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異世界貴族につき・・・  作者: 茶と和
第1部 田舎の異端児
17/33

17 魔人との邂逅 2

 そのとき、崖から落ちた子供が気づいた。初めはぽかんとしていたが、母親らしい女性がぎゅっと抱きしめて何かを言うと、崖から落ちた恐怖が蘇ってきたのか、まさに号泣し始めた。


 これではもう話どころではないな。俺は要件も伝えたのでお暇しようとしたが、号泣する子供の肘や膝に擦りむいたような痕があったので、少し近づいて治療魔法をかけてあげることにした。子供をキャッチした男性は見たところ大丈夫そうだ。魔人はやはり頑丈なのだな。


 号泣していた子供は何が起きたのか分からず、泣いてる場合じゃないと思ったのか、すぐに泣き止んだ。大人たちも「奇跡なの? こんな魔法見たことないわ」と驚いている。


 さすがは地球の天才たちが生み出した、最先端の再生医療だな……俺の魔法とは全く違うだろうけど。そういえば、森の主の子供だというブラグスも、こんな感じで驚いてたな。あいつも「奇跡か?」と思っていたのかも知れない。


 俺がそんな考えから抜け出すと、崖から落ちた子がじっと俺の方を見ているが分かった。でも、俺と横にいる何かを交互に見ている。俺の横には御使い様がいる。まさか御使い様が見えているのか? 御使い様も気が付いたようで、子供に声をかけようと少し近づく。


「あんた、あたしが見えるの?」

 子供は突然声を掛けられて驚いたのだろう、母親らしい女性に半分身を隠してから「うん」と頷いた。俺も驚いた、しかも声まで聞こえてる。


「ふーん。あんたはレオンと違って魔力はそんなにないけど、あたしのことは見えるのね。転生者なのかしら?」

 俺は御使い様の言葉を聞いて更に驚く。


「御使い様、まさか転生者なら御使い様が見えるということですか?」

「そんなの聞いたことないわね。あの子は人間よりは魔力があるけど、魔人としては普通の子供と同じくらいだわ。転生者なら、みんなあたしが見えるのかも、と思っただけ。あの子が転生者とは断定してないわ」


 びっくりした。この世界には何人も転生者がいるのかと思ってしまった。でも転生者じゃなかったらどうして御使い様が見えるのだろう? 何か魔力量以外の条件があるのだろうか?


「あんた名前は?」

 突然、御使い様が側に寄ってきたので、子供は慌てて母親らしい人にしがみつくが、空中を浮遊する御使い様から逃れることはできないと思ったのか、諦めの表情で答える。


「僕の名前はゼオノス。ロレルカ父さんとイルヴァ母さんの息子です」

 ロレルカ父さんが誰だか分からないが、必死にしがみ付いてる女性がイルヴァ母さんだろう。でも、俺は良いが、声も姿も見えない御使い様の問いかけに答える子供を見て、周りは何が起きてるのか分からない表情だ。


「あの、その、ゼオノス君という子供の近くに、この森に住む、精霊の御使い様がおります。私とゼオノス君にはその御使い様が見えて、会話もできます。いまゼオノス君は御使い様から名前を聞かれたので答えたのです。決して気が触れた訳ではありません」

 そう周りに説明しておく。そうじゃないと俺が精神魔法をかけたように見える。


「もしかしてあんたは転生者なの」

 ゼオノス君は転生者の意味が分からないようだ。ぽかんと口を開けて首を傾ける。

「そう。転生者じゃないようね。では地母神エナ様を信仰しているの?」

 今度の質問は分かったようだ。神様と聞いて自分が信じる神様の名を口にする。


「魔人の神様はラール神だけです。でも食べ物が欲しいから、毎日森の神様にも食べ物を下さいとお願いしてました」

 ラール神は子供のとき母が話してくれた神話によると、天の神ルトの弟神だったな。魔人の始祖ともいわれている神様だ。


「そうなの。ならエナ様に祈りが届けられていたのかもね。それでもあたしが見えるのは不思議だけど、見えるのだからそれでいいわ」

 何がいいのかさっぱりだが、御使い様は細かいことに拘りがないのか、話を打ち切ってしまった。もう少し御使い様が見える条件を明確にしておきたいが、当の本人がそれでいいと言い切ってしまったので、今さらどうにもできない。どのみち、いま重要なのは魔人のことであって、なぜこの子に御使い様が見えるのかではない。


 そんな話をしていると、俺の後ろからシュッと音がして、何かが俺の障壁に当たった。振り向くと魔人数人が俺に弓を向けており、俺は攻撃されたのだと気づいた。「魔法で防御しておいて良かったよ!」なんて思いは出まかせで、本当は攻撃されて動揺しまくりなのだ。いま心臓が自身最速で鼓動している。反射的に距離を取ろうと上空に避難する。


 続けて攻撃魔法の『ファイアボール』を10個自分の周りに展開させる。飛行魔法を使いながら魔法を発動できる最高数だ。見せているだけで実際には落下させない。攻撃魔法も持ってるのだと、びっくりさせてやろうと思ったのだ。魔人に接触したのは失敗だったか? 油断させて背後から襲うつもりだったのか。いろいろ考えを巡らせていると、御使い様がやってきた。


