24 研究者
途中で申し訳ありませんが、今回から、「会話文」の字下げを止めました。思い込みでやってしまい、恥ずかしいです。
以前の分は、誤字・脱字を修正する際にまとめて行います。
一報が入ったのは、父がトレド家に挨拶をして戻った夕方だった。
「レオン、魔人が1人掴まったそうだ」
俺は父の言葉を聞いてドキリとする。もしや俺が逃がしたことがばれたんじゃ? 俺は焦りを隠して父に続きを促す。
「どうやら捕まったのは魔人の長らしい。けじめだからと1人住処に残っていたそうだ。ほかは幾つかに分かれて逃げたそうだが、軍は北の山岳地帯を目指したと判断したらしい」
そうか…。アティリオさんは罪を背負って1人残ることにしたのか…。それで少しでも追っ手の勢いが削がれれば良いな。
「そうですか、逃げられたのたのですか。反乱事件に関わった1人とはいえ、捕まった人にはあまり酷いことはしないで欲しいです」
「でもこれで我々が報告したのは、間違いなく15年前の反乱事件で逃げた魔人一族になる。少し肩の荷が下りた心地だ」
「確かにそうですね。これでグラセス家は安泰です…」
「というか、そもそも魔人を見つけて、我が家が疑われるのがおかしいのだ。これで安心して眠れる…。そうだ、お前にナイフを買う約束を果たそう。明日の午後は空いてるから、それでよいか?」
「はい、大丈夫です。ナイフはどんなものが良いのですか?」
「基本は用途に合うもので、自分に扱いやすい長さと重さのバランス、それと握りが自分の手に合ったものだな。握りはある程度調整できるから、あとは長さと重さだな。用途については、森で使うなら枝や藪を切り払ったりできる丈夫なものが良いが、そんなことほとんどしないだろう、何かを切ったり削ったりできる取り回しの良いものが良いだろう」
確かに、ナイフを何に使えばいいかよく分からない。父の言う通り、枝や藪を払たりなんてまずしないだろう、刃渡り15センチくらいで扱いやすいのが一番だな。
ところが翌日の朝になって、近衛から呼び出しがあった。なんでも俺の魔法が見たいのだという。今度は攻撃魔法だそうだ。どうやら危険人物扱いされたらしい…。面倒な思いを抱きつつ、近衛が差し向けた馬車に父と乗る。
行先は王城にある近衛の練兵所だという。城壁と城壁の間にあって、日常的に剣や槍、弓の訓練をしたりする場所のようだ。今は人払いされていて、俺と父、近衛騎士数名と、文官らしい人が何人かしかいない。いずれも国王に拝謁した際に見かけた人ばかりだ。
「近衛騎士団長のアントニオだ。急な予定だが来てくれてありがとう。では、まずは得意な攻撃魔法を見せてもらおうか。ここは左右が城壁になってるから、多少強めの魔法でも大丈夫だ。火でも良いし、地魔法で岩を打ち込んでも構わない」
そうはいってもな…。もう面倒ごとに関わりたくないので、そこそこの魔法を見せて、この程度かと思わせたい。そうなると、父が見せてくれた火柱のようなど派手なものはダメだな。
どうやら父が昔見せてくれた魔法は『ファイアウォール』という火属性の防御魔法らしい。なんで炎の壁で防御できるのか聞いたら、魔法同士がぶつかると、それがどのような魔法であっても、魔力量がものをいうのだとか。
つまり、相手の魔法より魔力量が上回っていれば、相手の魔法を無効化でき、逆ならこっちの魔法が無効化されてしまう。同じくらいの魔力量ならどちらも無効化してしまうらしい。火魔法の『ファイアウォール』は薄く広く展開できるため、その分魔法防御には有利なのだそうだ。
王都に来る途中の馬車の中で、暇だったから父に何気なく聞いたら、とんでもなく重要な答えが返ってきた。魔力量が重要なら、多めに魔力を使って壁のようなものを作るか、鎧みたく体を覆うように魔法を展開すれば、防御は完璧かな? 物理防御も考えると、魔人の里で使った防弾ガラスのような障壁を作るのもいい。
