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異世界貴族につき・・・  作者: 茶と和
第1部 田舎の異端児
18/33

18 魔人の真実

 魔人たちと出会った翌日も、俺は魔人の住処にやってきていた。昨日の話を受けて、この住処を離れて逃げるのか、それとも玉砕覚悟で戦うことにしたか気になったのだ。御使い様は逃げるだろうと予想していた。俺もそうであって欲しい。


 俺が現れても魔人たちは動揺することはなく、大人たちは淡々と仕事をこなし、子供たちは物珍しそうに遠目からこっちを見ている。俺は家から持ってきたパンとお菓子を子供たちに渡そうと近づくが、ゼオノス君を除いて逃げられた。


 子供たちにしてみれば初めての人間だし、逃亡生活を続けた親からも人間の悪い話を聞いているかも知れない。俺も魔人は初めてだが。


 どうやら、魔人たちはこの住処を離れて逃げることを決めたようだ。大人たちは旅支度をはじめており、食料の肉や野菜を乾燥させて保存食を作ったり、山越えに備えているのか、厚手の防寒着や雨風を凌ぐ盾のようなものを作ったりしていた。あとで里長のアティリオさんにでも聞いてみよう。


 唯一残ったゼオノス君だけは、昨日のこともあってか、俺を避ける様子はないので、近づいて声をかける。


「ゼオノス君、体はもう大丈夫なの?」

「昨日はありがとう。擦りむいただけだし、君が治してくれたから大丈夫だ。両親にはなんであんなところにいたんだって、叱られたけど」

「そういえば、なんであんなところにいたの?」

「あの崖の先に弓を練習する場所があるんだ。だけど、歩いてる途中で、肩に担いでいた弓が落ちそうになって、慌てたらた足を滑らせて、あそこに落ちちゃったんだ」


「そうか。でも無事で良かったよ。これ少ないけどパンとお菓子なんだ。みんなで分けて食べてよ」

 といって篭ごとゼオノス君に渡す。三馬鹿にあげるからといって多めに作ってもらったのだ。本当にあいつらは貰えるものは何でも貰うからな。だから、篭の中にはカンパーニュのような硬めで半円形のパンが8個、ビスケットが40枚入っている。多少保存が効くから、逃亡中の食事にもなるだろう。


「パン? 僕は食べたことがないけど、昔お母さんに聞いたことがある。ありがとう。みんなで分けて食べるね」

 そうか、ここじゃパンなんて食べられないよな。あんな畑じゃ採れるものは限られるし。普段は干し肉とか魚、木の実や食べられる草、きのこくらいだろう。


「今日は御使い様と一緒じゃないの?」

 俺が考え込んでいるとゼオノス君が御使い様のことを聞いてきた。

「いつも待ち合わせするところにいなかったから、今日は1人で来たんだ。でも御使い様はきみたち魔人のことを心配してたから、たぶん今日も顔を見せに来ると思うよ」


 昨日の別れ際に御使い様は魔人が逃げるなら道案内すると言っていた。それだけ魔人のことが気になるようだ。御使い様が見られるゼオノス君もいるし、無事に逃げ伸びて欲しいのだろう。


「そうか。良かったよ。もしかしたら御使い様が見えなくなっちゃったのかと思ったよ」

「そういえば、ゼオノス君は森の神様に食べ物を下さいとお願いしてたと言ってたけど、地母神エナ様には祈っていないんだよね?」

「魔人の神様はラール神なので、祈るのはラール神だけだ。森の神様には、本当にいるのなら食べ物を下さいとお願いしてたんだ」


 俺の場合は、御使い様が珍しい魔力と言ってたので、やはり転生者か、天使室長の加護が関係していると思うが、ゼオノス君は転生者ではない。特に魔力が強いわけでも、エナ様を信仰しているわけでもない。そうなると、御使い様が見えるのはなぜだろう。体質とかかな?


