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異世界貴族につき・・・  作者: 茶と和
第1部 田舎の異端児
26/33

26 地母神

「落ち着きなさい。私の精霊」


「……はっ、この声はエナ様!」

「久しぶりですね、私の精霊。今回、地上から大きな魔力が奉納されたので、一時的に門が開きました。来てみれば、そう、その子なのですね」


「エナ様はレオンをご存じなのですか?」

「その子はレオンというの? 私はその子を産まれる前から知っています。その子は特殊な子です。あなたと会ったのなら、私とも縁があるということですね」


「特殊な子というのは? 確かにレオンは、人間では考えられない魔力を持っています。それに、自分は転生者だとも言ってました。異世界から記憶を持ってこの世界に来たのです。確かにレオンの魔法は独特で、異世界から来たのは間違いないと思います」

「そう。その子は元々魔力が高く産まれる予定でした。でも、その子の魂が来た地球という異世界の神、向こうでは天使と呼ばれていますが、その天使がその子を転生者の器に使ったのです。こちらでいう神の加護を与えて」


「でも、レオンは誤差程度の加護だと言っていました。ところでエナ様、こちらの世界の天使と、地球という世界の天使は違うのですか?」

「地球の神や天使、私たちの世界の神や天使は実は同じ存在です。与えられている役割や役職が違うのです。皆、この世界や地球を統括する真の神に仕えています。地球では私たちのような神に仕える者を総じて天使と呼んでいますが、この世界の天使は真の神に直接仕える者だけをそう呼び、私たちに仕える者は眷属神や精霊です。あなたには創造したときにそう伝えたはずですが」


「すみません。失念してました……」

「まったく……まあ良いでしょう。今後は忘れないでください。それから加護の話しでしたね。たとえ神であっても、1人の人間を贔屓するのは限度があります。普通は神の名の加護を与えるのが限界です。でも私たちこの世界の神は、元々高い魔力で産まれるその子を、転生者の器に選んだのが非常に興味深かったので、この世界の神の総意として、その子には更に特別な加護を与えることにしました」


「それが今のレオンというわけですか? その加護はかなり強力な加護のようですが……」

「そうですね、その子が元々持っていた『天使の加護』は魔力消費を少し抑える程度でしたが、我々は、魔力を大幅に抑える加護をその子に与えました。その名も『天使の寵愛』という加護です。魔力消費を10分の1に抑えます。『天使の加護』の効果も合わせて魔力消費を95%抑えることができます。『天使の寵愛』は、その子の今後の活躍によっては、名前を変えて実用化を検討します」


「そんな加護を? それは確かに6柱の名の加護をも越えるものです。それでもレオンの魔力の高さは異常といっても良いです」

「それは、元々の魔力が高く産まれる予定なのに、向こうの天使が魔力を上げる加護を与えたせいです。その子の魔力はもう人間の域を超えています」


「私の予想ではエルフの長老並みの魔力です」

「その子が成人になる頃には、今よりも2~3倍の魔力を得ていることでしょう」


「そんなにですか?」

「向こうの天使は、その子が生まれる際に、魔力が5倍になる加護を与えました。ここからは例え話になります。普通に生まれてくる人間の魔力量を50とすれば、5倍の加護なら250で産まれることになります。成長による魔力量の増加は、大体5倍ほどなので、成人でも1250です。ですが、その子の場合、人間の魔力量としては多い500で産まれる予定でした。加護がなければ、成長してもエルフの平均的な魔力量より少し劣るくらいです。でも、その子は5倍の加護によって2500で産まれ、さらに成長による増加で、最高12500まで魔力が上がる計算になります」


「いまより2~3倍の魔力量というのは、エルフの長老でも恐らく持っていません。しかも魔力消費を抑える加護まで与えるなんて……。でも、それによる地上の影響は? 既にこの国の王がレオンの魔法を見て研究材料にしようとしています」

「もう影響が出ていましたか。いい傾向です。その子はこのままでいいでしょう。あなたは引き続き、その子を見守りなさい」


「でも、レオンはここから離れたところに行くと言ってました。私はここを離れられません」

「そうですか。ちょうどいいからその子の魔力を使って、もう1人私の精霊を増やしましょう」


「ちょっと待って下さい。そのレオンはさっきから動かないのですが」

「一時的な魔力の欠乏で気絶したのでしょう。私の声が聞こえないからちょうどいいわ。普通、これだけ魔力奉納すればこのまま召されるところですが、その子は運が良いのね。でも、神である存在が地上に何かをもたらす場合、地上からの願いと魔力奉納が必要です。その子は私に恵みを与えて欲しいと願ったので、私の精霊を増やすことが可能です。今はその魔力を貰うしかありません」