教本には魔法同士がぶつかるとどうなるのかなんて書いてなかった。子供向けの教本なので、魔法の使い方や練習方法がメインで、それ以外の難しい話しは抜けていたのだ。魔法が発動できる喜びばかりで、まだ基礎知識も満足に覚えられていないことに軽いショックを覚えた。
恐らく学び舎で習う『魔法の基礎』という科目なら、そうしたことも教えるかも知れない。俺の場合、学び舎に入るのは3年も先だ。もっと魔法のことが知りたい。魔法の教本は疑わしい部分もあるけど、やはり知識習得には、知識が詰め込まれた教本が必要なのだと改めて思う。
早速、教本にもあった初級魔法の『ファイアボール』というサッカーボールほどの火球を3つ出して、弓の的のような丸い板に当てる。日々の訓練が実り、いまは1度に20個の魔法を出せるが、この程度で良いだろう。団長さんも周りの近衛騎士も満足して頷いている。思惑通り「こんなものか」と思ってくれたかも。
火魔法以外はどうかと聞かれたので、『ストーンバレット』という野球ボールほどの大きさの石弾を3つ作って同じように飛ばす。団長さんが「中々だな」と感心している。ちょっとやりすぎたかな? その後も使える攻撃系の魔法を見せろと言われたので、以前試した、カッターみたいには切れない『ウインドカッター』や『ファイアアロー』を披露する。
一通り攻撃魔法を見せると満足したのか、再び飛行魔法が見たいと言ってきた。あまり人に見せない方が良いとのことなので、1メートルくらいの高さで練兵所を1周する。今度は飛行しながら攻撃魔法が使えるかと聞いてくるので、使ったことがないと答えると、使えるか試してくれという。
言われるままに、火球1つを出して的に当てる。団長さんは「やはり使えるのか。あのスピードと威力ならウォールで対処できるか…」と独りつぶやいていた。最後に団長さんがどのくらいの高さまで上がることができるのか聞いてきたが、これには前回聞かれたときの答えをそのまま伝える。
飛行魔法の公開スペックは、高さ100メートルまで、速度は時速50キロ、持続時間は30分で、1時間ほど休めば10分くらい飛べるとしている。
「今日はご苦労だった。なかなか参考になった。また呼ぶだろうが、そのときもよろしく」
と言い残して団長さんは去っていった。最後のセリフが、完全に厄介ごとに巻き込まれたことを実感させる。しかも、仕事とはいえ、こちらの事情など考慮しようともしない態度に不信感が募る。職務に忠実なのは分かるが、融通は利きそうにないな…。
そして、これ以上の魔法を見せてはいけないと自分自身に警鐘を鳴らす。今のところ飛行魔法を見せたのは失敗だったな。できるだけ王家や近衛とは距離を置きたい。
「レオン君。君の魔法はやはり素晴らしい」
俺の魔法をずっと見続けていた文官らしいおじさんが急に話しかけてきた。
「ありがとうございます」
俺は社交辞令で挨拶を返す。
「王立魔法研究所のエセキエルだ。研究所の所長を務めている。レオン君は魔法の神髄に触れてみたいと思わないかね? 魔法研は国内最高の頭脳を持つ魔法研究の専門家集団だ。君が魔法に求めるものはきっと魔法研にある。一緒に答えに辿り着こう」
俺は御使い様に会えるから結構です。精霊を魔素だと信じている方と辿り着けるとは思えません。
「私の場合、学び舎にも入っていない子供ですよ。専門家集団の中に入って何かできるとは思えません」
「そうです。レオンはまだ8歳ですよ。ついこの間、読み書きや計算といった基礎的な勉強を始めたばかりです。研究所でお役に立てるとしたら、レオンの魔力を利用したあなた方専門家の研究でしょう? そんな自分たちに都合のいい口車で、うちの息子を利用しないで頂きたい」
父がかなり辛辣なことをいう。でも確かにこれはおかしい。魔法研究所というなら、やっているのは魔法の研究だ。基礎知識もないであろう子供を勧誘するのはあり得ない。あるとすれば、父が言ったように、俺の魔力や飛行魔法のような発想を利用したいということだろう。
「それは正解でもあり、誤りでもある」
「言葉で煙に巻くおつもりか?」
