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異世界貴族につき・・・  作者: 茶と和
第1部 田舎の異端児
20/33

20 王の機嫌

ちょっと短いです。

 エルフの薬屋『森と風の詩』を出てからも、しばらく王都探索を続けた。平民街の中ほどには、いくつかの大きなな広場があり、露店も出て、かなりの人で賑わっている。また、至るところに食べ物を売る屋台や店があって、そこかしこからいい匂いを放っている……だが、無一文では仕方ない。買い食いできるだけのお小遣いが欲しい。


 そろそろ頃合いのようだ。今から戻れば、うちの王都邸に着く頃に2時間経ったくらいになる。父はまだ戻っていないだろう。トレド侯爵の王都邸がちょっと離れてるのもあるが、貴族の移動は馬車の準備や挨拶とかで時間がかかるのだ。


 王都邸に戻るとやはり父は戻っていなかった。でもほどなくして戻った父は、この世の終わりを見てきたかのように顔面が固まり、重そうな足取りでソファー向かうと、がっくりと肩を落として座り込んだ。


「父上、何かよろしくないことでもありましたか?」

「レオンよ、もう我が家は終わりかも知れぬ……」

 懇意にしているトレド侯爵に会いに行って、なんでこんなにも落ち込んで帰ってくるのだろう。見当がつかない俺は父に侯爵との会話内容を話すよう促す。話せば父も少しは気が紛れるかも知れない。


「落ち込んでいても仕方ないですよ。私は役に立ちたいからここに来たのです。侯爵様との話を聞かせてください」

「侯爵と、侯爵と懇意にしてるウルティア伯爵にも会ってきた。伯爵は中央貴族で王城の内情に詳しいのだ。それで、先日侯爵の息子で今は近衛騎士の三番隊長を務めているクルロ殿が、私たちが魔人発見の報告に王都に来ると国王陛下に伝えたら、陛下の機嫌がかなり悪かったそうだ。なんでも、わざわざ首を差し出しに来るのか歓迎してやるとか、来たらすぐに登城せよとか…… 侯爵も伯爵も王の真意は分からないそうだ。王都に来たのは失敗だったかも知れない。書面だけで済ませる方法を探せばよかった。あと、8歳の子供はやはり登城できないそうだ」


「……」

 登城できないのは初めから予想できたが、ここまで国王が不機嫌なのは予想外だった。うちが魔人を匿っていたと、誤って伝わったのだろうか? 今回、報告に来たのは、半ばうちが自発的にしたもので、別にばれたからそれを誤魔化しに来たというわけじゃないのに……誤解なら早く解かないと。


「国王陛下が不機嫌なのは、うちが匿っていたと誤解しているのかも知れません。うちにやましいことはありません。陛下の前でも堂々と事実を報告すればいい話しです」

「そうなのだが……。それから、軍の先遣隊が一昨日領地に向かったそうだ。50騎らしいが行き違わなかった。夜間も行軍していたのか、街道を離れて進んでいたのか。我々に接触せずに向かったのはグラセス家を疑っているのか?」

 段々、発想がネガティブになる父の言葉を聞いて、このままでは俺が王都に来た意味がないなと、父と自分自身に発破をかける。


「何を弱気なことを。このままでは謂れのない汚名を着せられますよ。魔人発見は手柄ではありませんか。何でうちが罪人のように言われなきゃならないのですか? 少なくとも懇意にしている侯爵様にだけでも誤解を完全に解いておいた方がいいです」

「侯爵は当家を疑っていない。それだけ信頼があるからな。伯爵も疑っている様子はない。ただ、陛下の機嫌が悪すぎるのだ……」


「会えるのなら、侯爵に合せてください。登城できないなら私がここに来た意味がありません。侯爵の後ろ盾を完璧なものにするためにも、当事者の私が説明するのが筋というものです」