「それで本当にレオンが召されたらどうするのですか?」

「安心しなさい。そんなに魔力は使わないから。あなたのような存在ではなく、簡単なお務めだけをできるものにします。この祠の維持は必要ですから」


「それでも安心できないのですが……。それにここを離れると私の力が弱まります」

「力が弱まっても消えることはないのですが。そうですね、それも、その子の魔力を使いましょう。その子は私と縁ができましたので、魔力がつながっていれば、その子自身がこの祠と同じようなものです。動く祠ですね。その子から少しだけ魔力をもらい続ければ、私とずっとつながっている状態を維持できます。それであなたもここから離れられます」


「あの、先ほど気になることをおっしゃっていました。レオンは魔力が高い特殊な子として産まれる予定だったということでしたが、一体どういう理由があってのことなのでしょうか? それに、私にレオンを見守らせることもそうですが、新しい御使いをお創りになってまで、そうしたいというのは特別すぎます」

「そうですね。でもあなたにはその子を見守る役目を命じたので、全てを話してしまうのは、その子の行動に影響が出かねないので止めておきましょう。ただ、その子にはある試練が与えられています。どのような道を選択して行くかは、その子の自由です。私たちが何かに導くことはありません。私たちは結果が知りたいのです」


「魔力が高いということは、魔力が関係する試練なのでしょうか? レオンに与えた加護のことも、レオンの活躍によっては実用化するとおっしゃってましたし」

「……何も聞かずに見守りなさいと命じるのは簡単ですが。そうですね、あなたにはもう少し話しておきましょう。ですが、あなたが納得しようとしまいと、話せる範囲だけです。それと、その子には絶対に話してはだめです。この話を聞けば、あなたの行動も変わる可能性があります。知っているのに話せないのはそれだけ辛いかも知れません。その子に情のようなものがあれば尚更ですよ。それでも話さずにいられますか? それを約束できたら良いでしょう」


「……分かりました。約束は必ず守ります」

「そうですか。先ほどの神と天使のように忘れてはいけませんよ。良いですね? では話しましょう……」


 ◇   ◇


 俺が目覚めたのは、もう日が傾き、あと1時間もすれば日が沈む頃だった。御使い様はようやく目覚めた俺を気遣い、体調や魔力は大丈夫か聞いてきたが、先ほどの魔力の枯渇感はない。少しだるさは残っているが、何とか飛行魔法で飛べるだけの魔力は戻ったようだ。


「御使い様、心配して下さってありがとうございます。もう草むらまで飛べそうです」

「戻ったら今日はもう魔法は使っちゃだめ。知ってるだろうけど、魔力が枯渇すると、人間は最悪の場合死ぬわ」


「そうします。それにしても、この祠で神様に祈ると、あんなに魔力が吸い取られるのですね。びっくりしました。狩人は大丈夫でしょうか? それとも魔人式の祈りが影響したのでしょうか? 実はゼオノス君に聞いた祈り方をしたのです。頭のてっぺんに魔力を集めて、その魔力を捧げるように祈りました」


「……」

「どうしました?」

「この祠はエナ様にとても近いから、それが影響したのね。これからも魔力を捧げて祈るときは、予め魔力量を制限しておきなさい。また倒れるわ」

「そうします」


「それよりもあたしは決めたわ。私の祠で倒れたり、子供なのに魔人と対峙したり、あんたは危なっかしいから、あたしが王都までついて行ってあげる」

「えっ、それは願ってもない事ですが、御使い様はこの森を出られない筈じゃ?」

「本当は出られるの。力が弱くなるから嫌だっただけ。でも、力を維持したまま外に出られる方法が見つかったわ。それで王都にもどこにでも、あんたに付いていけるわ」


「その方法とは?」

「詳しくは言えないけど、あんたの魔力を少しだけもらうわ。あんたがここで祈ったから、エナ様との縁ができたの。あんたを通してこの祠とつながることができるわ」

「そんな中継器のような機能が? でも、少しだけとは言いましたが、どれくらい魔力を渡せばいいのですか? 神様との縁をつなぐなら、結構な魔力が必要だと思いますが?」


 人外の魔力に加えて、地母神との縁までできて、この先俺は一体どこに向かうのだろうか? 少し心配になる。でも縁か…。天使室長は俺が異世界転生を決めたとき「これも何かの縁」と言って送り出してくれた。これも俺がこの世界に来た意味を知る手掛かりになるだろうか。