「もちろん違います。レオン君、君は相当魔力が強いね。一体どうやってその魔力を得たのかね? 今日、君が披露した魔法の数々を見て私は確信したよ。君は精霊の加護を持っているね」
正確には天使の加護だが、精霊の加護を、魔素との反応や融合の高さと考える、この世界の常識から、この人は明らかに外れている。
「私は精霊の加護を持っていません…」
「うん。精霊からそう言われたのかい? それとも精霊じゃない別の加護かな? 君が何らかの加護を持っていなければ、あの魔力はあり得ないよ。君は気づいてないかも知れないが、あれだけ攻撃魔法を放って、まだ飛行魔法を使えるというのは、人の力では不可能だ。君は魔素を意識していないそうじゃないか。トレド侯爵から聞いたよ。実は私の専門は魔素の研究だ。若い頃は、誰も辿り着けない魔素の謎に迫ろうと躍起になっていた。だが、研究すればするほど、魔素の存在が疑わしくなる。そして私は仮説を立てることにした。魔素はこの世に存在せず、別の要素が魔法を発動させている。辿り着いたのは神話にある精霊と精霊の加護だ。神に近い存在の精霊が、人の魔力を使って魔法を発動させる。だから何もないところから火や風を生み出す奇跡を起こせるのだと。でもそれを証明する手立てはない」
この人は研究でそこまで辿り着いたのか? だとすれば、この世界では凄いことだ。俺は一気にこの人に興味が湧く。だが、それとこれとは話は別だ。俺の秘密を話すわけにはいかない。
「私は生まれつき魔力が高かったそうです。私の魔力が高いのと、精霊はやはり関係ないと思います。また、確かに私は魔力と魔素の反応や融合を意識していません。その必要がなく魔法を使えるからです。私の場合、生まれつき魔力が高かった、魔素を意識しなくても魔法が使えるというのが真実です」
「そうなると、加護はどうなるかな? 生まれつき魔力が高いということは、加護を持って生まれたということかな?」
おお、御使い様以来の鋭い指摘だ。これは誤魔化せないかも知れない。
「そもそも精霊の加護とはどういうものですか?」
「精霊の加護とは、魔法を効率よく使うためのものだといえる。普通の人が10の魔力を使わなければ発動しない魔法を、半分で済ませたりできるのだ。加護にもランクというものがあって、最も上が光の精霊の加護、次いで地母神の精霊の加護、それから火や水といった4神の精霊の加護という、6柱に関係する加護がある。更に眷属神の精霊の加護もあるようだ。神から直接与えられるのは稀で、ほとんどは精霊が届けてくれるらしい。だから“精霊の加護”というのだ。ただ、これは神話を調べてそう私がそう判断したもので、実のところ確証はない」
もしそれが本当なら、俺の天使の加護はどういうものなのだろう? 元々魔力が高いうえに、天使の加護まで貰っている訳だが、天使室長は誤差程度、御使い様は誤差じゃ収まらないと言った。その加護のランクというのが分からないけど、確かに俺の魔法効率は良いだろう。
「これ以上はここではお話しできません。改めて時間をいただきたいと思います」
「なら、これから魔法研に来たまえ。私の執務室で続きを話そう。ここからなら、馬車を使えばすぐだ」
エセキエル氏は今すぐ行こうと迫る。このまま逃したくはないらしい。もう既に厄介ごとに巻き込まれているのだなと実感する。
「父上はどうですか?」
「私も午前の予定はキャンセルし、午後はお前と買い物に行く予定だけだったから、一緒に行こう。エセキエル氏もよろしいですね」
「どうぞ。歓迎します」
話しを一旦切り上げると、3人でエセキエル氏の馬車に乗り魔法研究所の建物に向かう。
研究所は、王城の隣の丘に建てられており、一度、裏手の門から王城を出て、研究所に向かう。かつては王城を守る砦だったのを改装したのだという。研究所に続く道は狭く、丘を上る道は1本しかないが、丘の手前で王城と貴族街から続く道が合流するので、貴族街からも直接来ることができる。