 父はじっと目を見て俺の決意を測っている。決意の度合いと、子供に何ができるのかという疑念を天秤にかけているのだろう。どうやら俺の決意が勝った。


「いいだろう。登城の日程はまだ決まっていないが、明日、侯爵に会えるよう手配する」

 そういうと、執事を呼んで面会状を認め、騎士に「急ぎだ!」といって侯爵邸に届けるよう渡した。


 その夜、夕食と湯浴みを済ませた俺は、自室で魔力操作の練習をしつつ、明日のトレド侯爵との会見と、国王の機嫌について考えていた。下手すればお家断絶もあり得そうな事態になったので、明日の侯爵との会見は失敗できない。


 寄らば大樹ではないが、男爵家としては大樹の幹にしっかり掴まっていないと、生き馬の目を抜く貴族社会では簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。曾祖父が創りだしたという侯爵との縁を、いま一度強く結び直すのだ。


 まずは頭の中で整理してみる。今回王都に来た目的は、15年前に起きた王弟による反乱事件に加担したとみられる魔人の一族が、うちのグラセス男爵領の森の中に潜んでいることが確認されたと、王家に報告することだ。


 魔人を見つけたのは俺で、街道近くに現れた魔物を探して森の中に入り、森の西側の岩山付近で全長20メートルの大蛇と、大蛇の近くに魔人2人を偶然目撃した。うち1人は子供だった。これまでに森で生活している狩人からは魔人の目撃情報はなく、かなり慎重に行動していた可能性が高い。


 魔人の発見はあくまで偶然、これまでに目撃報告はないと強調することで、魔人の見事な隠伏ぶりを際立たせ、グラセス家に落ち度がないと印象付ける。侯爵家や王家に通用するかは分からないが、事実なのだからやるしかない。


 8歳の俺が魔人を発見したのに、なぜ今まで見つけられなかったかと言いがかりをつけてくるなら、俺の魔法を見せるしかないだろう。飛行魔法は画期的だし、見せれば説得力は申し分ないと思う。


 何なら『ファイアアロー』とかの攻撃魔法を見せて、攻撃能力も備えているとアピールするのも良い。元々、対ラノス用にも使おうと考えていたから、殺傷性があることは伝わると思う。でも、下手に目立つと面倒なことになりかねないので、教本にあった魔法を見せておいた方が無難かも知れない。弱い魔法でも数を見せれば納得してくれるだろう。『フャイアボール』なら同時に20個出せるのだ。


 あとは国王の機嫌か……それは父に何とか凌いでもらうのと、明日の侯爵との話し合いで後ろ盾になってもらうよう取り付ける。国王の機嫌が悪かったのかはいま考えても仕方がない。単に魔人が許せず、それを見つけたグラセス家も巻き添えを食っただけかもしれない。


 ただ、ここで国王を納得させないと、魔人たちは既に逃げ出しているので、後々面倒になる。今度こそお家断絶もあるかも知れない。魔人を逃がしたことに後悔はないが、家族を危険な目に合せたかも知れないことは反省している。俺が仕出かしたことだ。できるだけのことはやろう……。


 そういえば、トレド侯爵とはどういう人物なのだろう? 冬の社交で一度挨拶はしたが、あの時は大勢いる子供の中の1人だったから、公爵の印象には残ってないはずだ。俺も顔立ちが整ったイケおじだった印象しかない。


 トレド家は王国東部で最大の領地を持ち、うちの領地から近い港町レストリナを領都とする大貴族だ。レストリナは国内最大の貿易港でもあり、内海を隔てた他国との交易や、隣接する正教国とも交易していると聞く。


 お茶やカッフェ、砂糖などの輸入はもちろん、高級な絨毯や毛織物などを扱っている。王国からは小麦などの穀物輸出もあるが、酒類の輸出が多いようだ。うちのワインも輸出の対象になっている。特にうちのワインは品質にこだわっているので、ブランド品として人気があるのだというのは、父の言葉だ。


 トレド侯爵は王国東部最大の領地を持つ実力者であるとともに、商売にも明るい人物なのかも知れない。そうなると、明日の会談は上場企業の代表取締役に会うような感覚か? 情に訴えたり、縋るだけでなく、トレド家という組織にとってのメリットや利益というものを提示しないと、真剣に相手してもらえない可能性もある。

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