「ラール神への祈りや森の神様にお願いするときに、何か特別なことをしたり、魔力を使ったりしてるの?」

「祈りを捧げるときは、魔力をできるだけ頭のてっぺんに集中するんだ。森の神様にお願いするときもそうしてた」


 おっと、魔力をそんな風に使うのか。知らなかった。魔人独特の祈りの方法なのか? それとも、人間の聖職者や魔力がある人は、同じようなことしてるのだろうか? それがヒントになるかも知れない。御使い様がなぜ見えかも解明したいが、癒しの魔法とか祝詞は、神様に魔力を捧げて直接力を使ってもらう方法だから、祝詞の謎解明にも役立つかも知れない。あとでいろいろ試してみよう。


「僕からもいいかな? 君の飛行魔法はどうやってるの? 使ってみたいんだけど」

 おっ、もしかしたら人外仲間ができるかも。俺は調子に乗ってゼオノス君に飛行魔法を伝授することにした。


 まずは風魔法が使えるか聞いてみると、使えると言うので、それを靴裏に限りなく近づけて、上に一気に放出するイメージで使うように指示を出す。初めは風だけが勢いよく舞ったが、今度はその風を小さい穴からたくさん出すイメージで放出するようにと指示すると、少しだけ浮いたのだ。


 ゼオノス君、中々見どころあるじゃないか! でも魔力がもう切れそうだから、長い時間は無理だと言って、膝から崩れ落ちた。まあ人外は1日にしてならずだ……。


 そのあと、折角だから、その応用というか、出発点である『フライボード魔法』も伝授しておいた。ジェット噴射に慣れれば、飛行魔法も上手くなるかも知れない。あとは体内の魔力をいかに上げるかだな。こればかりはどうすれば良いのか分からないのだ。


 何しろこの間まで、精神集中して魔力と魔素の反応を良くする練習をすれば、魔力量も上がると思ってたので、成長する以外の上げ方がさっぱりだ。これはもうゼオノス君に頑張ってもらうしかない。


 ゼオノス君を特訓していると、ゼオノス君の父親のロレルカさんがやってきた。ロレルカさんは父親である里長のアティリオさんの代りに逃亡準備の陣頭指揮を執っていたようだ。


 ロレルカさんは「本当に済まなかった」と改めて謝罪するととも、「皆で逃げることにした。君が言った通り、山岳地帯を抜けて故郷の北の地を目指すつもりだ」と告げられて、正直ほっとした。


 予定としては、3日後にここを出るという。子供もいるからなるべく早く出たいのだが、全部で23人いるので、できるだけ食料調達してから出発したいのだそうだ。俺は、御使い様が道案内を買って出てくれたから、山岳地帯の途中までは迷わず行けるだろうと話すと、途中まででも助かるといって頭を下げられた。

 見えない御使い様に頭を下げたのだろうが、すみません。今はここにいません……。


 気になっていたので、大蛇はどうするのか聞いてみたら、一緒に連れていくという。食料が足りなくなるのではと心配したが、ポッカは数日食べなくても平気だし、あの図体でも狩りが得意だから心配いらないと返された。


 大蛇の名前はポッカというらしい。見かけによらず可愛い名前を付けたものだと思ったが、15年前に連れてきたときは1メートルくらいの子供だったそうだ。そりゃそうか。あんなでかいの連れてここまで逃げてきた筈ないよな。それにしてもずいぶん育ったものだ。この森は結構豊かなのかも知れない。


 ポッカには別行動させてリエルタ王国軍を引きつけてもらい、山岳地帯手前で落ち合う予定だそうだ。そして、いざというときはポッカに王国軍の相手をしてもらうのだともという。どうやら、あの大蛇には魔人に従うよう呪術をかけており、簡単な命令には従うらしい。もっと小さければ俺もぜひ欲しい。


 そして、折角だから15年前の王弟反乱事件について聞いてみることにした。魔人側の話を聞く機会はもうないだろうし、もし王都に行って説明するなら、役立つかも知れないと思ったのだ。


 ここにいる魔人は、確かに王弟の反乱に加担した一族だし、昨日はロレルカさんから弓を向けられて、殺されそうになった。でも今は落ち着いた態度で俺に接している。追い詰められた犯罪者なら、貴族の俺を拘束して交渉に利用しようと考えそうだが、そもそもロレルカさん以外は俺に武器さえ向けていないのだ。


 里長のアティリオさんの態度も犯罪者とは思えないほど初めから柔らかかった。


「信じてもらえないだろうが、私たちは王弟に騙されたようなものだ。反乱に加わったのは事実だから諦めの気持ちもあるが、騙された悔しさの方が強い」

「騙されたというのは?」

「我々はかつて、リエルタ王国に先祖の土地を奪われたのだ。王弟のディエゴはそれを返すから王位簒奪を手伝えと言ってきた。土地と共に一緒に奪った一族の宝石を持参し、これも返すからと我々を信じ込ませようとしたのだ。最初は断ったのだが、その宝石を見た途端、我々は手伝うことを約束した。恐らくその宝石には、魅了の呪術か何らかの魔術がかけられていて、見た者を、術者の意に従わせるような術がかかっていたのだ」


