9歳になる第三王子のエステバンが最適だが、王子だとレオンが委縮しかねないし、秘匿事項を知る者をこれ以上増やしたくない。臣下には、レオンが余計な権力争いに巻き込まれかねないから、王子でなく王女にしたのだとでも言って納得させよう。


 王は一通り考えをまとめ上げると、早速、目の前のララにぶつけてみることにした。


「それで、ララはどうするのだ? アマンダからは、地母神はその子、つまりレオンを見守っているのだと聞いたが」

「そうですね。地母神様は御使いさまにレオンを見守るようにと命じたそうです。そして、御使いさまは私にも一緒に見守るようおっしゃいました。ですから、御使いさまのお役に立てればと思っております」


「なるほど。それなら、儂の代りにレオンから報告を聞いてきてくれ」

「はい? 父上の代りにですか?」

「そうだ。月1回くらいの割合で、レオンが勤める王立魔法研究所に行き、レオンから直接近況を聞いてくるのだ。ララはそれを儂に報告する。正式な報告は研究所のエセキエルに頼んであるが、それは研究に関するものが中心だ。ララにはレオンの私的な部分を聞いて、儂に報告してもらいたい。家族と離れて1人で王都に来たのだ。いろいろ思うところはあるだろう」


「一度しか会ったことのない王族の私に、私的なことなど話すでしょうか?」

「まあ、茶でも飲みながら世間話をして、レオンが何をどう考え、どんな価値観でいるのかを知れれば良い。そんな難しく考えるな。ただし、王族だという節度を持って接しなさい」


「王族という節度ですか? それはそうでしょうけど」

 節度を持てと念押しした意図がいま一つ理解しきれいないララだが、それでも王の言葉を受け入れることにした。


「本来ならレオンを王城に来させるべきだが、子供を頻繁に王城に呼んでは誰だって怪しむ。儂の命でララを魔法研に派遣する方が良いだろう。ララは地母神の加護を持つと一部で認識されているから、加護に関する研究の協力者として魔法研に出入りしていると思わせた方が良い」


 王は、この際だからララが加護持ちであることも周知しようと考えた。王族が地母神の加護を持つとなれば、神からこの地の統治を任せられたと、正当性をよりアピールできるかも知れない。


「私が地母神様の加護を持っていると、信じていただけたのですか?」

「加護を持っているかどうかは、正直いって半信半疑だ。だが、いまララが話した内容は概ね事実だ。秘匿事項を漏らした者がいないのであれば、少なくとも御使いさまの存在は信じるしかない。であるなら、ララが地母神の加護を持っていても不思議ではないことになる。積極的に周知しようとは思わないが、お前が加護を持っていると世間に知られても構わないと判断することにした」


「そうですか。半分でも信じていただけて嬉しいです。でも私のことが世間に知られるのはあまり気持ちのいいものではありません」

「まあ、そんなに心配するな。そもそもこの件は秘匿事項だ。この件を知る者は皆、口が固い。レオンに関する情報も徹底して管理する計画だ。飛行魔法という言葉自体を禁じ、情報は一部に集約。報告書は第三者が勝手に閲覧することはできない。ほかにもレオンにはなるべく人と接触しないようにもする。研究所での会談はエセキエルの判断で、必ずエセキエルの立ち合いの下でするように申し付けてあるのだ」


「情報を管理するなら、そこまで徹底するのは仕方がないのでしょうが、それだとレオンが息苦しさを感じないでしょうか?」

「そこでララの出番だ。上手くレオンの気持ちを落ち着かせ、環境や待遇に不満がないか本音を聞き出すのだ。地母神は豊穣や実りをもたらすだけではない、母のような慈しみを与える神でもある。優しく接してレオンの警戒心を解し、少しずつでも話せるようになるのだ」


「そうですね。御使いさまには一緒に見守ると約束しましたが、正直に申し上げると、レオンに会う機会は全く思い浮かばないので、どうしようかと思ってました。今回、父上がその機会をお与え下さいましたことに感謝いたします。その役目、お引き受け致したいと存じます」

「そうか、受けてくれるか。これで一安心だ。エセキエルにも、ララが定期的にレオンを訪ねて話し相手になる旨を伝えておこう。レオンが研究所に出仕するのは、来週行われる仮の爵位授与式後になるので、ララが訪ねるのは、さらにその1か月後でよい。それと、儂への報告は文書にする必要はない。ララが見て聞いたレオンのありのままを儂に口頭で伝えてくれればよいのだ」


「秘匿事項なので、文書に残すと管理に手間が掛かることは分かりますが、本当に口頭でよいのですか? それだと、どうしても私の気持ちが入ってしまいますよ。なるべくありのままを伝える努力はいたしますが……」

「それで良いのだ。文書管理に手間が掛かるのは事実だが、それだけではない。ララは一度しか会っていないレオンの魔力量が多いことを見抜いた。その直感力を儂は高く評価する。文書にすることで、それが歪められるかもしれない方が、むしろ問題だ」


「そういうことなら承知致しました。でも、初めからあまり期待しないでくださいね」

「打ち解けるまでに時間が掛かるだろうことは分かっておる。ララも初めから気負わず、まずは茶を飲みながら、レオンの好きなものや普段は何をして過ごしているのかなど、身近な話題で話しやすい場にするのが良かろう」


「そうですね。ご忠告ありがとうございます。まだ1カ月はありますから、レオンとの接し方については私も考えてみます。ですが、話題にはそれほど困らないと思います。恐らくレオンは魔法が趣味のようなものでしょう。そこから話しを広げてみます」

「魔法が趣味か。飛行魔法が既にそうだが、レオンは将来、人の限界を超える魔法技術をこの世にもたらす存在になるのかもな」

 だからといってララを嫁に出す気はないがな……。王の考えはあくまでもブレない。


 父である王の心の内までは読めないララも、これで御使いさまとの約束が果たせると安堵する。それぞれの思惑が動き出す。

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