「あのおじいちゃんがあんたに話があるって」

 いや、いきなり背後から子供を襲う相手に、こっちは話すことなんてないのですが。まあ、最初に言い出したのはこっちだし、このまま帰るのも寝覚めが悪そうなので、一応50メートルくらいまで近づいて話を聞いてみることにした。


「済まなかった!」

 おじいちゃんことアティリオさんが頭を下げて謝罪する。周りの者も皆頭を下げた。アティリオの横にもう1人男性がいて、その後ろにゼオノス君とイルヴァさんがいる。男性は先ほど俺に弓を射った本人だ。どうやら親子のようだ。ゼオノス君の父親の、確かロレルカだったか?


「済まなかったではありません。私が魔法で防御していなければ死んでましたよ。子供を後ろから襲うなんて、魔人はずいぶんな歓迎をするのですね。私は初めて魔人と会ったので、だいぶ人の歓迎と違うから驚きました。こちらの話は終わりましたので、私からは何もありません。そちらが何か言いたいことがあれば伺いましょう」

 せめてもの嫌味を込めていう。だいぶ動揺しているので、相手を思いやる言葉を使う余裕はない。


「本当に済まなかった。ゼオノスの父、ロレルカだ。息子の怪我を治してくれたのに弓を向けてしまったことは謝罪する。この通りだ」

 といって両膝をついた。日本の土下座のようで、誠意ある態度に見える。


「それは分かりました。それより、アティリオさんに伝えましたが、リエルタ王国軍が遠くないうちに来ます。私の予想では最速で10日、遅くとも1カ月以内には来るでしょう。どこに逃げるにも準備が必要でしょう?」

「そのことなんだが、私も今聞いたばかりで動揺している。でももうここには居られないことは分かった。里の皆と話し合って明日には結論を出す」

「そうですか。どのような結論を出したとしても、みなさんが出したものなら私からは何も言うことはありません。子供たちを悲しませない結論であることを願います」


 そういうと、俺は早々に魔人の住処を後にする。突然、背後から襲われたから混乱して頭が上手く回らないのだ。御使い様はゼオノス君に挨拶した後、俺に続いてきたが、ずっと何かを考えているようだ。そしていつもの空き地まで戻って来ると何かを決意したように話し出す。


「もし、あの魔人たちが森を出るなら、行けるところまで一緒に行こうかしら」

「魔人を助けるのですか?」

「はじめは、森の主に呪いをかけたのが許せなかったけど、彼らは殺すつもりはなかったわ。むしろ殺してしまったのは私たちの方ね。反省してるわ」

「あの状況では無理もないです。御使い様だって最初は助けてあげたいから術を解除しようとしたのだし、私にも本当は助けてあげたいとおっしゃってました」

「ありがとう。でも、魔人のことを悪く考えすぎてたわ。罪滅ぼしではないけど、折角あたしが見える子がいるのだから、逃げるなら助けてあげたいわ」


「御使い様は行動範囲が決まってるのですか。以前、普段は森の奥の祠にいて、森ならどこへでも行けるとおっしゃってましたが」

「あたしは基本的に森の中ならどこでも行けるわ。森から離れても大丈夫だけど、あの祠をしばらく離れると力が抜けてくるの。10日くらいは大丈夫だけど……でも北の山の途中までは行けるかも」

「道なんてないでしょうから、御使い様が空から通れそうなところを教えてあげるなら、険しい山岳地帯を抜けて北の地に辿り着けるかもしれませんね。もちろん魔人たちが北の地に逃げるならですが」

「多分そうなると思うわ。みんなもう今の生活に疲れてそうだったし、どのみち、あそこでの生活は長くなかったと思う」


 俺を背後から襲ったのは許せないが、やはり誰も死んでほしくない。できればみんなで一緒に故郷のある北の地に逃げてほしい。特に俺くらいの子供まで過酷な生活を強いられているのには同情してしまう。大人たちは反乱事件の逃亡者だから、厳しい生活を受け入れられるだろうが、それを子供に押し付けるのは違うと思う。


 一方で、15年前の反乱事件で、魔人たちに肉親を殺された貴族の恨みも強いだろう。俺だって肉親を殺されたら、相手を八つ裂きにしたいと思うかも知れない。


 現国王は当事者だから、生半可な言い訳は通じないだろう。下手したら家が取り潰される可能性があるのだ。男爵家なんていくらでも替えが利くはずだ。今更ながら自分の置かれている立場に身震いする。


 でも、ゼオノス君のほかにも子供が何人かいた。あの子供たちに罪はない。俺が魔人たちに逃げろと言ったのは間違いではないと思いたい。


 ふと、前世で見た難民の子供たちの映像が頭をよぎる。少し募金をしただけで助けた気になってた。そんな単純なら毎日募金を求めたりはしない。結局、俺は誰も不幸になってほしくないのだ。偽善者なのだな……。

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