 ここでも呪術か。この世界では魔法や魔術、呪術といった言葉があってややこしい。簡単に分けると、人間は大体魔法と呼ぶ。頭の中でイメージしたものを実現するのは単なる魔法、イメージではなく言葉で魔法にするのは、祝詞や詠唱魔法と呼ぶ。エルフやドワーフ、魔人は、魔力を使うものを総じて魔術と呼ぶらしい。祝詞や詠唱が必要なものは詠唱魔術と呼ぶそうだ。もっとも、人間でも魔法のことを魔術と呼ぶ人がいる。


 一方、呪術は主に呪いや精神支配、精神干渉といった、人や動物を支配したり、認識阻害させたりするときに使う魔法のことらしい。人間を含めた亜人共通の呼称で、悪魔はこういった術を使うので、悪魔の呪いや悪魔の呪術という言い方がされるようだ。話しを戻そう。


「悪魔の呪術ですかね?」

「恐らくは。当時はディエゴが悪魔と契約したことは知らなかったのだ。我々が知ったのは、ディエゴの側にいた兄が送ってきた伝令からだった。ディエゴが討たれた直後、側近の1人が悪魔の姿に変わったと……知っていたら会わなかっただろう」

 そうだろう。悪魔と手を組んだ者となど、まともに話せるわけがない。そうすると騙されたというのもあながち嘘じゃないのだな。


「それで計画に加担したのですね。あなた方は貴族や平民を殺して回ったのですか」

「結果的に貴族や平民を殺したのは間違いないが、精神支配を受けても本当に嫌なことは拒否できたようで、殺し回ることは決してしなかった。我々に課せられたのは王都で暴れまわり、兵を引き付けることだ。我々はまず、隠形や幻覚の呪術を使って貴族街へと行き、火炎系の魔術や派手な魔術を使って暴れ回った。そして徐々に商業地区や平民街に移動し、城から兵を引き離していった。我々の作戦は成功したが、肝心のディエゴが討たれたので撤退したのだ」


「その事件では貴族が何人か殺されたと言われています。あなた方は先祖の土地を奪われたと言ってましたが、貴族に恨みがあったのでは?」

「それは多分ディエゴの部隊か、それに従った貴族の誰かだろう。土地を奪われたのは200年も前のことだ。リエルタ王国そのものに恨みはあるいが、今さら貴族の誰かを恨んだりはしない。我々は屋敷の中に入ってまで暴れた訳ではない。貴族の中には我々を討伐しようと屋敷の外で戦った者がいるかも知れないが、意図的に貴族を殺したりはしていない」


「そうですか。意地悪な質問をしました。許してください。王弟が討たれから直ぐに撤退して、辿り着いたのがこの森なのですね?」

「ディエゴが討たれた直後、我々にかけられた術が解かれたのだろう、父も私も正気に戻ったのだ。それですぐに撤退した。でも、ディエゴの側にいた兄達や、王都のかく乱部隊の半数は見捨てるしかなかった。王都に集結したときは60人いたが、逃げるときは38人だった。そして人目につかない森や夜陰に紛れて逃亡した。当初は故郷がある自治領に戻ろうとしたのだが、リエルタ王国が知れば追ってくると考えたので、自治領とは反対のこちらに逃げてきたのだ」


「それは正解ですね。父の話では、王家は自治領にあなた方の身柄引き渡しを求めて兵を派遣したそうです。自治領との交渉や状況証拠からあなた方が自治領に戻ってないと判断し、今も国内に留まり続けているとみています」

「そうか。やはり自治領まで行ったか。故郷には母や姉、親戚たちがいるが、酷いことはされていないだろうか……」


「すみません、そこまで詳しくは聞いていません」

「いいのだ。故郷を出るときに、一応別れは済ませてある。お互いもう関わりない間柄だ。いまのは忘れてくれ」


 15年という歳月と、別れを済ませてあるとはいえ、やはり故郷の肉親のことは気になるのだろう。こんな逃亡生活を続けていれば、余計に望郷の念は強いはず。俺も前世のことは今でも思い出す。家族や友人、会社の同僚……みんな元気でいるだろうか。突然死んだので別れも何も済ませていない……。