父と俺はエセキエル氏の執務室に入り、勧められるままにソファーに座った。エセキエル氏が秘書にお茶を頼み、お茶が運ばれて秘書が去ると、早速話を切り出した。
「実は国王陛下から、内々にレオン君の身柄を魔法研で預かるよう言われています。ただ、レオン君がそれを了承し、ある条件を受け入れた場合です」
「レオンを王都に留め置くということですか? 陛下の意向なら従わざるを得ませんが、その条件とは一体どのようなものですか?」
俺も気になることを、父が尋ねる。
「レオン君に爵位を与えるというものです。正式には成人後になりますが、陛下がお認めになった時点で爵位相当の報酬が与えられ、魔法研で預かることになります。それほど飛行魔法は衝撃的だったということです。何しろ人類初の魔法ですから。神話に空を飛ぶ英雄の話しがありますが、まさに神話級です」
爵位? そんな話しがあったのか? 横で父も驚いている。成人後という条件があるとはいえ、まさか8歳の子供に爵位とは…。でも嬉しくない。
隠さずに話してくれたエセキエル氏には悪いが、アントニオとかいう近衛騎士団長の態度を見れば、俺はずいぶん警戒されている。爵位を与えるのは、俺に是が非でも協力させるためだろう。そんな思惑が透けて見える王都にはできれば長居したくない。早く領都に帰って自由に魔法を極めたいのだ。
だが、魔法を極めたいならこの研究所に出入りできる境遇も捨てがたいのは事実だ。ここは間違いなく魔法研究の国内最高機関なのだろう。
エセキエル氏は魔素の存在を否定し、俺が加護持ちであると言い当てたのだ。
研究に基づくデータを積み重ね、真実に辿り着く姿は、前世で見た研究者の姿に似ている。前世の俺は仕事柄、大学の研究室や研究機関に出入りしていた。基礎研究という地味な分野だったが、新たな機能の解明や、構造解析できたときの研究者というのは、どこか研究に裏打ちされた力強さや自信を持っている。
「そうですか。レオンにそんな話しが…。でも、レオンが了承した場合ということは、選択権はレオンと当家にあるということですね」
「まあその通りです。私としては、是非ともレオン君をこの魔法研に迎え入れ、魔法研究を共にしたいと考えています。先ほど話した精霊の加護のこととかね。ところで、レオン君は魔素の存在を否定しているようだけど、何かそう思うことがあったのかい?」
「そうですね。魔法を使うのに、魔力以外のものが関係しているのは間違いないでしょうが、それが教本に書いてある魔素かどうかは分かりません。私の場合、魔素を意識しなくても魔法が発動するので、魔素であろうとなかろうと関係ないのです。でも、あえて言うなら、魔素は人が多く、魔法を大量に使っている都市部や、閉鎖された空間では薄く、逆に自然豊かなところが多いとされていますが、私が魔法を使った限り、そのような魔素の濃淡はないです。そうでなければ飛行魔法は安定せず、危なくて使えません」
俺は、自身の経験に基づき、魔素の矛盾を指摘してみる。
「レオン君のような魔力持ちはまずいないので、これまで誰もそのような検証はできなかった。それだけでも君が魔法研に来てくれるのは、今後の魔法研究にとってプラスになる。それに、どのみち君の飛行魔法は王国にとって研究対象だ。この国にいる限りそれは変わらない。魔法研でなくとも、近衛や軍が強制的に研究に参加させようとするだろう。それなら、少しでも自分に良い条件を勝ち取った方が良いと思わないかい?」
正直言ってこれ以上の厄介ごとは御免被りたい。でも、どうせ強制参加させられるなら、自分にとって良い条件を勝ち取った方が良いと言うエセキエル氏の意見も一理ある。
「私が飛行魔法の研究に協力する場合でも、大人のように働けるとは思えません。王国や研究所ではどのような待遇や条件を付けてくるのでしょう? また、私たちからの要望には応えてくれるのですか?」
俺が前向きに考え始めたのを察したエセキエル氏が嬉しそうな笑顔で、これまでに考えてきた待遇や条件について話し始める。父も口を挟まずエセキエル氏の話を聞いている。