「普通の人間なら結構な量だけど、あんたの場合はほんのちょっとよ。今後も成長と共に魔力量は増えるだろうから、気にしなくていいわ」

「御使い様がそうおっしゃるなら構わないですが、でも、もし私が王都で死んだら御使い様が困りますね」

「仮にあんたが死んでも、あたしは力が弱くなるだけで、存在自体は消えないから大丈夫だけど……。確かにあんたが死んだら私も困るわね。だからくれぐれも危ないことはしないで頂戴! 前世の技術を使ったとんでもない魔法や、その異常な魔力を気軽に人に見せてはダメよ! 今回のことでよく分かったわ。あんたは巻き込まれ体質なのに、後先考えず、先ずは突っ走る馬鹿だということが。今後はもっと考えて行動しなさい。そうじゃないと人に付け込まれたり、良いように扱われたりして、だんだん追い詰められるわ」


 おぉ……。あまりの言われ様にさすがに落ち込む。確かに、なんでも魔法で解決できると過信していたのは事実だから、何も言い返せない。いまの境遇も、結局は身から出た錆のような気がするし。


「おっしゃる通りです。今後は気を付けます」

「まあ、あたしが付いてくから最悪の事態は回避できるだろうけど、人に何かを頼まれても簡単に了承しないで、一旦持ち帰ってじっくり考えたり、あたしや誰かに相談したりして決めなさい。あたしは貴族のことを知らないから、貴族のことは、知ってる人にちゃんと聞くのよ?」

「なるべく、そうします」


 御使い様との最初の出会いが、ゲームでは中ボスのような森の主の討伐依頼だったのだが、そのときに依頼を断っておけば、果たしてこんなことにはならなかったのだろうか? でも、御使い様との縁は俺の魔法の知識や可能性を広げてくれた。


 この先、どういう道を選択すれば自分にとってベストかは、そのときになってみないと正直分からない。誰かに相談してもそれは同じだろう。でも、誰かに相談することで、視野を広げて物事を考えるのは大事だ。この先、貴族としてやっていくならなおさらだろう。


 自分が失敗や後悔しない選択をするためにも、なるべく多くの意見を聞いたり時間を稼いだりすることが、これまで以上に重要になる。御使い様以外にも、王都で相談できる相手を見つけなくては。トレド侯爵やエセキエル氏が相談相手になってくれるだろうか? フィデル兄さんやカロリーナ姉さんは、……まだ学生だし難しいか。


 御使い様にはその後も散々小言を言われ続けた。日もだいぶ傾き、ようやく解放されそうになったとき、御使い様から「これを付けなさい」といって指輪を渡された。先ほど言った、中継器の役割をするための魔道具のようだ。


 黄色の小さい石が嵌ったもので、男性でも似合うシンプルなデザインだ。この石、魔石に似てる?「その指輪をはめて魔力を通すの」というので、言われるままに指輪を嵌めて、魔力を指輪に近づける。すると、シュルッと魔力が吸われるとともに、指輪の腕の部分が俺の指に吸い付くように締まった感じがした。


 御使い様は「これでエナ様とつながったわ。あんたはエナ様に絶えず魔力を奉納していることになるわ」といった。確かにほんの少し魔力が吸われているようだが、意識しないと気づかない。このくらいなら構わない。


「御使い様、この指輪にある黄色の宝石は魔石ですか?」

「そうよ。その指輪はエナ様に貰ったものだけど、魔石自体はその辺に落ちてるわ」

 えっ!? 思わぬお宝発見に驚く。こんなところに転がっていたのか。さすが未開の森の最奥だな。ほとんど人が来ないから誰にも見つからなかったこともあるが、誰も魔石だと知らないから話題にもならなかったのだろう。


 狩人も魔石のことは知らないだろうから、綺麗な石だと思っても、わざわざ拾わないのかもしれない。でも、魔石と魔法陣があれば魔道具が作れる。落ちてるなら拾って持ち帰っても良いかな?


「魔石は魔力を貯めるものだと聞いています。この指輪に魔石を付けて、何か意味があるのでしょうか?」

「魔石に魔力を貯めておけば、指輪を外さなければならないときでも、エナ様に魔力奉納し続けられるでしょう。その魔石は小さいけど、純度が高いから、魔力奉納なら3日くらいの魔力が貯められるわ」


「この魔石がもっと欲しいです。落ちているなら拾って持ち帰っても良いですか?」

「それは構わないけど。この辺りの魔石はみんな小さいし純度が低いわよ。そんなに魔力は貯められないわ」


「それでもいいです。必要なら魔石を何個も使いますから。ところで、御使い様は魔法陣をご存知ですか? もし、作り方を知っているなら教えていただきたいのですが」

「魔法陣は人間や亜人が使うものね。あたしは必要ないから作り方は知らないわ」

「そうですか。では、今日はこれで失礼します。明日は魔石を拾いに来ます!」

 俺はそういうと、御使い様と別れた。

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