「ところで、父の話では、王弟の作戦は杜撰だったからすぐに鎮圧されたそうですが、あなた方の作戦は成功したのですよね? 王弟部隊の作戦や行動はどうだったのですか?」

「ディエゴの行動は、王城を奪還し王を討つということしか聞いてなかった。具体的なことは兄の伝令で戻ってきたスレイドという男から聞いたが、まずは貴族の屋敷をいくつか襲い、それから王城に行き、近衛騎士と乱戦になったそうだ。だが、近衛騎士はさすがに強く、すぐにディエゴは追い詰められたそうだ。我々も正気になってから気づいたが、王位簒奪を謀るなら、目標を王城と王の命に絞り、王都を混乱させる必要はなかったと思う。王城を守るのは近衛騎士だ。王都で誰かが暴れても、王族を守る近衛騎士が鎮圧に動くことはない。無駄に警戒させるだけでむしろ逆効果だ」


 反乱事件は、王弟の才覚の低さから、負けるべくして負けたという感じだな。悪魔と契約しても、別に超常的なことが起きる訳ではないのかも知れない。それともこんな王弟だから、悪魔に付け入る隙を与えたのかな?


 御使い様によれば、悪魔は耳元で囁いて悪事を働かせたり、契約の呪術で悪事を手助けする代わりに願いを叶える手伝いをさせたりするという。確かに魔人にかけられたという魅了の呪術というのは、知らないうちに精神干渉してくるようなので怖い。


 この先、俺が術をかけられる可能性はないかも知れないが、何らかの対応をしておく必要がありそうだ。とりあえず御使い様に解除の祝詞を教えてもらう。自分にかけられた呪いを自分で解くことはできないだろうが、他人にかけられた呪いは解くことができるだろう。今の俺の魔力なら使えると言ってた。手段があるなら知っておきたい。


 悪魔のことは、このケースでだけでは判断できそうにない。もしかしたら俺のまだ知らないケースでは、超常的なことが起こっていたかも知れないのだ。


 前世で読んだファンタジー小説では、悪魔にも格とかがあった。王弟の場合は低級の悪魔と契約したのでこの程度で済んだが、もっと上位の悪魔と契約すれば超常的な現象が頻繁に起きるかも。まあ小説を参考にしても仕方ないのだが……。


 いずれにしても、こんな事件に手を突っ込んでしまった魔人一族というのは哀れだ。以来15年も隠れて過ごしているのだから。そして、今また住処を追われようとしている。子供たちもいるのに、いつまで経っても逃げ回るしかないのは悲しいことだ。今回の必至の山越えで自治領に戻るのを機に、この負の連鎖を断ち切ってもらいたい。


「そういえば、王弟と一緒にいた悪魔の願いというのが何なのかご存知ですか?」

「悪魔が係わっていたと知ったのが、ことが全て終わった後だからな。悪魔の願いは我々にも分からん。悪魔を見たスレイドも特に何も言ってなかった」


「そうですか。ありがとうございました。改めて、王国にはあなたたちのことは伝えたので、情報が届き次第、捕縛の準備を始めると思います。それでも到着までに10日前後は余裕があると思いますが、逃げ切れますか?」

「子供たちの未来のためにも、絶対に逃げ切って見せる。教えてくれてありがとう。実は私たち大人はもう諦めていたのだ。このまま、逃亡者としていつまで逃げ続けなきゃならないのかと思うと毎日不安で……もう死んでもいいかと思っていた。でも、子供たちの元気な姿を見ると、この子たちのために何としなければと思い、今まで生きてきたのだ。今回のことは良い転機になると思う。逃げるとは言っても、それは皆で生きるためなのだから。行き着く先が我々にとって住み良いところか、そうでないのかは分からない。だが、そんなことは今考えても仕方ない。道があるなら進むだけだ。改めて礼をいう、レオン君、本当にありがとう。昨日は弓を向けてしまって済まなかった。君のことは忘れない。ああそうだ、君に迷惑をかけないよう、ここは慌てて逃げたようにしておく。もし掴まっても君のことは誰にも話さないよう皆で決めた。だから安心して欲しい」


 何かを覚悟したロレルカさんの表情は、これから厳しい旅路に向かうとは思えないほど清々しく見える。確かに昨日は殺されそうになったが、この魔人たちとの出会いは決して悪いものではなかったと思う。俺も無事に逃げ切ることを祈ろう。こうして面と向かって再び会うことはないだろうが、山越えが成功し、どこかで生きていて欲しいものだ……。

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