「まず、陛下が明言した待遇としては、レオン君に爵位を与え、その爵位に対する報酬と、必要なら魔法研の研究員もしくは特別研究員として遇し良いとするものだった。魔法研の研究員や特別研究員は、任期が2年の更新制で、官職でも高給な部類に入るから生活面はあまり心配ないと思う。それに、君が王都で暮らすならトレド侯爵の侯爵邸に寄宿して良いそうだよ」
トレド侯爵は俺がこうなることを織り込み済みだったのか? それとも上手く嵌められた? いずれにしろ外堀は埋まっているとみていい…。父も苦い顔をしている。
「それと、これは私が研究所所長として考えた待遇だが、レオン君には研究室と秘書を付ける。君の存在をなるべく隠したいのと、行動を管理させてもらうためには必要だ。また、原則定時で残業はなし。休息日以外の休暇日も与えよう。初めのうちは近衛騎士団が研究を急かすだろうから、実験などデータ収集に付き合ってもらうので、忙しいだろうけどね。それと、近衛騎士団から送り迎えの馬車と護衛が付くことになる。その上で、グラセス男爵やレオン君の要望にはできるだけ応えよう」
近衛の護衛付きというのは聞こえが良いが、ようは監視が目的なのだろう。外出などの行動はかなり制約されそうだ。でもそれ以外は悪い条件ではない。初めは忙しいというのがどの程度かは分からないけれど。
「レオンはまだ8歳の子供です。そのことは十分に配慮いただきたい。そして、この件はいつまでに返事をすればよいのですか? 今聞いたばかりなので、こちらからの要望も含めて考える時間が欲しいです。できれば家族とも相談したいですが、時間がなければレオンの意向を聞いて返事します」
父も逃れられないと思ったのだろう、考える時間を求めた。俺もゆっくり考えたい。
「爵位を授けるのには少し時間がかかるでしょう。ですが、遠くないうちに爵位の打診はあるかもしれません。それまでには態度を決めておいた方が良いでしょう。領地に帰って家族とお話しするのは、さすがに難しいかも知れませんね。当研究所への要望や条件についても、早めに返事を頂けると助かります」
「分かりました。少なくともトレド侯爵には相談したいのですが、この話はどこまで話して良いのでしょうか?」
「あまり多くの方と相談するのは止めておいた方が良いでしょう。レオン君の飛行魔法は陛下をはじめとする上層部の秘匿扱いです。また、上層部でも飛行魔法を危険視する者がおりました。この件をあまり広めすぎると、レオン君の身に危険が呼ぶ可能性があります」
危険視したのは近衛や軍の関係者だろう。前世でも航空戦力は陸上戦力にとって天敵だった。空中を自由自在に動き回り、弓矢の射程外から一方的に攻撃されてはたまったものじゃない。先ほどの近衛の練兵所でも、使える攻撃系の魔法を見せろとか、飛行魔法を使いながら攻撃魔法が使えるか試せだとか、ずいぶん俺の攻撃魔法を気にしていた。控えめの魔法だけ使っておいて良かったよ。
「分かりました、トレド侯爵は飛行魔法を既にご存知ですので、侯爵には相談いたしますが、他には伏せておきます」
「その方が良いでしょう」
エセキエル氏は続けて俺の方に真面目な顔を向ける。
「レオン君、恐らく先ほどの爵位の件や、研究所で預かることは現実のものになると思う。拒むこともできるだろうが、少なくとも飛行魔法の研究には付き合ってもらうことになる筈だ。君の家は領地持ちの貴族だから、家族と離れて王都で生活してもらうことになるが、君とは家族のように接したいと思っているよ。どうやらトレド侯爵に気に入られているみたいだしね。寂しい気持ちもあるだろうが、王都での生活は決して辛いだけじゃない筈だ。私たちもできるだけ協力すると約束しよう。君には楽しんで魔法を極めて貰いたいのだ」
正直、厄介ごとに巻き込まれた感が拭えないが、エセキエル氏の態度には俺のことを想う誠実さがある。たぶん俺はこの人のお世話になるだろう。俺は「そうなったら、よろしくお願いします」と言って、エセキエル氏と握手を交わした。




